125 虚構新聞 6

「どういう事じゃこりゃァァッ!!」
俺はグラビティコントロールで店長を縛り上げる。
「ちが、違うんです!これは場所代が含まれてて…」
「場所代ってレベルじゃないでしょ?!」
さらにギリギリと締めあげるので、
「く、苦しい、締めたら話せない」
と言ってる。
仕方ないのでグラビティコントロール解除。
「最初は普通の店だったんですが、朝曰新聞の社員がここに昼食を摂りにきて、それで『一般人と同じ値段じゃ満足できない』と言い出したんです。それで私は高い値段設定のものを売るようにしました」
俺はチョンカレーの箱をグラビティコントロールで引っ張り出してきて「これを3万円で売ろうと思ったのはその時から?」と聞いた。
「違います、とんでもない。値段設定を高くするんだからもちろん、いいものを売ろうと思って食材をいいものにするのが普通です。ですが、朝曰新聞の連中は『いつも通ってやってるんだから朝曰新聞だけは今までの値段設定で食べさせろ』と言ってきたのです。そんなのは不可能だと断りました。だって3万円ですよ?それなりに良い食材にするし、それを今までの500円の値段で売れと言ってるんですよ?」
「聞いてるだけでイライラしてきた…」
「それで、その旨をお話したら、朝曰のかなり上の方がこちらにやってこられて『レトルトのチョンカレーを推してるので大量に仕入れて売ってくれ、値段は今のまま3万円で。こっちも宣伝とかするから』と言い出したのです…私も商売でこの店をやってるのでその話に乗る以外はありませんでした。殆どの客が朝曰社員なのですから」
「つまり、朝曰社員も殆どがレトルトのチョンカレーと知らずに3万円近いカレーを500円で購入して『朝曰特権』だと自慢して言いふらして、朝曰新聞社としてはこのお店を高級カレー店だと宣伝することで高級志向のバカから3万円以上のお金をちょうだいしていたという…そういう事ですね」
「はい…」
「許されない!!!」
怒りに燃える俺。
デモ隊隊員の一人が言う。
「キミカさん、もう終わりにさせましょう。こんな惨劇は」
「そうだね…終わらせよう…」
俺達はチョンカレーを3万円以上の価格で売ってた高級カレー店から出て、朝曰新聞社を目指して歩いて行く。
人々は何が起きたのかよく理解できていないようだったが、俺や俺の周囲にいるデモ隊メンバーが既に心に何かを決めたような揺るぎない意思を持っている事に気づいて、共にビルまで歩いて行く。
と、その時、俺達の前の空間から何かが現れた。
光学迷彩を解除したモトコとバトウだった。
決起した俺達を前にして、ため息をついてからモトコは、
「お祭りは終わりよ」
と言った。
「えーッ!!これからが楽しいのに!」
「朝曰新聞社代表取締役社長の朝曰虚児に逮捕状が出たわ。柏田総理殺害未遂、それからテロの容疑でね。実行犯である霧島大輔にも同じく逮捕状が出たわ」
彼女はALSUCKのサイボーグ部隊に銃を向けて、
「どきなさい。公務執行妨害で射殺するわよ」
と怒鳴る。
その時俺にはALSUCKの警備をすり抜けてビル内に入っていく一団が見えた。もちろんデモ隊の誰かはそれを見ており、「誰だよー(笑)ピザ注文した奴(笑)」と言って指さしていたりした。
ピザ?
確かにピザ屋の格好をしていたし、ピザらしきものを大量に担いでいたんだけど、どこらしか違和感がある。
そのピザ屋は俺が見た限りでは屈強な男達が殆どで1名だけ女の子がいただけ。しかもピザ屋が出てきたワゴンはとてもピザ屋のものとは思えないのだ。
もやもやしたものを抱えて俺が悩んでいると、
「キミカ嬢は日曜日はデモに参加してるのか?」
とニタニタしながらバトウが俺に言う。
「昨日の特番みたでしょ?」
「さぁ、朝曰新聞の特番なんて見てないな…CMも含めて頭からしっぽの先まで捏造のオンパレードだからなぁ。で、どうだったんだ?特番を見てキレてここに来たんだろ?」
「頭からしっぽの先まで捏造のオンパレードだったよ!」
「だろうな」
相変わらずニヤけているバトウ。
そんな二人を見てモトコは厳しい口調で言う。
「二人共。笑ってられない状況になったわよ。どうやらネット右翼の掃討部隊が投入されたみたいよ」
銃を構えたままでモトコはどんどん朝曰新聞社内へと入っていく。
遠目にそれを見ていたデモ隊の人達は俺達がALSUCKを倒して突入したんだと勘違いしているのだろう。俺達を先頭にしてどんどん朝曰新聞社内へと雪崩れ込んでくる。
先頭をモトコ。次に俺とバトウが歩いて行く。
モトコが銃を構えたまま進んでいくので通り過ぎる朝曰の社員どもはびっくりしてオフィスの中へと引っ込む。
バトウと共に社内の廊下を歩きながら、
「掃討部隊って?」
俺はバトウに質問してみる。
ネット右翼御用達のアンドロイド部隊だ。刀に銃にとまるで現代に蘇った必殺仕事人だぜ?警察では裁けないタイプの問題に力で介入してくる。もちろん、それは日本人の為にやってることなんだが…まぁ、力で介入すると問題が色々起きてくるのはどこの国や文化でも同じなのさ」
「そういえば…あたしは一度見たことがあるかも?」
「そうなのか?それはまた珍しいな」
前に学校にヤクザだか人権屋の集団が来た時にそれをケイスケが2chねらー達に暴露して、それで連中の誰かがアンドロイド部隊を投入させたんだっけ?ヤクザの事務所がそれで壊滅したかな。
ん?
そういえばあの時、俺は遠隔操作ようのパスワードをナツコに教えてもらったっけ?今繋げれるのかな?
…。
…。
『Disconnected』
ヌゥ。
ダメか。
「そろそろ社長室よ」
モトコが言う。
「あ!」
俺の目には社長室に近づこうとしているピザ屋の格好をした連中が確認できたのだ。違和感ありまくりだよ、ショットガンをピザ箱の中から出したんだからな。
「急ぐわよ!!」
モトコはそう叫んでダッシュした。