8 軍病院 7

「目が合ったって、この距離だぞ…」
「いや、マジで。ヤバイ、部下にこっちを調べるように指示してるぞ」
君津は震える手で双眼鏡を持って暫く見ていたが、すぐに手放すとリュックの中にそれをしまってそそくさとその場から移動し始める。
「なになに、どうしたんだよ」
君津は自分のテントがある場所まで早足で移動し、それに雄輝達が続く。君津以外は何がなんだか判らない状態なのだ。
「白石、お前の頭の中を覗いたときと同じだ。何かに邪魔された感じがした。それからすぐにあの女、俺のほうを見たんだ」
「え?それって」
雄輝が何かを言いかけたとき、君津はその答えを既に口に出した。
「何か能力を持ってるぞ、あの女」
「どうすんのよ」
「逃げるんだよ!」
テントをたたむような事はしなかった。君津はテントの中から彼が思う貴重なものだけをリュックに入れて、素早くその場を離れた。雄輝達が今しがた登ってきた貯水池から浄水場へと続くパイプラインの管理通路に向かっていたのだ。だが、次の瞬間、昼間だというのにまばゆいばかりの光に包まれた。周囲に太陽がいくつもあるような、そんな光だ。
「手に持っているものを投げ捨て、その場に腹ばいになりなさい!」
光の中から拡声器の音がする。
「クソっ、マジかよ!」
君津が怒鳴っている。
が、渋々手を頭の後ろに当てた後に、地べたに腹ばいになる。
「お前らも従えよ!撃たれるぞ」
「なんだよ、まだ何もやってねーじゃん!」
「あーもう、なんでこうなるんだよ」
一同は君津に習って腹ばいになる。その間に周囲には足音と機械音が聞こえる。足音の主は重装備の歩兵、機械音のほうは軍の戦闘用ドロイドである。雄輝達にとっては映画の中だけに存在したものが二つも自分達の周りにいる。それから、君津が「あの女」と言っていた、テレパシーで頭の中を覗くことが出来なかった女も、兵の後ろに現れた。
「全員連行しろ」
女はそう言った。
まるで万引きを働いた高校生が補導されていくように、口々に「俺は何もしてねーよ!」などと言葉を並べながら、軍のヘリの中へと連れ込まれていく雄輝達。一つのヘリに乗れる数が決まっているのだろう。それぞれ別々のヘリに補導されていった。