14 トラ・トラ・トラ(リメイク) 1

「何故ここにいる?」
俺は思わず拍子抜けした。
高校入試で試験会場を間違えて試験官らしき人に「こっちは来ちゃダメだよ」って言われた時と同じような状況である。あの時は俺はテンパってて試験に遅れることもあって普通はうろつかないような場所をうろついていたからな。で、プールサイドの女子更衣室に入ろうとしていたところを体育の先生らしき人に停められて、試験会場を案内してもらった。
…まぁ昔の話はいいとして、なにせマダオに言われてケイスケを連れ戻し、そして妹さんを助ける作戦に参加する許可を得て、今、再び南軍の司令室まで来たからだ。呼び出した本人であるマダオが発したセリフがソレだ。どう考えてもおかしい。頭が。
苦笑いしながら隣でミサトさんが言う。
「ごめんなさいね、エヴァの中で有名なセリフなのよ」
「知らないよ!!!」
マダオが言う。
「そこは『僕は、エヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジです』と言ってほしかったところでもある…いや、無理だと言うのなら『僕が、エヴァンゲリオン初号機です』でもよかった」
「…そっちが呼び出したんでしょうがァッ!!!ケイスケを説得してここまで連れてきたんだからもうs(モゴモゴ…)」
と俺がキレていたところを背後からケイスケが口を塞いだ。
ケイスケがマダオに言うのだ。
まるで碇シンジが自分の父に男の告白をするように。
「全知全能の天才マッド・サイエンティスト『石見佳祐』が、人に頼みごとをすることなど滅多にないのだから、絶対に受け入れて、そして叶えて欲しいですぉ…」
「わかっている」
「キミカちゃんはまだ素人ですにぃ…だから、マダオと南軍でサポートして欲しい…妹を助けてくださいにゃん」
「作戦に私情を挟むことは軍人として失格だが、救出するのがお前の妹だからな。思う存分に私情を挟もう。もとよりお前に頼まれずとも全力でサポートするつもりだ」
言うが早くミサトさんがホログラムの表示をスラスラと切り替える。
司令室の中央には妹さんが連れ去られたであろうアメリカ軍の施設がある…のであろう何かの島が表示されている。
マダオは司令官の椅子へと腰掛けて両肘をついて鼻の前で両手をあわせる、いわゆる格好をつけたような姿で俺に言う。
「ハワイ旅行の経験はあるか?」
「行かないよ、芸能人じゃあるまいし。海外旅行の経験もないよ」
「ならば、これが初めてのハワイ行きになり、初めての海外渡航となるわけか…」
「ついにパスポートが必要とされるわけですね」
「軍事作戦なのでそれは必要ない。我々が準備している」
「はい…」
「ケイスケの妹、石見夏子は現在ハワイ島にいると思われる。『アッパー・ワイスケア・ハイヴ』。米軍の秘密研究所だ。まぁ、既に我々にその存在が知られているから秘密でもなんでもないわけだが」
ハワイの複数ある島々で一番右の島、地図が拡大されて火山のようなものが見え、その裏側にある森林がホログラムに表示される。
「第三次大戦中にアメリカ軍が複数のドロイド・ファクトリーを建設したが、その中でも最も地中奥深くに建設された。今では廃墟…ということになっている。公式ではな」
「ハワイってことは、もう既にアメリカ領内に連れ去られてるじゃん…どうやって侵入するの?」
ミサトさんが手元の端末を操作する。
輸送機が表示され、日本の地図…北九州あたりから飛び立って、びょーんと海の米軍国境線あたりまで線が伸びる。するとホログラムは断面図に切り替わって、輸送機からミサイルのように…いや、銃弾のように凄まじい速さで…黒い塊を海に目掛けて何かを発射した。
そのミサイルらしきものは海にそのままズボッと沈む。
「なにこれ…クソでも垂らしたの?」
「クソではない、これがキミカ君の乗る『特殊潜航艇』だ」
「え、ちょっ…今、高度1000メートルとかいう表示があったよね?!1000メートルから斜めに海面に向けて物凄いスピードで黒いのが『発射』されたよね?!どう考えたって死ぬでしょ?!」
「1000メートルの表示?そんなものがあったか?」
「あったよ!!!ホログラムの映像が断面図になって、飛行機の高さが1000mって書いてあったよ!!!!」
「次は消しておこう」
「おい!」
ホログラムの操作をしながらも別の仕事をしていたミサトさんが言う。
「輸送機から発射された特殊潜航艇が米軍のレーダーにひっかかる限界点なのよ。1000メートルから海面に叩きつけられても壊れないようにできているから心配しないで。輸送機は見つかってもいいけど、特殊潜航艇が米軍に見つかるとマズイから仕方がないの」
「…」
マダオは続ける。
「心配するな。特殊潜航艇で海の旅をする際には攻撃を受けることはないだろう。これについては既に実証済み」
「鳥の高速フン発射みたいに海面に特殊潜航艇を叩きつけるのは?」
「それは今回が初めてだ」
「…」
ホログラムの映像が繊細になり、現地の写真かと見紛うほどになる。ビーチ客が派手なビキニをしていたり、カップルではしゃいでいる…その中を俺が通過するであろう線が伸びてビーチ側のホテルを過ぎて道路を過ぎて、一直線に森の中へ。おい。森かよ。
「特殊潜航艇でハワイ島のワイオリーナ・ビーチかカイム・ビーチのどちらかから進入する…ただし、その際にはあくまで観光客という設定だ。ビーチ客に怪しまれないように水着を着用してもらう。怪しまれないようにビーチから離れた場所で潜航艇から出て、泳いでビーチに近づく」
「はいはい、水着か。水着はいいね、観光客として来たかったよ…ん?ちょっとまって、なんで作戦なのにワイオリーナかカイムって選択肢が出てきてるの?危険じゃない方に決めてよ!」
「そのどちらが警備が手薄なのかまではわからない。もう少し時間が必要なのだ。まぁ、おそらくはどちらもしつこいまでに警備されているだろうな。ワイオリーナ方面の場合はケアアウを経由してワイアケア・フォレストへ侵入、カイムの場合はプーナ・フォレストへ侵入しハイヴを目指す。米国は日本よりも公道に配置されているドロイドやカメラが多い。何かに見つかった場合は警察官が来るまでにはその場所から離れるんだ」
「簡単に言ってくれるねぇ…」
参考資料としてか、交差点に設置されているカメラ、そしてカメラからの映像や、ゴミ拾いをしているドロイド、木の剪定をしているドロイドなどからの視界を交互に映す。
映像は森の中にあるハイヴと呼ばれる地下施設への入り口…らしきもののホログラム表示に切り替わる。
厳重な警備をしているっていうのが素人の俺でもわかる。ドロイドバスターの姿じゃなければ、ここに黙って入ったらどうなるか…少なくとも「こっちに来ちゃダメじゃないか」と促してくれる試験官の甘さはない。ヘタすれば警告なしに撃たれる。
正面には戦車が2台、対戦車ライフルを搭載した装甲車…亀の姿のドロイドらしきものが2台、トラックが出入りしてて、時折、銃を持って歩いている軍人らしき姿もあり。ただし、軍服姿ではなく、工場の作業員のような姿だ。まぁ銃を持って歩いている工場の作業員っていうのもオカシナ話だけれどね。ただ、1つだけ言えるのは、『どう考えても廃墟ではない』ということだ。
「『公式』には彼らはテロリストや雇われ衛兵だが、実際はアメリ海兵隊の訓練を受け、装備を貰った、アメリ海兵隊だ」
「こころしてかかれ、ってことでしょ」
ケイスケが背後から言う。
「心配することはありませんですォ!!!ヤンキーもイワンもボッシュ
もジョンブルもキミカちゃんはみんな平等にぶっ殺してくれますォァッ!!」
「今回の任務はケイスケの妹を奪還することだ。無駄な戦闘は避けるように。とくに市民に発砲するとそれだけで後々面倒なことになる。戦闘はなるべくハイヴ近辺だけにするんだ」
「帰りはどうするの?まさか…」
「泳いでは帰らない。ヒロにある大使館へ向かうんだ」
ミサトさんが続けて言う。
「既に手続きは済んでいるわ。それからマスコミへの情報公開もほぼ同時にね。キミカちゃんが妹さんを助けて大使館へ逃げ込んだと同時に、妹さんがアメリカ人のテロリストグループに連れ去られていたということも、それが妹さんが自力で偶然にも大使館へ逃げ込んでこれたということも、大使館までテロリストが追い掛け回してきたことも全てが世間に明るみにされる。それでも大使館へ向けて発砲するようなら…その場合はアメリカに対する日本のカードが増えるだけになるから、上から止めるよう指示がでるでしょうね。そうなれば作戦成功よ」
「何か質問はあるか?シンジ」
「シンジではありません…えっと、これ全部、1人でやるの?」
「いや、優秀な相棒と共に行動してもらう」
「ほほぉ〜…ドロイドバスターに匹敵しうる奴がいるわけですね」
ミサトさんが言う。
「カーゴでスタンバイしてるわ」
俺達はその『優秀な相棒』がいるであろうカーゴ(南軍基地内の兵器を置く場所)へ向かった。