9 就職 5

昼過ぎに雄輝の家に客が訪れた。
黒のワゴンで男性が3名。身長は180はある体躯はしっかりとしたマッチョな男達である。彼らはスーツ姿にサングラスといういかにも怪しげな格好だ。それがシャオメイが遣わせた軍部の人間である事は人目で判った。
「雄輝、お客さんが着てるわよ」
「あ、うん」
「あら、似合うじゃない!可愛い」
「う〜ん…可愛いと言われるのは複雑だなぁ」
「いいじゃない。女の子は女の子らしく」
「女の子じゃないんだけど」
「見た目は女の子でしょ?靴もセットで買っておいたから、ちゃんと履きなさいよ。男の時のシューズだとかスリッパとかは絶対に履くんじゃないわよ」
「わかった。あ、ちょっと出掛けてくる」
「どこにいくの?」
「病院」
「あの人達は誰?」
「ちょっと、バイトをする事になって…」
「なに?怪しげなバイトじゃないでしょうね?」
「全然怪しくないよ。世の為人の為の仕事だよ」
玄関に向かうと、サングラスの男が雄輝を見て言う。
「白石雄輝さんですね?」
「はい」
「シャオメイさんがお待ちです」
「病院に行くんですよね?」
「そうですね、ただ、道路がありませんので途中でヘリに乗ります」
ワゴンの前席に2名、後ろの席に雄輝ともう1名が乗る。
ワゴンの窓からは川上村の景色が流れていく。普段と同じ景色だが、違うのは雄輝が今からやろうとしている事と、そして今、軍の関係者の車に居るという事だった。
窓から目を外して今度は車内を見た。
特に普通の車だ。軍の関係者の車だからと、銃や弾薬が積んであるというのを想像した雄輝は自身がちょっとマヌケに見えた。シャオメイが言うとおり、ひょっとしたら映画の見過ぎなのかも知れない、と思い始めていた。
ふと、車内の後部座席、雄輝の隣に座っている男と目が合った。すぐさま男は目を逸らす。まるで見てはならないものを見たような感じである。
(なんだ?ガン飛ばしてたのか?っていうか、目を逸らすなんて身体が大きい割りには気の小さな奴だなぁ)
などと思った次の瞬間、雄輝は自分が女である事を思い出した。
(え…?えっと…好みって事か)
スーツ姿の一回りも歳が違うような男が、顔を赤らめている。
(おいおい…俺は男だって…)