8 トモダチ 3

いつしか夏美が寝床にしている木にその奇妙な動物が食べ物を持ってくるようになっていた。
「ありがとう」
夏美は頭を下げてお礼する。
「えっと…なんて呼べばいいのかな」
言葉は通じるはずはなかった。
「そうだ。トテトテ歩くからトテって呼んでもいい?」
その毛むくじゃらの動物は首を傾げた。
「ん〜トテじゃ変かなぁ。じゃあテトで。テト、よろしくね」
夏美はテトと名付けたその動物に握手した。
それから一人と1匹は常に行動を共にするようになった。ゲームにログインしたらまずテトの住む集落に行ってテトを呼んだ。それから二人は森に食べ物を探しに出かけたり、時には近くの人が住む街に行っては手に入れた食べ物を売って得た金で買い物を楽しんだりもした。
ただ、夏美はテトとどこへでも行けるというわけではなかった。正直な気持ちでは、夏美は出来るのなら街には行きたくなかったのだ。そこには人がいるから。
人が嫌いと素直に言う人は居ないだろう。夏美もその一人だ。だが、人前に出ると身体が緊張し呼吸が苦しくなって頭がくらくらする。そして口の中はカラカラに乾燥して気分が悪くなる。それはネットワークゲームの中の仮想空間でも同じだった。人が嫌いかと聞けばそうではない。だが、夏美の体は人を拒絶していた。