8 軍病院 9

「話…?」
「今、高校生かな?」
「俺ですか?そうですけど…」
「進路は決まっているのか?」
「進路…ですか?まぁ、学校は進学校だから大学になるのかな…」
「どの大学を受ける?」
「まだ…それは決まってないですけど。っていうか、進路がどうしたんですか?俺の進路の話をする為にわざわざこの取調室に呼んだんですか?」
「そうだ」
思わず雄輝はずっこけそうになった。いくら外国人が可能な限りの流暢な日本語を話していても、話の筋が全然通っていないのである。
「まさか軍の人に進路の話を聞かれるとは思わなかったな…。どこの大学がいいとかのアドバイスをしてくれるんですか?」
「いや、正直日本の大学がどこがいいかなんてわからない。私がしたいのは、お前にその気があれば軍で働いてみないかという事だよ」
思わぬ誘いに周囲の空気が止まったような感覚を覚える雄輝。それからなぜ突然そんな話になるのか、軽く推測するが、どうしても自分に備わった特殊な能力からは切っても切れないのだ。
「それって、俺が特殊な力を持っているからですか?」
「そうだな。実は私もお前と同じで、特殊な力を持っている」
「えっと…その力を使って何をするんですか?」
「軍の為に使う」
「ちょっと…待ってください。『軍の為』とか言われると、すごい悪いイメージしか浮かばないんですが。例えば戦争に利用したりとか?」
「…ふむ。お前はちょっと映画の観過ぎだな」
「そうなんですか…」
「日本はどこかと戦争をしているのか?」
「いや」
「では、日本でたびたびテロが起きるのは知っているか?」
「ああ、うん。ニュースで見てる」
「テロ対策を行うのは警察だけではない。軍にも対テロ対策本部がある。私の所属はそこだ」
「ああ、つまり…警察みたいなところ?」
「そうだな」
「この力を使って、犯罪者と戦うっていうのですか…」
「まぁ、映画が好きだろうお前の言葉で言えばそうだな」
それほど嫌な気分ではなかった。
それだけ目の前の女性は雄輝の力を認めている事を指しているのだから。そして、警察という仕事に憧れはさほど抱いていなかったが、もし自分が力になれるのならそうしたいと雄輝は思ったのだ。もちろん今日言われて今日「はい」と答えれるほどに明確に決断できなかったが。
「ただし、それは軍の目的だ。私には別の目的がある」
「別の目的?」
「お前は自分に備わっているその力が何なのか知りたくないのか?」
「超能力という奴ですか?」
「超能力か。じゃあそれがどういう理屈で作用しているのか、なぜ備わったのか、何に使えばいいのか、自分は何者なのか…そういう事を考えた事はないか?」
「倫理の世界ですか…まだ、最近の事なので、何にも」
「私はそれを探求している」
そう言って女性は名刺を手渡した。
「もし興味があればここへ電話してくれ。私は暫くの間、この施設にいる」
雄輝が名刺に書かれてある中国語の名前が読めずに聞き返そうとしたが、既に女性は部屋を出て行った後だった。どうやらゆっくりと話している時間はないほど忙しいらしかった。