10 予測と憶測 2

風雅は潜入開始してから今までに起きた事を思い出しながら、それを開発者としての見解を織り交ぜながら、青井に説明していった。
『青井さん。イベントシステムを覚えていますか?』
『ああ。プレーヤーに何らかの形でイベントが発生してNPCや他のプレーヤーの力を借りながら特定のストーリーを進めていくものだったな』
『まず潜入して一番最初に、そのイベントの中に組み込まれたと思われるんです』
『ふむ』
『それだけなら別に問題はないんですが、イベントに組み込まれた際にその出来事が本当に自分の身に降りかかったかのように思えたんですよ』
『ん?どういう意味だ?』
『例えば夢の中にいたとして、その夢では自分が夢を見ているとは気付かない。気付く場合もありますけども、気付かない場合は夢の中のストーリーに現実の世界の話は何も持ち込まないで、そのストーリーを進めるんです。つまり、これと同じ現象が起きたんです』
『夢…か』
『そうです。この世界にいるプレーヤーは全て、現実の世界の記憶や価値観を持たずに、LOSの世界の中で生きている。これは夢を見ているのと同じ状態ですよね』
それからしばらく通信が途絶えた。青井が千葉教授に何かを聞いているようだった。そして通信が再会。答えが得られたようだ。
『まだ憶測の域はでんのだが、なりきりシステムってのは覚えてるか?』
『なりきりシステム?開発コードですか?』
『ん〜…正式名称は思いだせん。なんたらシフトじゃなかったか?』
『ありましたね。そんな感じの開発が。結局実装はされていませんよね?』
『の、はずだが。動きが酷似している。なりきりシステムってのは物語のなかにどっぷりと浸かれるようにする為に考案された考え方だ。映画や話でも音楽にしても、その中の主人公に自分を重ね合わせて同じ感覚を共有するというものがある。アレを人為的に起こすシステムだった。今考えられる原因としてはその未実装のはずのシステムが稼動しているってのが一つあるな』
『未実装のはずのシステムがなぜ…やはりログオンサーバの不調と関係が?』
『関係があるのかもしれないし、別の要因かもしれない』
青井はうまく説明できない時や分からない時はそんな風に適当な受け答えをする癖があった。風雅はそれで青井が行き詰っている事を理解した。