125 虚構新聞 8

社長の逮捕によって朝曰新聞及びテレビは営業免許を剥奪された。
最後の最後まで総理に対する批判は止めず、彼らが言うところの『サイレント・マジョリティ』が必ずや立ち上がっていつしか自分達の新聞・ニュースを中心に日本が蘇るという妄想を垂れ流していた。
犯行に及んだ理由は二つあり、一つ目は総理にテロを企てた人間がいることを世間一般の周知に晒すことで彼らが言うところの『サイレント・マジョリティ』の存在をしらしめる事。ただ、それも彼等自信が仕組んでいるわけだから本当にそれが存在しているのかは誰にも分からない。二つ目は、もし朝曰の関連性が疑われてもデモを誘発させることで社長や関係者を『誰かに』殺害させ有耶無耶にさせ、次期社長の座を狙う派閥が何かしらの特をする展開に動かすこと。
結局は次期社長を狙う派閥が誰なのかはわからなかったので、それが誰であれ経営権利を剥奪することでテロを起こす可能性を抑えた結果となった。実は今回、必殺仕事人こと掃討部隊がもし警察に止められて失敗した場合でも社長を殺害してデモ隊が殺した事にする段取りが整えられていたらしい。
サラリーマン風の男の名前は『霧島大輔』。
実行犯として朝曰新聞の下で動いていた。
そして彼は朝曰新聞の社員ではない。
エリート思考の強い霧島は朝曰新聞の社員が社員食堂として利用しているカレー屋『マラスカ』で3万円近いカレー昼食として朝曰新聞社員達が食べており、しかもその代金は会社が持つという話を聞き、入社すれば一生遊んで暮らせるなどという妄想を抱いていた。
そこに餌として採用をちらつかせた朝曰新聞の『誰か』が彼にテロの手解きをし、総理暗殺を企てた。
結局捨て駒にされた。
暗殺は失敗したがそれは朝曰にとってはどうでもよく、ニュースのネタになればそれでいい。視聴率も稼いでサイレント・マジョリティすらも捏造することができる。
霧島も被害者の一人だったのかもしれないが、それでも彼がトンネル上部に爆弾を仕掛けたのは事実だし、ただテロが起きたということをネタにするレベルだったが一般市民が巻き添えになったのも事実だ。死んだものは帰らない。
彼の罪は既にカレー屋『マラスカ』で3万円近いカレーを昼食として食べていた朝曰新聞社員を羨ましいと思った時点で確定していたのかもしれない。
「今となってはわからないけれども…」
とモトコは前置いて、次から次へとホログラムを切り替える。
そこには朝曰新聞のオフィスに爆弾が仕掛けられたと報じている過去のニュースがあった。どれも死傷者が出ている。
「自作自演なら死傷者は出ないはず…というのも、疑う余地があるのかもしれないわね。これ、全部、朝曰新聞上層部が仕掛けた大掛かりな自作自演だとしたら…?」
バトウは渋い顔をして腕を組んで言う。
「自分の会社の社員をテロに見せかけて殺して視聴率を稼いでいたって事か。そして『朝曰を憎んでいる恐ろしい集団』というサイレントマイノリティなんてのを作り上げて自分達の正当性を主張している…か。正気の沙汰ではないな」
それに対して俺は言う。
「きっと戦争をコントロールしようとしてるんだよ。人を操る事で戦争を操る。それが人の命を操る。朝曰新聞が犠牲者を出してまでテロを起こしてそれが人を動かせば、その人達が多くの人の生死を左右する事になる。…って考えたら、」
「待て待て待て。飛躍し過ぎだろう」
「あたしは3万円のカレーを見て驚いたからさぁ…」
「ん?カレーがこの話にどう関係してくるんだ?」
「一部の凄い人達はカレーに3万出しても平気なんだよ。人の命をコマみたいにコントロールして自分の利益を得ようと考える人がいても、それもまた、価値観の違いでしかないのかもねーって話」
「キミカ嬢は世の中の恐ろしいものを沢山見ているようだなぁ。おお、恐ろしぃ恐ろしぃ…」
バトウはわざとらしくカタカタと震えてみせた。
そんな様子をニタニタと笑いながらモトコは、
「キミカちゃんの言うこともまんざらトンデモ話じゃないかもしれないわよ?どっかの国は自国のビルに飛行機を2機突っ込ませて、それを戦争開始の動機にしたぐらいだから」
どこかの国ぃ?
どうせまた中国とか朝鮮の話でしょ。そんなくだらない事をする連中なんて決まってるんだよ。
「おいおい、何千年前の話をしてるんだ?」
「ほんの500年ぐらい前かしら?」
残念ながら俺の歴史の成績は最下位ランク。
二人の話しは判るはずもなかった。