126 中二病でも愛してる 1

「今日は皆さんに新しい友達を紹介しますにぃ」
担任のケイスケが教室に入ってからそう言った。
新学期でもないのに突然転校生か。
何かしらの事情があってそうなってしまったんだろうけども、教室に入ってきた転校生は背は小柄で俺と同じか少し低いぐらい、俺が140〜150の間だから相当低いか、片目に眼帯をつけて腕には包帯をした黒髪ショートヘア(リボン付)の、本当に何かしらの事情がありそうな雰囲気の女子だった。
しかもドロイドバスター・コンセプトモデルである俺達(俺、マコト、メイリン、コーネリア)に匹敵するほどの美少女だ。
男子達はヒソヒソとさっそく噂を始める。
女子達は複雑な表情でその眼帯美少女を見つめる。
「では自己紹介をお願いしますにぃ」
そうケイスケが話を進めると、眼帯美少女はニタァと笑ってからずいっと一歩前に出て自己紹介する。
「私の名は『ヘルズゲート・ヴォイドサム・ハートブレイカー』…黄泉の淵よりいでし邪悪なる闇の眷属…。この世界での仮の姿は『柏木桐華(かしわぎ・きりか)』。今後ともよろしく」
教室の空気が凍りつく。
こいつ…。
ちゅ…ちゅ…。
中二病だァァァッ!!!
なんだこの中2から精神的に成長していない系統の人間が高校2年生の教室に交じる感覚は…!!
痛い!痛すぎる!
人は他人にはなれず他人の気持ちなぞ理解できないとはいうものの、その痛い人間の側に立って今と同じ台詞を無理やりにでも言ってしまったら、周囲の人間はどんな目で自分を見てくるか想像に難くないと理解できるのだから、そういう意味でこの美少女は俺達に対しての精神的攻撃は、それを狙っているのなら十二分に通用しているぞ!
やめろォォォ!!!
「クックックッ…この左目の眼帯が気になるのか…」
いやいやいや!!気になってるのは眼帯どころの騒ぎじゃない!!関わってはいけない人間という意味でお前自身が十分気になってるよ!!こちとら防衛本能全開だよ!!
「これは神羅眼…アストラル界に存在する多であり唯一である存在『アカーシャクロニクル』にアクセスしその力を解き放つものだ…眼帯にはその力の暴走を防ぐために封印術式が施してある…」
いわゆる『中二病』レッテルを彼女に貼ることで存在を分別することができ、今まで凍りついていた教室の空気は次第に溶け始めていた。そして「あれ、中二病じゃね?」「うふふ…初めてみた」「うわぁ…痛いょォ(笑)」というクスクスとした笑い声も聞こるほどになる。そして大抵の人間はこの時点でクラスでは除け者・腫れ物扱いになり暗い高校生活を歩むことになる…。
そういうクラスのアンバランスな雰囲気を嫌っている元イジメられっ子ケイスケ(担任)はちゃんと彼女をフォローしてくれるんだろうか?ケイスケは中二病じゃぁないけどもクラスの除け者にされる心境なら理解できそうだけども。
しかしケイスケは面倒臭そうな顔をして、キリリとポーズをとっている中二病患者柏木桐華ことキリカの頭をぽんと叩き、
「何馬鹿な事をいってるんですかにぃ?早く用意された机に座って周囲に溶け込みなさい。ただでさえこの教室には変なのが多いんだからこれ以上カオス属性のアホ増やしたら主人公はカオスルートしか選択できなくなりますにゃん」
おいおいおい、俺達はカオス属性の悪魔かよ、合体されちゃうのかよ、どんな風に俺達を見てるんだよお前は。
「私の属性を見抜くとはなかなかやる…。いいだろう…ほんの僅かだが人間界の住民に我が力の片鱗を感じ取らせてやる」
そう言ってニヤリと笑うキリカ。
眼帯に手を掛けてゆっくりとそれをめくる。
最初はヘラヘラと笑っていたクラスの雰囲気は緊張が走り、殆どのクラスメートの視線はキリカの眼帯に覆われていた左目に集中する。
その時だ。
廊下や教室の外の遠くから何か声のような、電子音のような『叫び』が聞こえてくるのだ。教室をぐるぐると回るように…もちろん、ここは校舎の3階だから声の主がいたとしてグルグルと周囲を回るなんてできるわけがない。
「おぉぉおおぉぉぉおおぉぉぉぉおおぉぉぉぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺だけの幻聴じゃない。
クラス全員が声の主を探すように教室の外の窓や廊下を見るがそこには何もない。
一人の女子が「ヒッ!」と小さな声を上げて顔をキリカから逸らす。一体何が起きたのかと俺はキリカの左目を見る。
漆黒。
左目は繰り抜かれたように何もなく、ぽっかりと穴があいて眼の奥は漆黒の闇が広がっている。
その奥からどす黒い血が溢れでてくるのだ。
ぽた…。
ぽたぽた…。
ぽたぽたぽたぽた。
ドロォ…。
教室のフロアが血に染まる。
ちょっ…血、出すぎじゃね?
なんか消防車がぶっ壊れて水まき散らしてるみたいに大量の血がドバドバとキリカの目から出てきて教室血まみれ。床は血で浸水。クラスメートはパニックだ。
大抵のことでは驚かないメイリンやコーネリアまでもが慌てて地面から足を離して、机の上に足を置く。
その血の中から鎖に繋がれ、目をくりぬかれて、舌を抜かれた男や女が飛び出してきて叫び声を上げる。そいつらの叫び声がさっきから教室の周りをグルグルと回っていたものだったと初めてここで知る。
「な、な、な、なんじゃこりゃァァッ!!!」
俺は叫んだ。
「みんなどうしたんですかにぃ?」
そんな間抜けなケイスケの声ではっと我に返る。
全員が。
全員が同じ幻聴を、幻覚を見ていたのか?
そのケイスケの隣にはくすくすと肩を揺らして笑っているキリカがいる。あのぽっかりと穴の開いていた左目には、そんな変な状況になっているわけでもなく、ただのカラーコンタクトが『普通の』目を覆っているだけで特に変哲もない。
なんなんだ?
催眠術なのか?