14 トラ・トラ・トラ(リメイク) 2

さっきまでエヴァンゲリオンだのオヴァンゲリオンだの言ってたからさぞ凄いものがカーゴにあるのだろうと思って期待していたのだけれど、案内されたのは軍が毎年GWやSWに行っている基地お披露目の時に公開されている戦車や装甲車などが陳列されている場所だ。
子供が初めてここに案内されたら歓喜の声をあげるのだろうけれど、俺のような大人にはせいぜい写真をaiPhoneで撮ってTwitterで「秘密基地なぅ」とかデマ情報を吐くぐらいしか使いみちがない。
「秘密基地なぅ」
「おい、やめるんだ」
すぐにマダオに阻止される。
「なんだよ、Twitterにアップしてもここが本当に南軍のカーゴ内かはわからないから大丈夫だよ」
「位置情報やカーゴ内の軍機配置から特定されて極右派の人間にリツイートされ、軍の機密を暴露するなんちゃって左翼とレッテルを貼られて、3日もしないうちに自宅と学校・職場を特定されて放火されるぞ」
「ひぃッ」
えらく詳しいな、やったことあるのかこのオッサン…。
俺はカーゴ内を見渡しながら、
「それでぇ、ドロイドバスターに匹敵しうる凄まじい相棒っていうのはどこにいるのかな?あの多脚戦車?」
と、俺がドロイドバスターに最初に戦闘した全長10メートル、高さ3メートルクラスの多脚戦車に駆け寄って行った。
こう間近で見ると本当によく俺1人でこんなのを相手にできたなぁ、と感心する。今でもコイツが街なかを歩いているのを夢に見てしまうほど、あの戦闘はインパクトがあったからだ。この大きさのくせに最新技術でそこらの犬や猫ぐらいに滑らかな動きをするのだ。
「その隣の機体だ」
え?
隣の機体?
見れば戦車の2分の1ぐらいのサイズで肩に超電磁砲を搭載したバッテリー車がある。こいつも凄いんだよなぁ、レールガンを撃つのは映画の中でしか見たことが無かったけれど、周囲の電子機器が一斉に停電になる様とか、あれが実際に起きるんだよな。怖い兵器だよ。
「それではない。その間にある…」
間ァ?
俺の見上げた視線の先には何もない。しいて言うならば見下ろせば俺と背丈が同じような小さな…。
「何もないじゃん」
マダオはメガネをクイッと指で押し上げてから、
「何もないことはないだろう…キミカ君、君の目は節穴か何かか」
そりゃぁ、工場とかで荷物運びを行うドロイドならある。これは戦車とかバッテリー車の装備品を運んでいる最中じゃ…。
「え?」
「それだ」
「これェェエェェェェ?!」
「うむ」
「単身でハワイの米軍を相手に乗り込もうって言うのに、相棒にするのが荷物運び用のクモ型ドロイドだなんて…クソみたいなつまんないテレビ局の無人島で荷物運び用のクモ型ドロイドだけで何日生活できるか企画でやってるわけじゃないんだからさ!!!命かかってんだよ、妹さんも、あたしも!!これテレビで流れたら『はははは』って笑いが起きるところでしょォォォ?!勘弁してよォォォォ!!!」
マダオのネクタイの部分を思いっきり両手で締めあげてあと少しで殺しおわるぐらいの頃に、副官のミサトさんが割り込む。
「これでも優秀な装備がされているのよ。ただの荷物運び用ドロイドに見えるけれど、軍用の対物バリアに15mmチェーンガン装備。電子戦も得意よ。キミカちゃんはハッキングとか出来るの?
「い、いえ…」
俺の手を振りほどきながらマダオが言う。
「そ、それにだ。あまり大きな機体では回天に搭載できない」
「か、回天?何その不吉な名前の…」
「回天だ。特殊潜航艇『回天』」
「まさかこれで敵の戦艦に体当たりしろとか言わないよね!?」
「天から水中へと回りながら突入することからこのネーミングになっているだけだ。正式名は別にある」
「ま、回りながらァ?!」
「ま、回らなかったかもしれない。大丈夫だ、回らない」
おいおいおいおい!!
なんか色々と聞いておきたいことが山ほど出てきたんだけどォ!
「ささ、キミカちゃん、さっそくだけれど出発して。準備はもう万全だから!」などと言いながらミサトさんは俺の背中を押す。
「あぁ、そうだ。キミカ君、もうドロイドバスターに変身しておいたほうがいい」とマダオ。同時に「そうね!それがいいわ」と早口で言うミサトさん。どうなってるんだ?!
「べ、別に現地についてからでもいいじゃん?」
「安全の為だ」
「あ、安全の為ェ?!特殊潜航艇は安全なんじゃないの?!」
「万が一のこともあるからな」
「そうそう、万が一のこともあるからよ。軍のテストでも兵士には対物バリアの武装をさせてから行う予定だったのよ」
「え、ちょっ、テストしてないの?!」
「あっ…」
おいいいいいいいいいいいいい!!!!何て危険なものに俺を載せようとしてるんだよォォォォォラァァァァァ!!!
怒りはしたけれど怒っていても何も始まらない。
イライラしながらも俺はドロイドバスターに変身した。
今しがた着ていた普段着は黒い煙の中で消滅し、裸が見えるか見えないかぐらいのタイミングでドロイドバスターのあの黒い戦闘服へと一気に変わっていく。そして、漆黒の煙が晴れ変身後の俺の姿が現れた。
間近で変身を見たのは初めてなのか、マダオミサトさんも子供のような目の輝きで俺の姿を見ている。
案内されたフロアは既に輸送機がスタンバイ。あの回天と呼ばれる一見するとミサイルのようにも魚雷のようにも見える姿の中に、さっきの小さな荷物運びドロイドが歩いて入っていく。
「これ本当に大丈夫?大丈夫なの?」
俺は経営が危ない遊園地の遊具が問題なく動くかを手で触って確かめるみたいに、回天をペタペタ触って、その後に荷物運び戦車を触った。荷物運び戦車はいきなり声優のアニメ声で「私は問題ありません」と言いやがる。あぁ、失礼失礼。
俺が椅子に腰掛けてベルトを装着したり、遊園地の遊具の身体を固定するアレを装着したりしてると電脳にはケイスケの声が響く。
『軍用回線でのアクセスですにぃ!ハワイに近づいたら米軍のジャミングで切断されるけれど、それまではちゃんとキミカちゃんの生死は確認できますにゃん』
『不吉なことは言わなくていいよ!!』
次はマダオの声だ。
『心配しなくても大丈夫だ。万が一にも回天が空中分解したり、海面衝突時に分解したり、水圧で分解したりしたら飛び出してハワイまで泳いでくれれば無事に到着できる』
『それって無事じゃないよね?!何か起きてるよね、トラブルが!』
と、同時に俺の視覚には女性が泳いでいる教育用ホログラムが表示されやがる。泳ぎ方なんてわかっとるわ!俺は素早くそのホログラムを削除して二度と表示されない設定にする。
最後にミサトさんの電脳通信。
と同時にハッチが締り、この輸送機がゆっくりと滑走路を動いている感覚が俺達に伝わってくる。
『もしタチコマが途中で壊れても回収しなくてもいいわ』
タチコマ?』
『その戦車の名前』
『最初っからそのつもりだよ!っていうか、壊れることなんて想定してないし、回天が空中分解するのも、』
って俺が通信仕掛けた時に輸送機が滑走路に既にいるのか、一気に発進し始める。何故かって、強烈なGが俺の身体に掛かるからだ。
『…水中分解するのも、想定してないよ!!』
と、続きを言う。
もう話してられないぐらいに強烈なGがのしかかる。
そのまま輸送機は上昇…してる…だとゥ?!
斜めにGがかかってるから外が見えなくても輸送機があの南軍ハイヴの地下から地上へと上昇してるのがわかる。レーシングカーみたいな凄まじいエンジン音が響く。防音設備は無いのかよ!
『ゆ、揺れてる揺れてる!!やばい壊れそう!!』
『壊れた?』
『壊れてないよ!壊れそうだよ!!』
俺の電脳に今度は世界地図が…太平洋だ。
って、凄まじい速度で地図が動いてるぞ、ハワイに向かって動いてる!どおりでGがかかってると思ったよ!どんだけ早いんだよこの輸送機!強襲艦レベルじゃんかよ!!
『目標地点に到着した。米軍のレーダー管制に検知されたので、ここで回天を投下する』と、パイロットらしき声が電脳に響く。
『あ、はい、ごくr…』
ご苦労様と言おうと思ったら今度は一気に急降下のGがかかる。
『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!タマヒュンしてる!タマヒュン状態だよォォォォ!!!!』
『キミカちゃんはタマとかないからヒュンしないにゃん』
『やばいやばいやばい!!壊れる!壊れるゥゥ!!』
俺の身体もタチコマの機体も回天の狭い船内で僅かにだが浮いてる。無重力空間になってる。辛うじて固定されてるベルトやらでフラフラするのを防いでる状態だ。
『スタビライザーを起動しました』
今度は電子音。これは回天からの電脳通信か?
船内が一瞬真っ暗になる。
轟音。
凄まじい揺れ。
あの耳の奥が一気にキーンとなる感じがして、メキメキ、パキパキと船体が凄まじい圧力で押しつぶされそうになる感覚だ。
「ひぃぃいぃぃぃぃぃ!!!」
俺は今にも泣きそうな声で叫んでいた。