8 軍病院 1

一人だけ連絡するのを忘れられていた君津。
男の時、存在感が薄かったというわけでもない。たぶん佐藤は連絡するのを忘れていたのではなく、連絡するのを躊躇っていたのだ。それは君津が男の時からウザイ存在であったという事が理由だ。何にでも興味を示して聞いてくる。それ自体は悪い事ではないが相手の都合など考えないのだ。
ただ、君津の事をわざと忘れてた事にしていた佐藤も、その場にいた他の人間も、女性化するというこれほどの大イベントにも関わらず電話ひとつよこさない事を心配していた。何かあったのではないかと。
「とりあえず連絡しとけよ、佐藤」
と青葉が言う。
「しょうがないな」
携帯を取り出して君津に電話する佐藤。しばらくして繋がった。ただ、佐藤は何故か君津にうるさく言われてるようだ。何を言っているかは判らないが、怒鳴っている。
「大丈夫かどうか電話しただけだろ、そんなに怒るなよ」
「ホログラムモードにしてよ」
「ああ、うん」
佐藤は携帯を床においてホログラムモードに返る。立体の小さな君津の姿が携帯の上に3D表示される。メガネを掛けた小柄でドン臭い感じの女の子。迷彩柄の女子高生に不釣合いなコートを着て双眼鏡を持って草むらに隠れている。着る服のセンスをちょっと考えれば綺麗になるので非常に残念なセンスなのは否めない。
その君津は、草むらの中で周囲を気にしながら、「なんで突然掛けてくるんだよ!」と怒鳴っている。電話を掛けるときに前置いて連絡が必要であれば電話など要らないはずだが、と一同は思った。
「ってか、何してんの自分?」と佐藤。
「あーもう、電話切るよ、また今度ね」と君津。
通信はそこで終了。が、また電話を掛ける佐藤。
「なんだよ!」
再び草むらで怒鳴っている君津がホログラムに表示される。
「だから何やってるのかだけ教えてよ」
「いやこれ話したら、俺殺されるかも知れないし」
「面白そうじゃん」
こういう陰謀めいた物言いは普段から君津がやっている事だ。彼はそういう陰謀めいた物言いをする事も好きなのだ。たいていの場合はそういうのはなんら陰謀なぞはなく、馬鹿馬鹿しい結論で終わることが多い。
「よし、みんなで君津を応援しにいこっか」
「くんなバカ!」
という事から、雄輝達は君津を応援する為に彼の元へと向かう事となった。場所は君津の携帯が発しているGPS情報から特定されているのだ。