125 虚構新聞 1

各新聞社は救出された人達それぞれにインタビューする中で、総理、それからドロイドバスターである俺の功績を称えた。
救出にあたったのは消防署と軍だったが、警察は一方でなぜ今回の事故が起きたのかについての捜査をしていた。新聞社各社はテロである可能性は拭えないとの方向でそれぞれ社説やらを出していた。
俺は総理の警護に当たっていた時から彼女の性格はなんとなくは理解できたし、そして、それはとても野心家の政治家とは思えないものでどっちかっていうと技術者あがりの人で、マスコミがどうして総理を叩こうとするのか意図が読み取れない。
しかしマスコミは救出された人達からトンネル内で起きたことを色々と聞いていくうちに総理と俺がトンネル内に流れ込んできた雨水を災害用雨水パイプラインへと流した事が生還の要(かなめ)だった事を口を揃えて話した。そしてそれを邪魔しようとした『朝曰新聞社社員と思われるサラリーマン風の男』の存在もセットで説明している。
この朝曰新聞〜の語りは報道する新聞社とそうでないところが明確に分かれている。例えば朝曰と同じように総理批判を繰り返してきた毎曰新聞は総理と俺の活躍を讃えた上で、政治についても総理には期待している、という社説に留まるが、右翼系の新聞社である維新新聞などは総理の近くには常にパパラッチが潜伏しておりテロとの区別はつかず今回の事件(維新新聞は最初から事故とは報道していない)はその人間が起こしたテロではないか、という見解で社説を出した。
救出された中であの妻を亡くした初老の男は、
「あの朝曰新聞の男がなぁ!トンネルに入る前に爆発が起きたとか話しだしたんだよ。誰もそんな音聞いてないのに、爆発が起きたと。総理を狙ってるテロがいるとかなんとか言い出してなぁ!アイツが仕組んだんだ!わしはこれが事故だなんて思わん!警察はあの男を調べるべきだよ!絶対に朝曰が仕組んだテロだ!」
妻を亡くした絶望からか辛辣に朝曰を批判していた。
そんなトンネル事故特番を見ていた時だ。
「キミカちゃん、ボクが一緒にいればこんなことには…」
などと拳に力を込めてお腹の前にそれを置き、悔し涙を流しているのはマコトだ。ちなみにマコトは俺と同じくドロイドバスターでありながらも南軍には所属しているが公安には「あんまり情報が色々漏れるのはちょっとな…」という理由で作戦への参加は許されていない。
「大丈夫大丈夫、何かあってもあたしだけは助かってるから」
と軽く手を振ってみせる。
一方で一緒にテレビを見ていたナツコは、
「それはそれでどうかと思いますわ…世間的にヒーローっていうのは自分の身が傷ついても民衆を助けるものですから。と、言いましても、キミカさんらしいといえばキミカさんらしいですわね」
などと言って俺に向かって睨みを効かせた。
「超絶な力を持つものがヒーローだなんてのはアメコミ原作のヒーローモノのハリウッド映画の見すぎだっちゅぅの。力も備わっていれば正義感もあるっていうのは誤解だし、ヒーローであっても生活がちゃんとあるしぃ」
そんな話をしている時、ふと俺は朝曰新聞傘下の『朝曰テレビ』がどんな内容の特番をやっているのか気になってきた。
「ちょっとチャンネル変えるね」
そう言って電脳からのユビキタス制御でテレビのチャンネルを変えるとマコトがまっさきにそれに反応する。
「えー。キミカちゃん、朝曰テレビ見るの?」
「あの日は総理と一緒になってからずーっと朝曰新聞社員らしき男が一緒にいたからね!アイツだけインタビューに答えなかったでしょ?何かやらかすんじゃないかって期待の念を込めて…!!」
「キミカちゃんの期待はきっとネトウヨ的な期待だよね」
「ティヒヒヒ…」
チャンネルを変えると他の新聞社が組んだ特番とは違ってドラマっぽいのをやってる。
「なるほど、あのトンネル事故の時に何が起きたのかをドラマ仕立てにしているっぽいですわね」
ん?
このドラマの主演の男、あの時一緒に居た朝曰新聞の社員らしきサラリーマン風の男じゃないか!!なんでコイツが出演してんの?
「こいつ、一緒にいたサラリーマン風の男だよ!」
俺がテレビの画面を指さして叫ぶ。
「そっかぁ。やっぱり朝曰新聞の社員だったんじゃないのかな」
マコトが落ち着いた声で言う。
「そうだよ!きっとそうだよ!!」
「もうキミカちゃん、そんなに興奮しないで」
「だって、嫌な予感しかしないんだもん!」
俺は鼻息を荒くして齧りつくようにテレビに見入る。
男は仕事の為、昼飯は抜きで好き屋に入る。
給料日が過ぎたので普段はお新香だけだがこの日はお新香と味噌汁を食べる事に決める。…っておいおいおいおいおいおい!!!お前は『牛味噌付け豚定食スペシャル特盛』食べてたよねェ?!お新香と味噌汁を単品トッピングで注文してたのは総理だよねェ?!
っていうか庶民感覚でそれを語ってるのが末恐ろしいわ。俺はさっそく朝曰新聞社へと捏造ドラマを放送するんじゃねー!という意味を込めて抗議の電話をした。
『こんにちは。こちらは朝曰総合受付です。現在、大変回線が混み合っております、しばらく時間が経過してからおかけなおしください』
俺は電話回線をそっと切断した。
しばらくしてからかけ直すか。
男は店の中で俺と総理を発見する。
しかし今度は俺ではなくマコトがちゃぶ台返しをしそうになったので俺は慌ててテーブルをグラビティコントロールで抑える。
「ど、どうしたのマコト?」
「なんだよこれ!!!捏造じゃないか!!」
「どのあたりが?あたしと総理は好き屋にいたよ?」
「キミカちゃんがこんなに不細工なわけがない!!なんだよこの女優!!AK48じゃないか!!キミカちゃんは人間離れした可愛さを放ってるんだぞ!これは人間でも中の上ぐらいじゃないか!!こんなのを再現ドラマで採用するなんて…!!抗議だよ!抗議するよォォ!」
マコトは震える手で朝曰へ電話しているようだ。
だがしばらくしてから、
「ふぅー…ふぅー…。は、話し中だった…きっとボク以外のキミカちゃんファンも黙っていられずに抗議してるんだよ」
まぁ、抗議はしてるだろうけど、ツッコミどころはそこじゃないとは思う…。
さてと、ドラマの中では主人公のサラリーマン風の男はドロイドバスターキミカがいることには喜んで興奮している素振りを見せるも、総理が側にいることには苦虫でも噛み潰したような嫌な顔をした。しかも総理が食べているものが『牛味噌付け豚定食スペシャル特盛』だったので自分が食べているものとの差が激しく、酷く落ち込んだ気分になっ、…ちょっと待とうか。
ちょっーっと、待とうか。
おかしいよね?
それお前が注文してたものだよねェ?!
お前が『牛味噌付け豚定食スペシャル特盛』注文して総理がお新香と味噌汁を単品で注文してたよねェ?!
「なんでやねーん!!」
俺はテーブルを思いっきりひっくり返しそうになったがマコトがそれを「まぁまぁまぁ…朝曰は捏造ドラマ放送するなんてしょっちゅうなんだからいいじゃん。こうなるのは分かってたよ」と止める。
いやさっきマコトも俺がAK48に捏造されててキレてたじゃん…。
「ヌゥゥ…」
そんな中、一人のデブが突然総理に向かって叫びだすのだ。
なんかデジャブを感じるな…。
『総理!あなたに物申したいことがある!この店内で「牛味噌付け豚定食スペシャル特盛」を食べてるのはあなただけだ!みんなお新香だけで我慢してるのに、集めた税金を使ってそんなものをみんなの前で堂々と食べれるのか!!前に庶民感覚があるだとかテレビで言っていたが、あなたの庶民感覚がそれなのか!!』
はぁ…。
ツッコミどころが多すぎて俺はこの溜まったパワーをどこに向けて重点的に突っ込めばいいのか迷っている…。
確かに店内にデブは居たけど文句を言ったのは朝曰新聞だかどっかのクソマスゴミが放っているパパラッチに向けてだ。
それから、店内のお客が全員お新香を単品で注文って…。
「どこの好き屋で客が全員お新香注文すんねん!!!」
俺がまたちゃぶ台返しをしそうになったところをマコトが「どうどうどう…落ち着いてキミカちゃん…」となだめる。
「ヌゥゥ…」
とりあえず今回は我慢しておこう…。