125 虚構新聞 7

「止まりなさい!」
モトコが叫ぶ。
掃討部隊(アンドロイド部隊)は俺達のほうを見ている。
やっぱり自動制御じゃなくて中の人がいるんだな、2chネラーか何かだろう。俺はリアルタイムで2chの実況系掲示板で今回の朝曰への天誅を与える系スレを見ていたが、意見は真っ二つにわかれていたから知っているんだ。あの迷いのような仕草を。
殺る気があるのならもう社長室前で既に発砲している。
しかし意見が真っ二つに分かれていてアンドロイドを制御しているハッカーだかクラッカーだかの2chネラーもこのまま進むべきか悩んでいるのだ。
その心理を理解してかモトコは、
「今、社長を殺せばこの事件が有耶無耶になるのはわかっているでしょう?ただの事故になる。それがあなた達の望みなの?違うでしょう?あなた達の望みは朝曰新聞の社会的な抹殺。それにはちゃんとリーダーの口からテロに関与したことを話させないといけないのよ」
しかし一部のアンドロイドは社長室に侵入しようとする。
これ、全部コントロールしている人が違うのか。
仕方ない。
俺はモトコの一歩前に出てから、
「ネラー見てるゥ?!」
とニタニタ笑いながら手を振った。
やっぱり反応したぞ。これコントロールしてる奴は実況スレを見てる。リアルタイムで。スレッドの内容をaiPhoneの電脳ユビキタス通信経由で視界に展開すると、
<おいおい、公安8課じゃん>
<ドロイドバスターキミカもいるぞ>
<え、これどうすんの?どうなんの?>
<朝曰の思う壺>
<いいからさっさと社長を殺れよwwwなにやってんだよww>
<聞いただろ、やめろって!!!>
<何国士様気取ってんの。殺したら全部終わるぞ>
<ここまで来てやめるのかよwwwヘタレwww>
<↑黙れカス>
<殺せばいいとか中二病末期>
<※※※作戦中止せよ※※※>
そんな中、一番背の低い女の子のアンドロイドが初めて口を開いた。刀を今にも抜けるように手を掛けて、
「朝曰新聞の不祥事は既に民衆の周知の事実となっている。警察は彼等の傘下。決して逮捕はされない。法的には曖昧なまま終わる。ここで殺さなければまた彼等はテロを繰り返す。私たちは民衆の代表をして彼等に『答え』と『証明』を示しに来た。『答え』とは、彼等の行為に日本人の多くはNoを示している事。『証明』とは彼等の行為がどのような結果を自らに及ぼすのかについて」
「それはあたしと殺り合いたいって事?」
俺もグラビティブレードに手を掛けていつでも抜ける体勢になる。前に実践で経験済みだからわかるよ。こいつらは戦闘プログラムがチャチで俺が操作しないと負けてたからな。
<ちょっwwドロイドバスター相手に勝てんのかよwww>
<おいキミカ殺したら俺は許さんぞ>
<キミカも国賊だ!殺せ!>
<おいこれどうすんだよマジで>
モトコは銃を向けたまま言う。
「警察は動くわ。公安もね。あなた達の認識は少し甘いわよ?同じテロでも日本の総理大臣を狙ったのならそれは国家反逆罪に匹敵する。このまま進めば朝曰新聞を落とせるのよ?あなた達の手でそれを止めようとしているのがわからないの?」
それとほぼ同時に、
<この中に裏切り者がいるわよ?>
という書き込みが。これモトコじゃん?
<裏切り者?何言ってんの??>
<どういうこと?>
その次の書き込みに2chアクセスログが提示される。それはコンピュータに詳しい人間じゃないとわからないが、アクセスログの一部に赤のマーキングがしてあって、それが『朝曰の社内のコンピュータアドレス』を指し示しているのが俺にもわかった。
<朝曰の内部闘争も今回の件に絡んでいるって事よ。利用されたのよ、あなた達は。このまま社長を殺せばこの件は有耶無耶になる。そして別の人間が社長の座につくだけ。この新聞社はこのまま殆ど何も変わらないまま、存在し続ける>
<※※※作戦中止せよ※※※>
<※※※作戦中止せよ※※※>
<まじかよ>
<クソ朝曰>
<※※※作戦中止せよ※※※>
<この裏切り者をあぶりだせよ、賢い人おながいします>
<※※※作戦中止せよ※※※>
<※※※作戦中止せよ※※※>
<※※※作戦中止せよ※※※>
刀を抜いていた女の子のアンドロイドはそれを鞘に収めた。それを合図にして掃討部隊は窓に向かってダッシュ、そして窓をかち割ってビルから飛び降りて撤退した。
終わった。
後は社長を逮捕するだけだ…。と思った矢先に、
「騙されるな!今殺らないともうチャンスは来ないぞ!民衆は集まってるんだ!デモ隊の前に社長の首を晒せ!」
そう叫んでいる男がいる。
こいつ、サングラスしてるからわからなかったけど、朝曰の特番に出てたサラリーマン風の男じゃん。
俺はトンネル事故の時にずーっとこいつを見てたから身体的な特徴やら仕草やらで判別出来るぞ、ナメんな!!
「そいつ!トンネル事故で現場にいた朝曰の社員だよ!」
そう叫んで指さした。
「え?」「サングラス取れ!」「こいつ…!」「コイツだ!」「取り押さえろ!逃がすなよ!」
デモ隊は一斉にその男を取り押さえた。それだけじゃなく蹴りを入れたり髪の毛を掴んで地面に顔を叩きつけたり、もう殺す勢いだ。
(バンッ!)
銃声。
見れば俺の背後からモトコが天井に向かって銃を撃っていた。
「さっきの私の話、聞いてなかったの?殺したら意味が無い」
デモ隊の人間はそのサラリーマン風の男を離す。ぐったりとして廊下に横たわる。死んではいないようだが、鼻から垂れてる血が廊下の高級そうなカーペットに流れ出ていた。
「13:24分。容疑者逮捕」
モトコはそう言いながら、サラリーマン風の男に手錠を掛けた。