8 トモダチ 1

ゲームの仮想空間は広大だった。
世界の果ては少なくとも夏美の目からは確認できない。あまりにも広大過ぎて、どこかへ行こうという考えは思い浮かばない。ただ目の前のとても素晴らしい景色を楽しんでいく日々を過ごしたいと思っていた。だから夏美は、しばらくの間は森で生活することとした。
森には現実の世界ではありえないほどの巨大な木があり、その根の部分がこれもまた現実にはありえないほどの大きな空洞が出来ている。そこに草などで寝床を作り、木の実などを拾ってはそれを食べて糧とした。ゲームの中でもお腹は空くようで、木の実を食べる事で食欲を満たし、そうする事で幸せな気分になる事が出来た。
寝床で眠ると身体を緩やかな疲れが覆い、身体中の神経が麻痺し始めて深い眠りが訪れる予感がする。それが現実の世界へと戻る合図だ。目が覚めるといつもの自分の部屋に戻っている。
(夢…?)
一瞬夢を見ていたと錯覚する。だが、次第に記憶がよみがえってきて、自分がゲームの世界にいた事が、よみがえる記憶の一つとして存在する。
「いい夢…」
夢ではないと解りながらも、夏美は今まで楽しい夢を見た時と同じように清清しい気分だった。