8 トモダチ 2

それから何度も仮想空間にログオンした。
時間の感覚はゲーム内も現実の世界も同じだったが、ゲーム内の1日は現実の世界の3時間程度だという事がログアウトして初めてわかった。
夏美は現実の世界の1日に何度もゲームにログインした。ログインしたとしても何か目的があるわけでもない。ただ森の中で木の実を拾っては食べて、そして薪を集めて火をつけたりするだけだ。
そんな事がしばらく続いたある日。
夏美は自分と同じく木の実を拾っている何かを見つけた。
それは毛むくじゃらの身体で犬よりも随分と小さい。身体はリスのような姿だが、サルのように起用に手を動かす。ゲーム内に存在する、現実の世界にはいない動物の一つだった。
「かわいい!」
動物好きな夏美はその異形の動物に近づいて頭でも触ろうと思ったが、すぐに逃げられてしまった。見れば他にも仲間がおり、木の実や薪となるような木の枝などを拾い集めているようだ。
「大丈夫、何もしないから」
そう言って近づくも、やはり言葉は通じないようですぐに逃げられてしまった。だが、決して追えないほどの速さでもないので夏美はその異形の動物の後をつけた。
そして巨大な木々に囲まれた場所に、少し周囲とは違って奇妙に木の枝が密集しているものがいくつもある。つまり、それがその動物達の巣だった。巣と言っても、夏美がそうしたのと同じように薪で火をつけたり、何か別の動物を狩ってそれを料理していたりもする。木の実とは異なる美味しそうな香りが周囲に充満している。
「すごい…ここは村なのかな?」
夏美はゲーム初心者では無い。通常、RPGなら世界のいたるところに村や街があって、そこにはコンピュータが作り出した仮想の人間が住んでいるものだ。だからその場所を村だと思った夏美は、村の中で武器屋や防具屋などが無いかを探した。だがその動物は人間の言葉がわからないばかりか武器や防具などを作る技術などもないようだ。
疲れた夏美はそろそろ夕暮れになっている事もあり、一旦はログアウトしようとした。本来なら普段寝床にしている巨大な木の下に行くべきなのだが、そこまで戻るとなると深夜になってしまう。そこで夏美はその得体の知れぬ動物の寝床を一つ借りて眠る事にした。
適当な彼らの巣の中で比較的広いものを選んで、強引にそこへと入る。夏美がイメージしていたものは、ドキュメンタリー映像などにあるような、巣の中には沢山の子供がいて、そこへ餌を与える動物の母親などがいる事だったが、その比較的大きな巣であっても、中にいた動物は一匹のみ。その一匹は隅のほうで夏美の行動をうかがっている様だ。
「大丈夫だよ、何もしないから」
そう言って夏美はその広い巣の隅にある使われていない寝床に腰を落とす。しばらく夏美の行動を監視していた動物だが、意外な事に、その動物は何かの肉を焼いた食べ物を持ってきたのだ。
「これ、くれるの?」
動物の意外な行動に突然嬉しくなる夏美。疲れも消えてその肉をほおばる。味は焼き鳥に似ている。ただ、それはゲーム内で作り出した味だから、現実に存在する味のどれかを選んだのだろう。
「ありがとう、とっても美味しいよ」
そういって夏美は初めてその動物の頭に触れる事が出来た。