9 オールド・ソルジャー 3

東屋はそれからしばらくのあいだ、20分だか30分だか、魚切署の職員が持ってきたお茶をすすっていたが、流石に暇になったのか椅子から離れて小山内の操作している機器を見学した。
「ほう、この機械で犯人を見つけるのかい」
「量子演算ユニットです。犯人を見つけるっていうより、ネットワーク上を流れるデータの解析をするのに使うんです」
「りょうしえんざん…なんだかよくわからんが最近は凄いねぇ」
理解不能なものを見ると余計に頭を使うというのがあらためてわかった東屋はとりあえずその理解不能なものの前から離れようと、またもといた自分のパイプ椅子に深く腰を掛けた。
「あの、東屋さん」
その機器の隙間から東屋に視線を合わす小山内。そして、
「こんな事してて犯人が捕まるんでしょうか?」
「ん?ん〜…。捕まると思うからやってるんじゃないのかね?」
「それは…上からそういわれただけで…。それに、LOSのシステムには外から接続出来なくなってるんです。メンテナンス用の回線もずっと封鎖されたまま。それでバックド・ドアから豊川さんが接続してるんです。ただここに居て機械をいじってても何にも進まないと思うんです」
東屋の目からは小山内は孫の年齢に見えたので、どうしても彼自身の本当の孫と重ねてみてしまう。その彼の本当の孫がお世辞にも立派に働いているわけでもないから、東屋は最初、彼女の事を侮っていたのだ。そして何より、彼女は自分が警察官になった頃の「どのベクトルにも向いてない純粋な正義をどこかに向けたい勢い」を持っている事を確信しつつあった。
そうは思っていても東屋には行動に移すだけの動機はまだなかった。上(本庁)は座っておくだけでいいと定年退職後の刑事を呼んだこともあるし、今まで何かと熱意を振れば若い者は反発して従ってはくれなかった。幾度となく衝突があったからだ。東屋が若い頃の「若い人間」と今の「若い人間」は明らかに異なる。それを何度も心に言い聞かせていた。