9 オールド・ソルジャー 4

東屋はほんの少しだけ、昔の事を思い出していた。
研究熱心だった東屋は普段から趣味と仕事の区別はつかず仕事に没頭していた。そしていつしか「鬼の東屋」と呼ばれた。この鬼には二つの意味があって、一つは仕事の鬼という意味。そしてもう一つは、犯人を追う執念が鬼であった事からつけられた呼び名だ。
そのあだ名がつくころには、東屋と一緒に仕事をしたものは過労死するとまで言われていた。事件が起きれば家に帰ることもなく、寝ずに調査を続ける。
「そんなに仕事がしたけりゃ、一人ですればいいでしょ?」
こんなやり取りをオフィスでやった事もあった。
担当した事件も、東屋と彼の相方、つまり彼の部下の苦労の末、犯人逮捕まであと少しというところまで来ていた。そして執念で犯人を追い詰めた、古びたマンションの通路。それは東屋の頭の中を掻き毟る嫌な記憶だった。
二人は麻薬売買に加わったとされる男の住む部屋まで向かい。そこで銃撃戦となった。激しい撃ち合いの中で応援がつくまでの間に彼の相方は撃たれて亡くなった。そして東屋は激高のあまり、犯人を射殺してしまった。
その一件以来、東屋は自分に部下をつける事を拒否した。
そして捜査が困難と思われる仕事は引き受けず、ずっとオフィスの隅で一人黙々と小さな事件を沢山こなすようになった。