15 幸せのかたち 4

深夜11時頃、まだ残業していた豊川は、その彼の為に最後までついていたフロアの照明を落として会社を後にする。
出て暫くしたところでタクシーを待つ彼の後輩の一人と出会った。
「あら、豊川さん、まだ残っていらしたんですか」
後輩は豊川に気付いて話し掛けてくる。
「ああ、うん。君こそどうしたんだ、こんな時間に」
「自分は忘れ物を取りに来ただけですよ」
「そうか」
「どうですか?これからどこか呑みにでも」
後輩の誘いは普段なら断っている。というより、豊川はそもそも会社の飲み会などにはあまり参加しないタイプだった。かといって酒を呑む事が嫌いというわけでもない。普段は一人で酒を呑むだけだ。だが、もしこれで誘いを断れば家に帰らなければならなくなる。
その時、豊川の脳裏に今朝の出来事が思い浮かんだ。
(「家族と仕事、どっちが大切なのよ!」)
怒りのような悲しみのような、そのどちらとも取れない妻の顔が思い浮かんでくる。豊川は家に帰りたくなかった。
「行こうか」
豊川は後輩と共に、深夜まで営業している居酒屋に向かった。