125 虚構新聞 3

「何を偉そうに!!こんな状況なのに幸せな『妄想』をしながら死を待てっていうのか?!上等だな!大馬鹿野郎だよ!ヘラヘラと笑って死ねばいいだろう!!それほどマヌケなものはない!」
って総理役の女優が言ってる…。
それ、サラリーマン風の男が言ってた台詞だよ…。
もう色々ツッコミどころが多すぎて疲れてきたよ。
「…他人にどう思われるかじゃない。自分がどう思うかだ。死の直前まで希望を捨てず笑顔のまま死ぬのと、絶望に包まれて周囲を恨んで泣きながら死ぬのと、どちらが自分にとって幸せなのか考えろと言っているんだ。私なら自分がどんなにマヌケに見えても希望は捨てない。絶望も希望も観測する人間のただの価値観の違い…どんな酷い状況でも感じ方一つで希望に満ち溢れたものになる」
って、サラリーマン風の男が言うと、
トンネルの入り口のほうから
(ザッ、ザッ、ザッ…)
という音が聞こえてくる。
事実ではドロイドが穴を掘って俺達を救出したわけだけど。
さて、朝曰はこれをどう捏造するかァ?
土が崩れて光が差し込んでくる。
って、それドロイドが出してる光じゃなくて朝日じゃね?えらい薄っぺらいトンネルだなぁオイ!!!
「ちわぁーっす、朝曰新聞でーっす」
…。
ズコー!
俺は思わずカーペットの上にズコーっと転げた。
調子にのって転げてしまったので摩擦で皮膚を火傷して、「アッツゥ!あちちちち…いてて」状態になった。
さすがに事実を知らないマコトやナツコもこれには笑っている。だってどう考えたって超薄っぺらいんだもん。ちょっと掘ったら外と繋がりました的な。しかもそこから顔を出したのが新聞屋っぽい若いやつで、まるで朝曰新聞を届けにきたかのようなのだ。
「トンネルが塞がって新聞をとなり町に届けられないので、夜からずっと掘ってましたぁ」などと言ってる。
おいおいおいおいおい!!もうちょっと人間様が理解出来るような嘘をつこうよ?!色々と事実と違い過ぎるだろう?!
もう色々と違う過ぎてどこから突っ込んでいいのかわからない。
さっきそういえば俺は朝曰お客様センターへと電話をかけようとしてたっけ。とりあえずもう一回電話掛けてみるか。
どうせまた繋がらないんだろうけど。
『こちらンテテ西日本総合交換器サーバーです。ただいま大変回線が混み合っており繋がりにくい状況となっております。緊急のご用件は災害時特別回線をお使いください、災害時特別回線への接続方法は…』
おいおいおいおいおい!!
ンテテ西日本の交換器サーバを大混雑させるレベルの『抗議の電話』の嵐ってどうなってんだよ!!ある意味凄いよ!凄すぎるよ!
「凄い反響ですわね、今、リアルタイム視聴率を確認しましたら80%を超えていますわ…テレビを見ている世帯自体が少ないのにこのモンスター視聴率…捏造もここまで完璧にやってしまうとある意味、一つの映画を創ったような感じになりますわね」
ナツコはMBAを広げてそう言った。
俺はついでに、
2chの反響はどうなってるの?」
「それが繋がりませんの…どうやら電話回線と同じでネット回線もパンク寸前のようですわね」
その時だ。
「にぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
玄関のほうからケイスケの叫び声が聞こえた。
ケータイを片手に持って叫びながら部屋に入ってきたケイスケに俺が理由を聞いてみると、
「特番があるせいで深夜アニメがキャンセルされてますぉォォ!」
それに対してナツコが笑いながら、
「キミカさんの影響がこんなところにまで来ていますわね」
と言うのだ。そんなこと言ったら…
「もうキミカちゃん迷惑かけるのやめて欲しいですぉぉ!!ちゃんとボディガードの仕事が出来てて事故にも会わなかったらこんな事にはなっていなかったにゃん!!どう責任とってくれるんですぉ!」
「知るかッ!」
「このイライラをさっそく2chに撒き散らしますぉ…他にもこの絶望に涙を流している同士がいるはずですにぃぃぃ(睨」
「なんか今2chも繋がりにくいっぽいよ?」
「キミカちぃぃゃゃぁぁぁん…(睨」
「し、知らないよそんなの。実況サーバがパンクしたから普通の掲示板で朝曰特番を実況したんでしょ?パンクするのは時間の問題じゃん。全部朝曰の捏造特番が悪いんだよ!文句があるなら、」
俺がいうが先にケイスケはケータイで朝曰お客様サービスセンターへ連絡しているっぽい。しかし、
「繋がらないですォォォ!!!」
ケータイを握りつぶそうとするケイスケ。しかし力がなくて全然握り潰せないどころか変に曲げたので蓋が閉じなくなってる。
「うぅ…キミカちぃぃゃゃぁぁぁん…(睨」
「ちょっ、それまであたしのせいなのォ?!」
それから2時間程度で2ch関係のサーバは復旧。しかし朝曰のお客様サービスセンターには繋がらない状態が続いた。
俺はもうクレーム処理をぶち込むのは止めにしてお風呂に入ってから身体も心も落ちつけた状態で2階から2ch掲示板に接続して様子をみてみた。想像していた以上の反響だ。
さすがに今回ばかりは笑って見れる状況を超えていた。
朝曰をテロ容疑で逮捕しろとか言うものもいれば、自分が朝曰へテロを仕掛けてくるという奴まで出てくる。
話はどんどん進んでいき、総合的には朝曰新聞社前でデモをするということで収まった。ちょうど明日が日曜日になっているのでタイミングもバッチリだった。
朝曰は土曜日夜の2時間の視聴率と引き換えに、翌日以降の朝曰新聞社存亡の危機を招いたのだ。