152 NEED de NEET 3

練習しなければならない。
練習出来るのはネットワーク端末を持っていないメイリンを除いた3名だが、それでも何もしないよりかはしたほうがいい。
九龍城砦(ガウロン・センジャーイ)のマップはパブリックなゲームサイトでも公開されてるし、そのマニアックな難易度の高いマップをプレイする人もある程度はいるけれども、俺達はなるべくTAKESHIに挑む環境と同じ状態を実現して週末までの5日間、練習しなければならない。
ローカルサーバでゲームを起動させて3人で練習するのがいいのだが、仮想空間を起動出来るほどのハイスペックなマシンは俺達は持っていなかった。しかし、ナツコの提言で身近な人でそんなハイスペックサーバを持っている人間がいると教えて貰ったのだ。
そう、同じ屋根の下で暮らしている人…。
ケイスケ、その人である。
じゃあ妹のナツコが一言「貸してよお兄ちゃん」と言えばいいんじゃね?と思われるかもしれないが、年頃の妹が兄にお願いをするのは俺妹のヒロインぐらいなもんで現実とは悲しいもの…会話すらないのが事実である。
で、俺がお願いすることになった。
「ケイスケお兄ィちゃーん」
と俺が話し掛けると、
「サーバなら貸さないですにぃ」
「おいいいいいいいいいいいい!!!!」
はぇぇよ!!
「っていうか何でサーバ貸して欲しい言ってあたしが言おうとしてたのかが分かったの?!盗聴でもしてたの?!」
「なんとなくそんな雰囲気がしてたからですぉ」
どんだけ俺はサトラレ状態なんだよ!!
ケイスケは予約していたケイスケが言うところのあまり面白くないアニメを早送りで見ながら俺のお願い事を即答で断りやがった。内容すら知ってないのに。
「いいじゃんかよ!!!」
「キミカちゃんにサーバ貸したらまた前みたいに電源切るのに変なコード引っこ抜いて火事起こしたりするにゃん。前回が火事だったから今回はもっとグレードアップして爆発だとか架空請求だとか児ポ法違反で警察突入とかとんでもないアクシデントを起こすに決まってるにぃ…(白目)」
なんだよそれは!俺がウケ狙いでアクシデントでも起こしてたかのような人聞きの悪い事を言うんじゃないよ!!
「先生、ボクからもお願いするよ」
とマコト。
「なんでマコトちゃんも関わってるんですにぃ?ネトゲするのはキミカちゃんぐらいじゃないですかぉ?」
本当に盗聴はしてないようだな。
「実は柏田重工の兵器研究所がウイルスに感染されたAIに乗っ取られてるらしいんだ。ネトゲでそのAIに勝てばこちらの言う事は聞いてくr」
「どうせそんな事だろうと思ったんですにぃ!ナツコ・オブ・糞妹が絡んでたんですにぃぃぃ!!(睨」
突然『ナツコ』というキーワードが出てきたからか、1人、食事をしていたナツコが身体をビクつかせる。ちなみにナツコはさっきまで2階でホラービデオを見ていたから時間は俺達よりも遅れて、1人で食べていたのだ。
さすがに『ナツコ・オブ・糞妹』という凄まじいキーワードが出てくるとマトモな神経している妹諸君なら怒らないはずはない。
ナツコもマトモな神経をしている妹諸君の1人だった。
「お、お兄様は家族なのに、いつもいつもわたくしの事は助けてくれないんですのね!!そんなのだからいつまでたってもアニメばっかりみててヒーローゴッコにうつつを抜かしている偏屈な大人になってしまうんですわ!!」
「ヒィィィロォォォォ…ゴッコ…だとゥゥ?!」
額に青筋立ててキレてるケイスケ。
さすがにゴッコは言い過ぎじゃないか?
妹は兄の事を見てないようで見てるようで…一番痛いところを突いてくる嫌味が速攻で出てくるもんなんだなぁ、なんて妹の居ない俺が思ってみる。
「ま、まぁまぁ、ふたりとも落ち着きなよぉ」
と二人の間に入って仲を取り持とうとするマコト。では俺は何をしているかと言えば夕食後のデザートとして買っていたサーティワンアイスクリームを冷凍室から出そうとしていた。
バカバカしい兄弟喧嘩には付き合ってられない。
思うに兄弟ってのはお互いに似ている部分が多いから、相手が存在してると世界に自分が二人いるような気がして、いわゆる『自分の価値が半分だけの状態までうすれる』って勘違いする人が多いんじゃないのかな。
そんなネチネチとした現実の問題がテレビなんかでは家族愛だとかでなんとかオブラートに包み込もうとしてるんだよ。やっぱ醜い部分を曝け出さないと愛ってのは分かり合えないもんだと思うよ。相手を理解しないと愛は芽生えないし、理解できないのならそこで愛は終了なんだよ。
世界中が平和で満たされるはずだとか思ってる人達は、まずこのケイスケ vs ナツコの喧嘩を止めてから言って欲しいね。
こんな身近でしかも血の繋がりのある兄弟の喧嘩を止めれないで世界の平和を維持出来るなんて安っぽい考え方を持たないで頂きたい。
さてと、サーティワンアイスクリームの『チョコ・アンド・チップス』を頂こうとしましょうかねぇ…これはチョコがアイスの中にいながらも感想していて口の中に入れると「サクッ」といういい食感を奏でるところが良いんだよね。お気に入りのアイスクリームのうちの一つだよ。
「って、食われてまんがな!!」
俺は思わず冷凍室に向かって吠えてた。
誰だよ!!
人のアイスクリームを食い散らかす糞デブ野郎は!!
しかも後2センチぐらいの塊を残して(チョコチップは偶然にもその塊の中には存在しない状態で!!つまりアイスクリームのみになってるゥゥゥ!!)汚らしくもプラスティック・スプーンをツッコんだ状態で!!
「あ、あれ、キミカちゃんのアイスクリームだったんですかぉ?てっきりナツコのアイスクリームだと思って食っちまいましたにゃん、テヘペr」
「何してくれんねん!!!」
俺は凄まじい勢いでラリアットをケイスケの無い首に放っていた。
「んブッ!」
(ズーンッ)
巨体が床に沈む。
しかし、ケイスケはデブ…首の肉が防御壁になってダメージは殆ど食らってない…ライオンの鬣(たてがみ)効果かよ!!
「わたくしのアイスクリームだったら食べてたとか、やっぱりいつもアイスクリームを食べ散らかすのはお兄様でしたのね!!」
「あたしのアイスクリーム返せ!!」
「返せばいいんですかぉ?ぉぇぇぇぇ…おぇぇぇぇ…一度胃に入ったものは出そうと思っても出ませんですニャン!」
コォんノやろうゥ…。
「大体、アイスクリームごときでそんなにブーブー文句言うのもおかしいですにぃ!!キミカちゃんのお小遣いは結構あるはずなんだから買ってこればいくらでもてにはいりますにゃん!」
「だからその買ってくるのが面倒くさいんだよォォ…」と、グラビティコントロールでケイスケの巨体を持ち上げて、上へ吊るしながら睨んで言う。さすがにこの体勢では首が締まって窒息死寸前になるケイスケ。
「じゃ、じゃぁ、ボクチンが今から買ってきますにぃ…」
間髪入れずにナツコが言う。
「わたくしのアイスクリームを勝手に食べた償いもしてもらいますわ!」
ケイスケは身体を痙攣させながら、
「それはしないですぉぉぉぉ!!!」
と、白目剥いて吠える。
「食べ物の恨みは恐ろしいんだよぉぉ!!」
俺はさらに締め上げると、
「わ、わかったですにぃ…」
デブは泡を吹きながらそう言った。