8 トモダチ 6

どこに行くにも夏美にとって、テトの人形は必須だった。
仮想空間でもそうであるように、ずっと一緒にいなければならない存在になっていた。人形が無くなった時には血眼になって探していた。
その日もいつもの様にログインしてからテトの元へと向かった。
いつものように食べ物を拾っていると、テトが街の方を眺めていた。
街…。夏美の顔が曇る。
そこはティリスと呼ばれた大きな街がある。
この仮想空間にどれぐらい街があるのかは夏見にはまだわからないが、少なくともその街は現実の世界とは比べ物にならないほど沢山の人がいる。もちろん、全てが本物の人間ではなく、中にはAIもいるだろう。だが夏美にはその街に行く勇気はなかった。
「テト、いこう」
夏美がテトの手を引き集落へ帰ろうとしたが、テトは動こうとしなかった。
何を見ているのかと同じ方向を見ると、そこにはティリスの夜の空に上がる花火があった。
「綺麗…」
二人は気がつけばもっと花火が綺麗に見える場所に行こうと森の中をすすんでいった。そして街のすぐ近くの丘まで来ていた。
「綺麗だね」
夏美はテトを膝の上に乗せて一緒に花火を見る。
「ずっと一緒にいたいね」
そう言うとまるでその言葉が通じたように、テトは夏美の指を握っている手に力を込めた。夏美もテトの手に力を込めて握り返した。