98 第3次池袋カラーギャング抗争 6

おそらく、意識を失っていたであろう本田(デブ)が最初に目を開いてから見たのは、今まで自分がボスとして君臨していたブルーマンティスの40センチだか少し高い位置にある舞台の上にちょこんと座っている140センチだかの小柄な女の子(俺)の姿だろう。
「おはようデブ」
と俺が微笑みながら言う。
「てンめェ…そこで何してんだコラァ!!」
起き上がろうとするもロープでグルグル巻き状態にされて椅子に括りつけられている事に気付いた本田は状況をようやく把握したのかそれ以上暴れるのをやめた。
状況とは…。
ルーマンティスのボスであったカラーギャング「本田」はブルーマンティスのボスの座から引き摺り下ろされて、そして今、この東京池袋カラーギャング『ブルーマンティス』のボスは俺となった。
ほんの数名をボコっただけで連中は恐れをなしてデブ(本田)を差し出して自ら俺の配下につきやがった。物分りがいい連中だ。彼等を不良だとかチーマーだとかカラーギャングと呼ぶにはちょっと可哀想な気がするではありませんか。こんな物分かりのいい連中を。
「目的はなんだ?」
俺を睨みながら言う本田。
実際の俺の目的は伏せておこう。
「ブルーマンティスを乗っ取り、池袋でトップのカラーギャングとして君臨する…(白目」と俺は静かに言った。
それを聞いた本田は、
「は…は…はっはっはっはっは!!はーーーーっはっはっ!!これはウケる!!!おもしれェよお前!!本気でそんな事思ってんのかァ?!お前みたいな田舎モンのお嬢ちゃんに何が出来るんだァ?」
と大笑いしながら言う。
しかしカラーギャングの1人が元ボス(本田)に言う。
「ボス…コイツ、めちゃくちゃ強いですよ?」
「はぁ?喧嘩が強いだけじゃぁレッドツェッペリンは殺れねぇよ」
「いや、さっきスゴかったんスから、警察が俺達を取り囲んでる時に、こう手をお腹の前でグッと合わせるとですね、なんかわけわかんない力で路上駐車してあった車とかがひっくり返って道を塞ぐんですよ。エスパーですよ!コイツ!あ、ごめんなさい、キミカさん」
カラーギャングが俺の事を「コイツ」呼ばわりしたので殺そうかと近づいたけどごめんなさいしたので今は殺さないでおこうと思った。
「マジか…」
さすがに今まで部下だった1人から聞いた話は信じるらしい。
本田は俺を見上げてから、
「そうか…確かに、タダモンじゃねぇとは思ってたが」
と言った。
そして続けて、
「お前ならレッドツェッペリンの連中を殺れそうだ…俺達はなぁ、仲間殺されて力さえあれば復讐してやりたいって思ってんのよ!!手伝ってくれねぇか!!!」
情報屋の話とジロウの話を一致するな。どうやら例の兵器で殺されたのはブルーマンティスの一員らしい。
「おい!お前らもなにぼーっと座ってんだ!土下座しろ土下座!この姉御にお願いすんだよ!!レッドツェッペリンに復讐する手伝いをしてくださいってな!!それが健吾の弔いだろうが!」
健吾っていう奴が殺されたのか。
元ボスの号令で1人、また1人とブルーマンティスのメンバーは俺に向かって土下座していった。
俺はそんな連中を見ながら、
「池袋の頂点に立つ!それを邪魔するのなら例え親だろうが子だろうが老若男女全部敵だよ!ヤクザも警察もひれ伏せてやるよ!レッドなんとかとかイエローなんとかとか知ったこっちゃない!これからあたしがボスになったブルーマンティスは確変状態に入る!」
その俺の号令に引き続いて連中は「おー!」とかけ声を上げて腕を空へ向かって振り上げた。新・ブルーマンティスの開始である。
そんな喜びに満ちた会場の中で落ち着いた声でそっと話しかけてくる男がいる。ジロウである。
「本気でボスを演じるつもりなんですか?」
「レッドツェッペリンの中に侵入したらもっと良かったんだろうけど、まぁこの人達の立場ってものもあるし、復讐したいってんだから復讐させればいいじゃん」
「いや、しかし…こんな若い奴らに抗争だとか…そういう汚らしい世の中を教えたくないなんて思いまして…」
「んまぁ…底辺なヤクザさんが何を言うのかと思えば」
「…自分、底辺なヤクザですが…やっぱり人と人が無益に傷つけあうってのは…そういうのを喜べるほど底辺には落ちてません。それにコイツらだって、一人一人、誰かの子であり、ひょっとしたら誰かの親な奴もいるかと思うと…」
「知ったような口を。ヤクザさん。間違いってのはね、自分で経験しなきゃわかんないもんなんだよ。本気でぶつかって本気で破れて、それで初めて得る経験もあるんだよ。アンタは誰かの親なの?子供にとってなんとなく危険だからって何もかもを禁止すると子供は世の中ナメ腐ったようなバカになるよ?危険な事をどんどん経験させて、強くならなきゃ。無菌室で育てられた子供はアレルギーになりやすいんだよ」
「…」
ジロウは俺に言われて、反論できなくて俯いた。
ルーマンティスがどんなにクズな連中だろうと、元ボスの本田のあの真面目な顔を見ると本気で仲間の弔いをしたいんだというのが解った。弔い合戦が悪いことだという事もわかる。
しかし、それがなきゃあぶり出せないんだよ。
巨悪が。
俺はチナツさんが言っていた言葉を思い出していた。
「…大抵の人類における戦争は『偽物の正義』と『偽物の正義』のぶつかり合いだ。それをすることで富を得ているものが双方に居る。金を右から左へと動かせば資本主義だ。その資本主義の体のいい言い訳であったりもする」
ここで富を得ているもの…それはパワードスーツの試験運転みたいな事をカラーギャングの抗争を利用して行なっている糞野郎だ。