22 自由から不自由へ 5

ロイドは船の中にいた。
ジッタの飛空艇の中だ。
一行はキエフまで来て飛空艇のメンテナンスをしたあと、女王と側近、それから風雅達とジニアスを乗せてアルタザールの首都ティリスの側の湖に着水する事となっていた。空中を経由しての移動の提案はジニアスからだ。途中にオークや反政府組織の攻撃を避けるためのアイデアだった。
そしてその船内でロイドは蒸し暑さで目が覚めた。ピリやニス上空に差し掛かっていたのだから蒸し暑さを感じてもおかしくない。この辺りは季節風の影響で下も上も暑い。
夜眠れないロイドは昼間に時々そうやって寝ることが多くなった。だがそれでも悪夢で目が覚める。
(足が…痛いな)
悪夢を見始めてからロイドは時折手や足の痛みを感じていた。何の関係性があるのか、それは医者ではないロイドも感づいていた。手足の痛みは現実の世界の手足の痛みなのだと。ロイドはマハの前では風雅が話は嘘だという風に言った。だが本音は違う。ロイドにとっての現実が病院にいる自分だというのは、風雅が彼に事の真相を話すよりも随分前から感じていたこと、知っていた事だった。
最後の望みを風雅の答えに求めていた。
誰かが自分の現実を真っ向から「全部嘘だ」と否定してくれれば、それだけでロイドは安心出来たのだ。だが、そうはならなかった。
「ロイドさん。ここにいらしたのですか」
話しかけたのはジニアスだった。
「ん?俺を探してたのか?珍しいな」
「ええ。探してましたよ。ずっとね。もうずっと前からアルタザール国民も、元老院も、そして僕も、ずっとあなたの事を探してたんですよ」
「…」
「戻りませんか?アルタザールに」
「なぜだ?」
「これから多分、戦争が始まります。未だかつて無い大きな戦争です。今度は人間相手ではない。オークを相手とした戦争です。アルタザールの近辺でもオーク達の侵出が確認されました。オスナサイルではいくつもの前哨が築かれているという話も流れてきています。もう一度、アルタザールの守護神として戦ってはくれませんか?」
「…ダメだ」
「なぜです?」
「俺は人を助けれるような人間じゃない」
「はは…どうして?助けてきたじゃないですか」
「…とにかく、ダメなんだよ。俺は」
(俺は、人を助けれるような人間じゃねーんだよ。誰かに助けてもらわなきゃ、飯だってろくに食えやしない、芋虫野郎なんだよ)