22 自由から不自由へ 3

尊はその日、事故にあった。
人生で最初で最後の事故となったのだろうか。
彼の乗ったバイクは転倒し、炎上した。
彼を巻き込んで。
意識は飛んだ。燃え盛る炎の中で。
そして…真っ暗闇の中から声がした。
「最も命を脅かす火傷による損傷ですが、なんとか処置する事が出来ました。今は経過を見守るだけですね。完全に治療は出来ません時間を掛けて今よりも良い状態へ持っていく事は出来るでしょう。ただ、手足については…」
酷い痛みが尊の全身を襲い意識が再び遠のきそうになる。
「少し時間が経ちすぎたようです。早ければ接合することも可能だったのですが…」
あまりの激痛に尊の意識はそこでとんだ。
そして再び目を開けると病室にいた。
彼の周囲には医者や看護婦、それに彼の家族もいるようだ。だがそこに居る全員の視線は尊に注がれ、誰しも尊の回復に喜ぶ顔は見せなかった。
(どうしたんだよ?なんでそんな顔するんだよ?…ああ、そうか。俺事故ったんだっけ…ははっ。やっちまったな…でも、こうして病院に運び込まれたのか。なのに、どうして…そんな哀れむような顔するんだよ?)
尊は身体を起こそうとする。
身体を起こせば自分が元気である事が証明出来る、そう思ったから。だが手足の感覚が無いのだ。ベッドに足を置いている感覚も、身体を起こそうとねじれば体重が手に伸し掛かる感覚も、全てが無いのだ。
(なんだ…一体何が起きてるんだ?)
尊は家族や医者達のほうに向いていた顔を自らの手足に向ける。
だが、そこにはあるはずの手足は無かった。
(な、なんだ?何がどうなってる?なんで俺の手足が無い?嘘だ…こんなの嘘だ!!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!)
「うぐっぐっ!!」
「鎮静剤を!!」
「声は、声は出ないんですか?」
「しばらくは…。肺のほうまで火傷がまわっていまして」
再び意識が飛んだ。