170 にぃぁ放送局 10

黒い腕輪の中に収められたMPU(量子演算ユニット)とデータチップ。
その中にはにぃぁの鳴き声から採取したデータをバイナリ変換して得た『人工知能』がインストールされ、そして起動している。
今のところは外部インターフェイスはネットへの接続のみ。そして出力側として俺へホログラムデバイスを用いて何か発言するのみ…もしAIにちゃんとした意思があるのなら何かを語りかけてくる…はずなのだが、今のところそれはなし。
もう1週間が経過したがあの時のままだ。
あいも変わらず今日も俺はにぃぁの声を採取しては人工知能へ渡すデータへと変換している…近々それも自動化するようシステムを組み上げようと思っていたところだった。
インストールして起動したけれども、もしかしたら眠っている状態じゃないのか?やっぱり雑音のようなデータは雑音以外の何者でもなかったんじゃないのか?
そんな気がして俺はAIの中のニューラルネットワークの配置が変わっているかどうかをシドにチェックしてもらおうと依頼したりしたが、シドもさすがにそこまでは技術力は無いと断られた。そして、『配置は変わっているだろう』と言い切られた。
当然のように言われても…俺は素人なんだからそれが本当かどうかはこの目で見ないとわからないわけだ。
そんなある日の事だった。
あいも変わらず夜遅くまで俺はMap Proの前に座ってネットの情報をかき集めたりしていた。何かしらの答えがそこにあるかもしれない、俺と同じことをしている奴が世界のどこかにいるかもしれない…なんて淡い期待を持ちながら、英語のサイトをCoogle翻訳させながら、かき集めていた。またしても何もないなぁ…なんて思いながらも。
それにしても、最近こんな事ばっかりしているからか知らないけれどMap Proがちょっとだけ重たくなった気がする。今までは人間では感じ取れないぐらいの微妙な処理の重さはあったとは思うけれども、今は目に見えてわかるぐらいに重い時がある。
前にも同じ現象は起きてて、俺がアニメを動画サイトで見ていた時にケイスケも同じ様にアニメを動画サイトで見ていた時だったかな、ダブルで膨大なデータを受信するから「ウキィィイィィ!!」というケイスケの叫び声が1階から聞こえた後に重戦車が歩行するような足音が階段を駆け上がってきて俺の部屋の扉を蹴り開いて「キミカちゃん、ボクちんがアニメ見ている時はネットしないで欲しいにぃぃぃああぁぁぁぁ!!!」などと怒り狂う事があった。
そもそも、俺がこの家に来る前からケイスケ宅では専用線を引いててネットの通信環境は快適なはずだけれど、高画質アニメを同時ダウンロードするとさすがのンテテ社の高速回線もパンクするようだ。
しかし今日は…ケイスケはいない。
入院しているからだ。
だから俺はこの重さがネットの重さじゃなくてMap Proそのもののの重さのような気がしてならないのだ。
Map信者として自分のパソコンの中身がどんどん重たくなっていくのは信者が信者らしからぬ使い方をしてしまっているから…。例えばゲームをインストールしまくってるとかエロ画像を得るためにエロサイトに接続しまくってるとか、そういうUindowsユーザのようなクソみたいな使い方をしているとMapはどんどん重たくなる。というよりも薄汚れてしまう。清潔で純血で高貴なる存在であるMap機がUindows機のように下劣で貧相で下品極まりない存在へと堕ちてしまうのだ。
とりあえずゲームとかを消すか…。
エッチ画像は勿体無いから消さない。
ん?
でも、ネットでデータ通信していない間は操作は軽くなる…なぁ?どういうことだぁ?まるでケイスケが1階でアニメでも観ているかのような重さが来るんだけれども…。
マコトは俺の後ろのほうでベッドに入ってスースー寝息を立てて寝てるから…あとはにぃぁがネットしてるからとかあるけれど、にぃぁは庭でさっき猫の集会みたいなのに参加してたから違う。
じゃあ…誰だ?
ナツコか?
でも、ナツコの部屋からはスプラッター・ムービーの悲鳴が聞こえるだけだし、ああいう映画はネットには転がってなくてそこらの廃れたレンタルビデオ屋の奥の方に眠っている奴を借りてダビングしてるんだよな。じゃあ、ナツコだってネット通信してない。
ふと俺は部屋のタンスの上に置いてあるWiFi機器の通信ランプを見た。見てしまった。何気ない空気の中で見てしまった。
青のランプが通信していない状態。緑のランプが通信中だけれどデータ送受信はそれほど無い。黄色のランプは通信中でデータ送受信が激しい。そして赤のマークがデータ送受信が停止している。
黄色だ。
黄色のマークが出ている。
つ、つまり、つまりだ。
落ち着いて考えろ。
もちろん入院しているケイスケではなく、寝ているマコトでもなく、外で猫達と夜間集会しているにぃぁでもなく、ナツコでもない。
この部屋から…通信して…いる。
「こ、この部屋から、通信してる?!」
俺が何もしていないのに、何者かがこの部屋からネットに接続している!!こう見えても少しはOSやらプログラミングの知識はかじっているわけだ。ドヤリングの為だったとは言えど、知識はあるわけだ。使用者様がネットしてないのに通信が発生してるってことは…。
「ぱ、ぱそこんが、はっきんぐされてるよゥゥゥゥ!!」
俺は思わず叫んでしまった。
そして頭を掻きむしってしまった。
落ち着け。
落ち着こうか。
まだ…そう決まったわけじゃない。
が、カンでは9割9分9厘ぐらいがハッキングだ。
ヤヴァイ。
すぐさまMap Proのプロセスを見る。
アレぇ?!
CPU使用率が0に近い…っていうか普段と同じじゃん。
これじゃないとするとサーバか?!サーバも使用率0かよ!
まさか…あははははは…まさかぁ…
俺はMBAが入っているバッグを指さして声を出さずに笑った。
MBAちゃんじゃないだろうなぁ?
開いて画面からCPU使用率を…0だ!ウワァァァ!!どこだ?!どこから通信してんねん!俺、Map ProとサーバとMBAしか持ってないぞ!誰だよ他に通信装置を仕掛けてんのは!!
あぁ、そうだった。
最初っからルーターWiFi機器)の中を見ればよかったんじゃん。ここで誰がどこからルーター経由してネットと通信してんのかわかる。
「見てろよォ?…もし隣の家の奴が勝手にうちのWiFi使ってたら深夜だけどバット持って肩パットつけて乗り込んじゃうゾ!♡」
などと独り言を言いながらルータの通信ログを見る。
『AIWatch』
…。
え?
えぇぇ?!
これって俺がAIがネット通信するように開設してるアドレスじゃん。
あぁ、そうか、AIかぁ…。
…。
「え、ちょっ、えええぇぇええぇぇぇ?!」
通信してる?!
人工知能がいつの間にかネットサイト巡りしてる?!
お、おい、落ち着けよ。落ち着こうか。
まだそうとは決まったわけじゃない。確かにAIWatchがネットと通信してることは確実に決まった。が、それはただ単純に何かしらのエラーのような動きで無意味なデータ送受信をしてる可能性だってある。だって雑音を集めて作ったAIだぞ。AIとしてまともな動きすらしてない可能性だってあるじゃないか。
だから俺は通信ログからさらに通信データをダンプして、解析する。既に時計の針は早朝の4時を回っていた。そろそろ新聞屋さんが新聞をポストに叩きこむ時間であり、チュンチュンと雀だか燕だかの縄張り争いの喧嘩声が聞こえる時間でもある。
しかし、人類にとって未知なる領域に踏み込もうとしていた俺の興奮はそんなものを消し飛ばすぐらいの威力があった。
解析した通信データをサファリパークでシュミレートしてみる…このシュミレーターは通信データからサファリパーク(ネットブラウザ)でどのように操作が行われてどんなサイトを見てどんな発言・書き込みをしたかまでを全部、シュミレートする機能なのだ。まぁ、どこの誰かが勝手にパソコンを操作した場合でも通信ログはルーターだとかサーバだとかに残るわけで、そこから犯罪者野郎がどんな事をしたかを人に分かりやすく説明する為の機能と言ってもいい。
つまり、俺が何をやろうとしてるのかを素人に分かりやすく説明するのなら、AIが無意味な通信をしていたかどうかが、このシュミレーターを見ればわかるのだ。
ふむふむ…2chを見てる。
…だとゥゥゥゥゥ?!
何を見てるんだ?!
…。
き、既婚女性板…。
…だとォォォォォォゥゥゥゥゥ?!