8 軍病院 2

雄輝達の乗った自転車は村の給水池から浄水場へと伸びる太いパイプラインの傍に止めた。どうも給水池の近くから君津の携帯のGPS情報が発信されていたようだ。
「ここあがるのかぁ」
と言ったのは海江田。海江田は彼が男性の時から少しマセたガキであり、背伸びをした大人風ファッションを好んでいた。女になってからもそれは変わっていない様だ。すぐさま女物の洋服を購入していた。海江田が気にしていたのは買ったばかりの革靴が泥に塗れてしまうのを思ってのことだ。
「なんだ、海江田の靴だったんだ。アレ」
と雄輝。彼が佐藤の家の玄関で見た女物の靴は海江田のものだった。
「ちょっと長靴取りに帰っていい?」
と海江田。
「ここでダラダラ待ってるのや嫌だよ?」
と佐藤が言う。
ふと雄輝は海江田が靴を取りに返らなくてもいいようなアイデアを閃いた。
「俺にいいアイデアがあるよ」
「わかった、靴を超能力で俺の家から取ってくるんだろ?」
「そんな見えない場所にあるものを取ってくるなんて無理」
「じゃあなんだよ、俺を浮かせるのか?」
「泥に汚れたら俺が泥を弾き飛ばしてやるからさ」
雄輝のそのアイデアにはみんな驚いた。そういう方向で考えることもそうだが、驚いたのは別のことで、靴についた泥だけを動かすという器用な能力の使い方が出来るという点だ。
「便利だなぁ…俺もテレキネシス使いてぇ」と佐藤。
テレキネシス?」
「ああ、手を使わないで念力でモノを動かす事をそう言うんだよ」
「へぇ〜」
「便利だなぁ。今度から靴を磨く時は白石に任せるよ」
なんとなく皮肉に聞こえたので、雄輝は、
「じゃあ俺の家で火を使う代わりに佐藤を毎回呼ぶことにするよ」
「…」