6 感覚 4

せっかく霧がいい感じに出ている朝だから山頂まで上がって雲海に沈む川上村を眺めてみようと思っていた雄輝だったが、周囲の奇妙な現象に気味が悪くなり途中で引き返すこととした。
普段なら朝食は殆ど採らない。眠気よりも空腹が勝っているからだ。だがその朝は何故か身体に疲れや眠気がなく自然と空腹に襲われた。仕方なく雄輝は食パンをいくつか切り出してそれをトースターにセットした。チンと音がしてからジャムが無い事に気付き冷蔵庫からだす。
さっそく食べ始めようとしたときどこから入ってきたのかハエが飛び始める。パンやそれに塗ったバターやジャムの香りに気付いたのだろう。その周りを周回し始める。
「はぁ。もうそんな季節なのかよ」
とか言いながら、ハエを追い払おうと手で宙を仰ぐ。
その時は偶然なのか手のひらがハエに直撃して文字通り打ち落とした。
「っおお、すげ」
だが、思えば雄輝はハエがどこにいるのか把握していた。見たわけではないのでそれを感と呼べばいいのかは微妙だが、同時にあわよくば叩き落してやろうとしたのだ。普通ならそんな状況では結局叩けずに空振りするものだ。そして、もう一度試してみようかと考えていたその時、偶然にも再び別のハエが飛び始めた。
「よし。今度はちょっと凄い事しちゃうよ」
などと独り言を言いながら、雄輝は爪楊枝を手に取った。
「爪楊枝も使い方によっちゃあ武器になるのさ」
などと言いながら、ハエに向かって爪楊枝を投げる。
カッという音を立てて爪楊枝が壁に突き刺さる。それだけでも十分驚いたが、さらに驚いたのはその爪楊枝に串刺しにされたハエを見た時だった。
「すっげぇ!俺サーカスに就職しようかな?」
などと喜びながら、爪楊枝を引っこ抜こうとする。
「あら?抜けない?」
ハエを貫通して半分ほど壁にめり込んだ爪楊枝。ふと、雄輝はすぐに奇妙な点に気付いた。爪楊枝をどれだけの力で飛ばせば壁にめり込む事が出来るのだろうか?爪楊枝の強度から考えても壁にめり込む前に折れたり曲がったりはしないのだろうか?
いつまで経っても抜けない爪楊枝に焦る雄輝。
ボキっ。
結局それは折れてしまった。