98 第3次池袋カラーギャング抗争 5

カラーギャング1名を自販機へと吹き飛ばした後は、連中の目から見たら「ほぼ同時に」その隣りの奴と、隣の奴、そして隣の奴、つまり俺の周囲に居た一番俺をからかっていた糞野郎を中心にボディブローやフックや肘鉄やアッパーなどで次から次へと地に沈めた。
倒れて唸っているカラーギャングの1人をグラビティコントロールで引っ張り起こして襟首を掴んで持ち上げた。ただ身長が140センチかそこいらの小さな俺が持ち上げたところで長身の男の足は地面から離れるわけがない。唸りながら足をだらんと地面につけている。
「地理のお勉強をしましょう…(白目」
周囲のカラーギャングどもは俺の凄まじい強さに俺との距離を3メートルぐらい放してから「なんなんだよ!コイツは!」とか「化物かよォォ!」とか「早く逃げようぜ!」と言いながら怯えている。
俺はその男の身体を日本地図に見立てて、
「まず…北海道がここ!」
(ゴスッ)
男の頭に頭突き。
「本州がぁ…ここ!!」
(ボスンッ)
男のミゾオチにボディブロー。
「でぇ…九州が脚でぇ!!!」
(バキッ…)
男の太ももに膝蹴り。
山口県は本州と九州の境目だからァ…!!」
と俺が腕を構える。
もう山口県が何処なのか分かった優秀な生徒達は「おい…やめろ…」「もうわかったからやめろ!」「うわぁぁぁぁぁ!」と叫ぶ。
…。
「ここォォ!!」
(ゴスッ)
俺は男の股間にアッパーを食らわした。
ドロイドバスター状態で手加減をしていたとはいえ、男の身体は無残にも少しだけ宙に浮いた後、地面に力なく倒れた。口から泡を吹いて身体全身がピクピクと痙攣しながら。
そこでジロウが俺に肩をぽんと叩き「マズいですよ」と言った。
「はぁ?何がマズイの?ヤクザのアンタが手加減しましょうとか言うんじゃないでしょうねぇ?!」と俺は怒鳴った。
「いえ、サツが来ました」
「ちっ…」
見れば道路の向こうからパトランプが点滅している。2台か3台ぐらい。白バイも見受けられる。騒ぎを聞きつけた住民だか通行人だかの誰かが警察に通報したらしい。そろそろ潮時か。
しかし収穫がないのは困る。
「やべぇ!サツが来やがった!」「ズラかろうぜ!」「っていうかさっさと逃げようぜマジでヤバイってばコイツ!」とカラーギャングの連中も次から次へと逃げ出そうとする。
しょうがない。派手にやるか。
俺はグラビティコントロールを効かせ路上に違法駐車してある車をひっくり返して警察の車両が入ってこれないようにした。もちろん、逃げようとしていたカラーギャングの道も同じく塞いだ。
一体何が周囲で起きているのか、それを判断するのは脳なわけだが彼等の中での常識を逸脱しているのか完全に脳は思考停止して、中にはこの状況で笑い出すものすらいた。もう笑うしか無い状況なのだ。
そのカラーギャングへの死刑宣告状態とも思える状況で俺は、
「ボスのところへ案内しな!」
と言った。
「ひッ…ひぃぃ!」
「ひぃぃじゃないよ。ここに転がってる奴等の同じ運命を辿りたいのかな?今度は金玉を思いっきり打ち上げて女の子にしてあげようか?」
連中は互いに顔を見合わせながら渋々、
「わ、わかりました…」と敬語で言った。
それからはカラーギャング達が知ってる下町的な細い抜け道を通った。時々その商店街だか住宅街だかの間に居酒屋的なものがあって俺の孤独のグルメな興味を引いたが今は仕事中なのでとジロウに止められた。
小一時間してからたどり着いたのは小汚い倉庫だ。
いかにもギャングだとかチーマーだとかの溜まり場って感じだ。
カラーギャングどもは、
「おい…どうするよ?誰だよ連れてきたのは?」とか「本当にボスに合わせるのかよ?」「っていうかあの状況じゃ連れて来なかったら何人か殺されてただろうが!」「ひぃぃぃぃ…」
という声が聞こえる。
「えっと…ここにボスがいます」
倉庫の扉の前で俺に説明するカラーギャング
よしよし。
俺はその飛行機のハンガーを思わせる巨大な扉の前でグラビティブレードを取り出して斬った。円の形に斬ろうかと思ったけど面倒臭いので切断だけして、後は回し蹴りで鉄板ごと蹴り飛ばした。
「ちぃーっす、三河屋でーっす!」
倉庫の中に入って行くと集会場のようになっており、40人だか50人だか、数えるのは面倒だから野鳥の会甲子園球場人数カウントよろしく適当に数えるが、俺が通っているアンダルシア学園の1クラスか2クラス分はあろうかという人数のカラーギャングどもが、1人のデブでハゲの男の前に座っており、そして一斉に俺のほうをみたのだった。
「なンだてめェは!!」
これがブルーマンティスのボスである本田か。
情報屋の噂通り190センチはある長身、そして巨漢。体重はゆうに0.2トンはありそうな相撲取りみたいな奴だ。頭はスキンヘッド、顎には無精髭がゾワゾワと生えてて目は細い。漫画の中では北斗百裂拳で最初に殺されて断末魔が「ヒデブ」になってそうなキャラである。
その巨漢の男、本田はみなよりも少し高い位置(舞台のように板張りされている)にある椅子に座っており、椅子から立ち上がるとミシミシと音を立てながら俺のほうまで歩いてくる。板張りから降りてコンクリートの上のはずなのにまだミシミシと音が出そうな巨漢だ。
「てめェ何やってんだ?(俺が斬り開いた倉庫の鉄板ドアを見て)死にてェのかコラァ?!」と言いながら俺の胸ぐらを掴んでそのまま上に持ち上げる。190はあろう身体から持ち上げられるのは140ぐらいの小柄な女の子だ。さながら自分の娘に「高い高い」してあげてる親父かのようにも見える。そんな家族愛が溢れ出そうな(遠目に見たら)雰囲気でデブの本田は俺に向かって、
「テメェがさっきブクロで暴れた田舎野郎かアァーン?お前ブルーマンティスナメてんのかコラッ!!なんとか言わねェかコラ!!」
しかし『倉庫の中』と『倉庫の外』とは空気が全く空気は違っていた。さっき俺の恐ろしさを味わったブルーマンティスのカラーギャングども(倉庫の外)はガタガタと震えながらジェスチャーで(降ろして!降ろして!その女の子を早く降ろして!)とやっている一方で、これから俺の恐怖を味わう予定であるブルーマンティスのカラーギャングども(倉庫の中)はヘラヘラと田舎モノ(と連絡を受けている)俺を見て笑っている。平和に笑ってられるのはこれまでだ。
…。
(パンッ!)
「えぇ?」
まるでハンドガンが発射されたかのような音が響き渡った後、事情を飲み込めないデブ(本田)がマヌケな声を出した。そして鼻や口から血を流して、そしてポロポロと歯を地面に落とした。
ハンドガンが発射されたかのような音、それは俺の手加減したドロイドバスターの軽いジャブがデブの頬に命中した音だった。
それから、190はあろう巨漢の男は140の小柄な女の子を残して、その無様な醜態を「ズーン」というデブが倒れる際にはよく似合う効果音を放ちながらコンクリートの床の上に転がしたのだった。