25 サイト・ログ 1

「いいよなぁ、お前はずっとネットして遊んでて、それが仕事なんだもんなぁ」とコーヒーの香りと共に通り過ぎる影がある。通り過ぎざまに挨拶がわりに皮肉を言うのは小山内の同僚である。それが毎日の日課になっていたし、小山内も皮肉を言われる事が日課の様になっていた。むしろ、それが挨拶だと思っていたとしてもおかしくはない。
皮肉を言う同僚は担当している事件が違うので小山内が何をしているのかは知らないのだ。だから何の事件を担当しているのかではなく文字通り、今彼女が何をしているのか、という視点になる。
「ん〜?ん〜」
小山内も小山内で適当な返事しか返さなかった。最初のうちはそうではなかったがいいかげん相手をするのが飽きてきたのだ。
同僚のなかでもとりわけ年上、年齢は50代ぐらいの刑事が小山内がじっと見つめているディスプレイに顔を近づけて言う。
「本当になにしてるんだ?」
「ネットサーフィン」
「ゲームのサイトじゃないか?これ」
「うん」
「お前、仕事中にこんなのを見たらいかんだろ?」
小山内は振り返ってから彼女の話し掛けてきた同僚を見た。眉間にしわを寄せて、ため息も混じらせながら「仕事中なんですけど…」と言った。
「ん?ああ、そうだよ。仕事中じゃないか。なんでゲームのサイトを見てるんだ?」
「だから…仕事中だって…」
「あの例の事件か。陸なんとか会っていう」
陸風会」
「ああ、それだ。それ」
「検索サイトをいろいろまわっているんですけど、全然ヒットしないんですよね…デマだったのかなぁ?」
「ヒットしてるじゃないか。陸風会」
同僚が指さした先のディスプレイには小山内が検索サイトで引っ張ってきている陸風会に関するサイトが並んでいる。
「違いますよ。陸風会がヒットするのは当たり前じゃないですか。あるんだから。私が探してるのは陸風会を潰そうとしてたって言われてるサイト。陸風会の人がみんな変な死に方してるから、そんなサイトがあるんじゃないかって噂があるらしいんですよね」
「その噂を語っているサイトもないのか?」
「そうなんですよ。思い込みなのかな?陸風会の人に言われて探してるんですけどね」
結局は陸風会というキーワードだけではデータが抽出できず、噂、都市伝説、などなどと捜し回る事となるのだが、結局欠片も見つからなかったのだ。