98 第3次池袋カラーギャング抗争 1

東京にあまり詳しくない俺から言わせると池袋という街はあまりイメージはよくない。俺が東京に来てからまず頭に思い浮かぶキーワードと言えば六本木だとか秋葉原だとか吉原だとか、とにかく、そこは何か怪しいものがあったとしても結果的には楽しい事へと繋がる。
しかし、この池袋という街は東京の悪いものがその一箇所に集まっていて、良くも悪くもそういう事情があるお陰か、他の部分が人様にお見せ出来るものになっている。
最初ジロウから仕事の内容を聞いた時は、池袋の「イ」が出たところで次に出てくるキーワードはヤクザだとか暴走族だとか肥溜めクラスのイメージしかわかなかった。
とにかく、俺の中での池袋のイメージは女神転生で言うところのガイア教徒の本拠地があるような場所なのだ。ちなみにメシア教徒の本拠地は六本木。東京編のラスボスが住んでるのは夢の島だよね、やっぱり。夢の島はフィールドを歩いてる時にダメージを食らうんだよ。
「よし、ではさっさと仕事を終わらせましょう」
俺はこの糞溜めのような街を闊歩した。
とりあえずワルって感じの奴に聞けばわかるだろう。
しかしそれにしても不良は意外と少ないな。
「何を探してるんで?」
ジロウが聞いてくる。
「不良」
「不良?」
「そうそう、不良とかチーマーとかヤクザとか…あ、ヤクザはここにいるか」と俺がジロウを見てわざと驚いてみせると、
「そういう類のものならさっきから周囲にいますが…あれはキミカさんのお目に叶う不良ではないってことですか?」
は?
俺は周囲を目を凝らしてみたが特に普通の若者達が屯ってるだけで俺のイメージする「不良」って感じの奴等は全然居ない。
「キミカさんの中ではどういうイメージが不良なんです?」
「えっと…なんかこう、頭にポマードをたっぷり塗ってたり、こう、ボーン!と(俺は髪の毛がボーンと飛び出ているジェスチャー)ほら、パーマを掛けてたりモヒカンで肩に刺青入れてたり…」
「今時そんな不良はギャグアニメの中でネタでしか存在しませんよ」
「じゃぁ顔にピエロの化粧をしてバイクに乗っててジョーカーって名乗っててクラウンって暴走族のリーダーのデブとか?」
AKIRAの世界の話ですか?」
「ちっ…知ってたか」
「今時の不良っていうのはカラーギャングと呼ばれていますね。ほら、あの同じ色の装飾を身体のどこかにつけているでしょう。あんなふうに同じ色同士は仲間なんですよ」
カラーギャング…ねぇ…」
見た感じは普通に街の人としか思えなかった。違和感なく池袋という街に溶け込んでいる。いや、池袋という街が彼等を違和感なく溶けこませる悪い雰囲気を醸し出しているのかもしれない。糞の中に糞が溶け込んでいてもわからないように。
見ていても始まらない。
とりあえず俺はその「カラーギャング」と呼ばれる不良達の1人に話しかけた。4人が路上に腰を降ろして何か話をしているのだ。
「えっと…」
近づくと4人が揃って俺の方を見る。
年齢は中学生か高校生か、とにかく大人ではない。
俺の住んでる田舎でもコンビニの前とかにああいうのがいる。私服じゃなくて制服姿ではあるけど、中にはコンビニの入り口に座っているバカも居てはっきり言って出入りする客の邪魔になるだろうから死体にしてやろうかと何度か思ったこともあった。しかも連中、可愛い女の子が通るとジロジロと見てきやがる、あ、俺の事だけどね。
そういうのが不良っていうのなら高校生や中学生はみんな不良って事になるんじゃない?俺がイメージしてた古き良き時代の不良達は何処へ…みんな女々しい格好をしやがってよゥ…。
その4人も田舎(山口)の高校生と同じ反応だった。
しかしセリフがついてるのは田舎とは違う。
「ひゅー!こんな可愛いお嬢さんが俺達に何の用事かなぁ?!え、お前の彼女?それともお前?違う?って事は俺の彼女ォ?!」
頭にウジでも湧いてそうな話し方だな。
「えっとですね…ちょっと質問が」
「えー!!マジッスか?俺に?俺に?っつかまだ心の準備が!その前に、キミの隣にいる男はなんなの?それが彼氏かどうかで俺の返答は変わっちゃうよォ?!」
俺がどういう質問をするのかわかってるのかぁ?
「池袋でギャングだか暴走族だかチャイニーズだかの抗争があって、けが人とか死人が出たとかそういう話が、」
「はいはい、この話しは終わり」
「えぇッ?!早ッ!」
その糞ギャングは俺が一言二言話したらあっちゅうまにそれを手をパンパンと叩いて遮って終了宣言を出しやがった。
何か聞かれちゃマズイものがあるのか?他のカラーギャングも俺にガンでも飛ばすかのような勢いで近づいてきて、
「おたく、何?ケーサツの人?何の用事?」
「俺達まだ何もしてないんスけどー?」
至近距離に近づいてくるのを察してジロウが間に入る。さながら美少女のボディーガードだ。しかし不良達はそのオッサン(ジロウ)が気に入らないらしい、最初っからだ。
「あぁ?てめぇは何?何なの?」
その人ヤクザだよー。
って言おうと思ったけど知るわけないか。ジロウはヤクザの事務所に居た時はヤクザに見えたけど、こうやって街の中に溶けこむとただの真面目そうなオッサンだからなぁ。
その時だった。
俺達が不良(カラーギャング)に絡まれてるのが気になったのか、どこからか1人の男が現れてニコニコしながら間に入ってきた。
「はいはい、喧嘩は終わり」
パンパンと手を叩いて割り込んでくる。
上も下も黒の服、髪も黒、ハンサムな顔立ちで長身、そして色白の男。ひ弱そうな、優しそうな表情と雰囲気がある。服のセンスだけで言えばカラーギャング達とは一線を画している。
しかし、何故かカラーギャング達はその男が間に入ってくると、舌打ちをしながらその場から離れたのだ。
何者なんだ?