125 虚構新聞 2

朝曰テレビのトンネル崩落事故再現ドラマはいぜんとしてトンネル崩落について触れず未だに好き屋のシーンが続いていた。
どんだけ好き屋のシーン重要やねん…。
初老の男性が言う。
「まったく総理は…中国や朝鮮を挑発するから彼らが日本に戦争を仕掛けるのだ。愛を持ってすれば心を開いてとてもいい隣人になって末永く平和な共存関係を築けるというのに。それに加えて総理は平和都市宣言反対派の議員だからな。日本の全ての都市が平和都市を宣言したら中国軍がやってきても犠牲者はゼロだったのに、一部の都市が反発するせいで平和都市に住んでる人々も中国様の怒りをk」
俺はそこでキレてチャンネルを変えた。
「き、キミカちゃん?」
「全然再現ドラマじゃないよォォォ!!!」
床を殴って俺は叫んだ。
「まぁ落ち着きなさいなキミカさん。大人げないですわ」
冷静な声で言うナツコ。続けて、
「こんな捏造ばっかりのドラマを本気で見ている人なんて居ませんわ。既にインタビューの内容とは全然関係が無いですし、劇中にでているようなタイプの人間は朝曰新聞の熱心な読者だけですわ」
「そうだよキミカちゃん。これはこれで視聴率をとるためのいい方法なんじゃないかなぁ?実際に朝曰の事実捏造具合を楽しんでる2chネラーだっているぐらいだから。愚かな人間は自分の愚かさぐらいでしか人を喜ばすことができないっていうことわざがあったと思うけど、まさに今の朝曰新聞はそのことわざ通りだと思うよ」
確かに、確かにそうなんだけど…。
「あたしは実際に総理のボディガードになって一緒に『実話』を経験してるからさぁ…それが捏造されるとめっちゃムカつくんだよね、立場が違うなら笑って見てたと思うけどォ…(白目」
「まぁ、最後まで見てみようよ」
「うん…」
チャンネルをもとに戻す。
まだ好き屋のシーンかよ!!
しかも『帰れ帰れコール』で総理が渋々好き屋から出ていくシーンだ!これはサラリーマン風の男が言われてた事だよねぇ?!
俺は思わずレールガンを取り出してテレビを木っ端微塵に破壊しそうになっていたけど、マコトとナツコがそれを止めてなんとか出した武器をキミカ部屋に収める事に成功した。
「やっと好き屋のシーンが終わった…」
「これからいよいよトンネル崩落事故?」
「うん」
それからサラリーマン風の男がバスに乗り家路につくというシーン。そこでケータイで連絡が入って相手は奥さん。
奥さんはニュースを見て台風で雨が酷くなったので気をつけてと、カタコトの日本語で言う。
「なんでこの女、日本語まともに喋れないの?」
俺がテレビで睨みつけてからそう言うと、
「国際結婚してるって前提じゃないのかな?」
マコトがそう言う。
「どうせこの女、中国人って設定なんでしょォ?」
俺がレイシストも真っ青な差別的・軽蔑的な目でジロリとテレビ画面を睨む。すると、何故か画面は回想シーンに切り替わって中国かどこかの都市で楽しそうにしている日本人の男(サラリーマン風の男の過去)と中国人の女のシーン。二人楽しそうにデートした後は、セックスをしていたりもする。
サラリーマン風の男曰く、
「やっぱり中国人の君と結婚してよかっ」
俺はここでチャンネルを再び変えようとしたが操作を間違ってケイスケが持っていたアニメビデオに切り替わった。
アニメソングが流れる中、
「おかしいよ!絶対おかしいよ!!」
「まぁまぁ落ち着いてキミカちゃん」
「これ、絶対に国際結婚に誘導させてるよね?!全然トンネル崩落関係ないよね?!っていうかゴールデンタイムなのに子供がみちゃダメなシーンがずーっと続くってどうなの?!なんでずっと中国人とセックスしてるシーンが流れてるのォ?!」
普段あんまり朝曰テレビのドラマは見ないからなぁ、全然流れがつかめないよ。これはいわゆる映画の中には必ず挿入されてるっていうサービスカットってやつなのか?乳首丸見えなんだけど…。
「ま、まぁ、わたくしも今のシーンはどうかと思いますわ」
と顔を赤らめて言うナツコ。
同じ様に顔を赤らめたマコトはチャンネルを切り替えて、
「あー…、セックスシーン終わっちゃったよォ…」
と口を尖らせて残念そうに言う…。
マコトもちょっと恥ずかしがってくれよ…。
そしていよいよCGを使いまくったトンネル崩落シーンだ。
爆発が起きたとかブツブツ男は言ってたけど崩落シーンのCGではただ蓄積された雨水が地盤ごと削りとってトンネルを押しつぶした感じになってるな。
ここで朝曰の捏造具合が思いっきり判る決定的なシーンを流してしまう。今までの好き屋のも当然捏造なのだが、あれは他のマスコミは流してないからなぁ。
ストーリーの中では被災したバスの乗客をサラリーマン風の男と俺が救出する内容に捏造されていたわけだが、その理由が『総理はお腹の部分を怪我して血を流していたため、仕方なく「慈悲深き」一般市民であるサラリーマン風の男が先導をきった」』事になっている。
しかし、救出された時に総理はどこにも怪我などない、とインタビューに答えているし、服が避けていないし、服に血が染みていないのだ。これは決定的に映像に残っているから、ニュースを見た人にも判る完全な捏造である。
「これ、実際はどうだったの?」
「こんな感じなわけないじゃんー。この男、お腹を怪我したとか言ってちょっとしか切れてないのに大げさに痛がって何一つ手伝わなかったよ。文句ばっかりは一丁前に言ってたね」
「酷いなぁ…この男」
「でしょ?」
シーンは(本来なら)総理がパネルを操作して雨水を災害用パイプラインへと流すところだ。しかし総理ではなくサラリーマン風の男がそれをやっている。あと、パネルは総理でなければ操作できないような難しいものだったと記憶してるけど、男が操作してるのは子供でも判るようなハイ・イイエ選択方式のオモチャのようなパネルである。
それからみんなで救出まで待つシーン。
「助けはこない…このまま死ぬんだ…死ぬ…このまま…死ぬんだ」
ウワァ…。
それ、総理が言う台詞じゃなくて、サラリーマン風の男が言ってた台詞だよね?なんで総理がそれを言ってるの?
そして本来なら総理が言ってた台詞をサラリーマン風の男が言う。
「助けが来るのか来ないのか今はまだわからないんですよ。なんら改善策が無いのなら不安を口に出すべきじゃない。未だ予測できない未来に対して恐れたり絶望したりするのは人生の時間を損するだけだです。総理はいつ攻めてくるかわからない中国や朝鮮の為に軍備を増強しようとしていますけどそれは攻めてきてから考えればいいことじゃないですか。人を殺す武器をこれ以上増やすのはやめましょう」
おいおいおいおいおいこれどうなって…
おいおいおいおいおい!!
「キミカちゃん、テレビを殴らないで」
「ご、ごめん、気づいてたら殴ってた」
「壊れてしまいますわ」
壊れそうだよ俺のほうが。