98 第3次池袋カラーギャング抗争 2

「僕は井ノ内、以後お見知りおきを」
そう言って不良を撒いた男こと「井ノ内」は俺達にお辞儀をした。それから俺が何かお礼を言う前に話し始める。
「いやぁ!危なかったですねぇ!今のはカラーギャングって言ってですね、この池袋じゃとーっても怖い人達なんですよォ!ついこの前もカラーギャング同士の抗争で死人が出たとか…(身体を縮こませてガタガタ震える仕草)人の命なんてなーんとも思ってないこわーい人達なんです!どうして話しかけちゃったんですゥ?」
この井ノ内という男、今俺達が求めていた情報のキーワード…「池袋」とか「カラーギャング」とか「抗争」とか「死人」とか…スラスラと並べてくれたな、まるで俺の心が読めるかのような。
だからちょっとわざとらしく思えてくる。
「いやぁ、ちょっと興味がありまして…」
と俺は頭をポリポリと掻きながら言う。
「へぇ〜!!…もしかして…左のかた(ジロウを指して)ヤクザさん?そしてもしかして右のかた(俺を指して)組長の娘?」
冗談で言ってるようで既に察しているようでもある。
俺とジロウは顔を見合わせた。
ジロウは俺の顔を見て別に(自分がヤクザであることも)話していいよ、的な仕草で首を竦めてみせる。よって俺は、
「どうしてわかったの?」
「(口をぽかーんと開けて驚いたような仕草で)いやぁ!だってほら、こんなヤバイ街に来てヤバイ事を聞く人なんてヤバイ人以外ににはありませんじゃないですかァ〜!」
「ま、まぁ確かに」
「でもどうしてそんな事に興味があるんですかぁ?」
「えっと…」
「あ〜!OKOK、言わなくてもいいですよ!カラーギャングになりたいんですよね?お二人とも失礼ですけどどうやらここいらに住んでる人じゃなさそうだし、田舎のほうから出てきたようにも見えますし、失礼ですけどお二人とも都会だとかギャングだとかに憧れを抱いてるようにも見えますし!!いいですよ〜!僕がカラーギャングについてお教えしましょう!僕は情報屋でしてねぇ…池袋に『井ノ内』ありとまで謳われた事もあるんですよォ?僕が教えるのがこのシーンでのスジってものでしょう?そう思いませーんか?」
「は、はぁ…」
まぁ色々と教えてくれるのなら俺は構わないけど。少々しゃべりすぎじゃないか。東京じゃこれが普通で俺が寡黙過ぎなのか?
男が「ここではなんだから」と俺とジロウを案内したのはオープンテラスつきのカフェだ。トンキン人じゃない俺に「池袋」的なものを言わせても信ぴょう性は欠けるが、さっき同じ色の装飾を身体のどこかにしている「カラーギャング」達が周囲に見かけられず、サラリーマンが沢山いるところだからここは「池袋」的ではない場所に見受けられる。
「池袋ではですね、『カラーギャング』というものが存在するようになってからかれこれ100年…様々なカラーギャング達が生まれては消え生まれては消えを繰り返してきたのですよ!今もこの街には大小様々なカラーギャングが存在していますが、その中でも規模が大きなところは『レッドツェッペリン』と『ブルーマンティス』ですねぇ!」
「ほうほう…レッドにブルー…運動会の組み分けみたいだね」
「そう!カラーですから!」
「あぁ、なるほど」
「身体の一部に同じ色の…そうですねぇ、原色系が多いかな。青とか、赤とか白とか、そういう原色系の装飾を施しているチームがカラーギャングと呼ばれるのは、原色系の布が調達しやすいし、遠くからでも分かりやすいからでしょうねぇ…例えば信号機の色とかは今までのカラーギャングでは最も使われた色ですよ!他の色…例えば無色とかもありましたけど無色は無職、なんてバカにされたりしていつの間にか消えちゃったりしましたけどねー!」
そしてヤクザと呼ばれたジロウが質問する。
「そのカラーギャングっていうのは常に他の色のチームと殺し合いレベルの抗争をしてるもんなんですか?」
「たまーにありますねぇ…でも池袋って元々こういうところでしょう?カラーギャング同士のいざこざも今に始まった話でもありませんしぃ…ほら、アキバにはアニメがあるように池袋にはカラーギャングあり、って世界的にも共通認識なんですよォ!だからなのかケーサツもあんまり介入したがらなくてですねぇ…そして、それはそれで風情があっていいなんて言う人も居ますけどねェ!僕はそうは思わないんですよォ!だって、ほら、カラーギャングってヤクザと違って商売で人をいじめてるわけじゃないんですよ!ヤクザってなるべくトラブルを起こさないようにしてお金を稼ごうとするじゃないですか!でもカラーギャングはもうやりたい放題!お陰で殆どのチェーン店が池袋から撤退したんですよ!見てくださいこの街を(オープンテラスから周囲の店などを指さして)チェーン店が一つもない!寂しいじゃないですかァ!」
「いま気づいたけどほんとだ」
山口よりもチェーン店少ないじゃんワロタ。
ジロウは再び質問する。
「チェーン店が狙われるっていのは何かあるんですか?」
「あ!さすがヤクザのかた!いいところに気づきますねぇ…」
ヤクザだから気づくのか?そうなのか?
「チェーン店だけが狙われるっていうのは、ここに昔からある店舗はヤクザのシマだから狙ったら大変な事になるんですよ!」
「なるほど…え?例えば八百屋が襲撃されても?」
「八百屋を襲撃するカラーギャングは居ませんけどねぇ…。あぁ、そういえば昔、八百屋がシャッター下ろした後にシャッターに落書きしたカラーギャングがヤクザに指を全部ツメられてましたっけ?」
「うひぃ…」
俺が驚くのを見て、いたずらっ子が自分が仕掛けたイタズラが成功した時のような顔でニヤニヤと井ノ内は笑った。