25 サイト・ログ 3

東屋の乗るタクシーが到着したのは一つの小さな街の警察署だった。
見窄らしい駐車場はアスファルトの劣化が激しく、以前はその駐車場に多くの車が行き来していた事を物語っている。今はといえば、警察のパトカーが数台ほど止まるのみ。合併でその警察署は警察署ではなく、交番へと変わっていたのだが、一部の業務は相変わらず同じ建物を使っているのだった。
「ずいぶんと珍しい人が来るじゃないか」
受付からはオフィスが丸見え。普通は禁煙ルームというスペースが設けられるものだが、今までその必要がなかったのだろう。つまり、オフィスにいる人間全員が喫煙者だったのだろう。タバコの煙をかき分けるように年配のよく声が刑事が東屋に歩み寄ってくる。
「おお、お久しぶりじゃの」
東屋が言う。
「たばこはやめたんかい?」
「うん、健康に悪いってのが健康を悪くしてから気づいたよ」
「ほ〜。それで、今日はなんのようで?」
「ここの事を何か知ってれば教えて欲しいんじゃがな」と東屋が新聞の切り抜きが入っているファイルをテーブルに置く。刑事はそれを手にとってページを眺めていく。
「ふむ…陸風会か」
「偶然にも陸風会の人間だけが不審な事故死だ。同じ時期にこれだけ」と東屋が新聞の切り抜きを指差しながら言う。そして続けて「奇妙と思わんか。ちょうど陸風会がEAI社の訴訟をしている時期にだ」
「多分、これは全部事故として扱われただろうな。いやぁ、あんときに東屋さんみたいな視点で気づくもんはいなかった」
「なんも怪しいことは無かったと?」
「それぞれが事故で扱われたはずだよ」
陸風会からは何か話はあったんかの?」
「いや、俺の知る限りはないな…。この話が出始めたのは陸風会がEAI相手にあげてた訴訟を取り下げた時だ。ネットじゃEAIが差し金を送って陸風会を潰そうとしているとか言われてて、それに感化されたのか知らんが、陸風会から数名がここにやってきて調べて欲しいだのと…」
「それで調べたのかの?」
「いや、全然。そりゃそうだよ、事故として扱っていたからな。今でもそうだ」
「ふむ」
「あんた、まさかこれを掘り起こしてるのか?確かに…EAI絡みの事件といえばそうだが…。東屋さん、警察が事故として扱ったものを掘り返さんほうがええよ、色々なところからの目があるからな」
「今はまだ全然わかっとらんからな。ただ、そんな古い事件を掘り返されて困る人はおらんじゃないか。あんたぐらいしか知っておる人はおらんじゃろうて、なぁ?」
刑事はまるで東屋との話をごまかすようにタバコに火をつけて、それを活きよいよく吸った。それからまたあの大量の煙を吐いた。煙に巻く、という言葉そのままの状況がそこにあった。