8 軍病院 4

雄輝達が浄水場へと続くパイプラインの管理用通路を登りきるとようやく貯水池が姿を見せる。
木々の間にブラックホールのようにぽっかりと空間が開いて、よく見たら池だったと言うほどに突然に現れている。エメラルドグリーンを更にドス黒くした池。お世辞にも綺麗とは言えず魚も居るような気配がない。
その池の隅のほうによく目を凝らさないとわからないように迷彩柄のテントが設置されている。テントの周囲には焚き火をしたような跡もある。先ほどのホログラムに出てきた君津の迷彩服姿がダブる。まるで戦地の真ん中で敵に見つからないように潜んでいるようだ。
雄輝達がそのテントに近づいてみたが人がいる気配はない。
GPSだとこの辺りなんだけどね」
佐藤は携帯を持って周囲を散策する。
「も〜来るなよ〜!バカ!」
茂みが動いて中から君津が姿を現す。ホログラムで見たあの格好のまま。服は全部男モノのようで、全体的にブカブカになっている。それでズボンも完全に足が短くて合わなくなっており、歩きにくそうにテントに近づいてくる姿が愛らしい。
「せっかく心配して来てやったのにバカとは何だよバカとは」「一体何やってんだよ、敵と戦ってるのか?」「なんだよそのちっさな服」「センスないなぁ」などと色々と言われる君津。
「あんまり声を立てるなよ!」
「いやマジで何やってんのこんなところで」
「変な建物を監視してたんだよ」
「変な建物?」
「そうだよ。お前らがのん気に食っちゃ寝してる間に俺は一人ここに潜んで、村に起きてる異変を観察してたんだよ」
「またくだらないことに精を出してるな、君津は」
「くだらないとはなんだ。お前らもアレを見て同じ台詞が言えるかな?ほら、来いよ。見せてやるよ。絶対に音を立てるなよ」
君津はそう言って茂みの中へと入っていった。