98 第3次池袋カラーギャング抗争 4

俺とジロウはカラーギャングの特徴である原色系の装飾品を身体のどこかにつけている奴が沢山屯(たむろ)っている場所を目指して人ごみをかき分けていった。さっきのカフェにはサラリーマンが多く居たけど、そこから離れていけば俺が探している連中と出くわすはずだ。
確か「ブルーマンティス」だっけか。
なら、ブルーの装飾品をまとってる奴を探せばいいか。
居た居た。
ジロウは俺の顔を見ながら、
「自分が喧嘩を仕掛けましょうか?」
とか言ってる。あれだけ俺が大暴れしたのに俺の見た目が女の子だからか気遣ってくれてるのかもしれない。
「いやいや、いいよ。田舎式で行くから」
「田舎式?」
青の装飾品をまとっている3人ぐらいのグループに近づく俺。
女の子が1人近づいてきたからか、3人は話を止めて俺のほうを見て驚くような喜ぶような表情を見せる。
「ねね、ちょっと金貸してくんない?」
と俺は言った。
昔、田舎(山口)の商店街で見た不良とひ弱そうな男子高校生との間の会話を再現してあげよう。しかしこの話の顛末は残念ながら商店街の人達が集まってきて「何やってんの?あんた不良か?学校どこなん?警察呼ぶぞおい」と言われ不良はビビって逃げたのだった。
さて、東京ではどうなるかな?
「はぁ?何言ってんのコイツ?」
と青のスカーフをしている男が俺を見た後に仲間と顔を合わせながら言った。最初は逆ナンパでもしてくるのだろうかと期待したところからの転落である。マジで驚いてる。
「大丈夫大丈夫、ゲーセンで儲かったら返すからさ!」
これも田舎の不良が使う手口だ。
ゲーセンで儲かったら返す、っていうのはゲーセンで儲からなかったら返さないの意味である。しかもゲーセンにすら行かない可能性もあるので、もしゲーセンに行って、もしゲーセンで儲かったら返す、って意味になるのだ。どんだけ確率低いねん。
「なになに?不良サンですか?不良サンの真似事してるの?今時そんな事誰もやらないっての(笑)なに?キミどこ出身?相当田舎だよねぇ?え?これどうなるの?俺金取られちゃうの?(笑)」
と言って俺をネタに仲間の反応を見て楽しんでるカラーギャングの男。なんだよ…田舎が悪いんかよオラァ…。
なんだかイライラしてきたぞ。
そしてカラーギャングは言う。
「金なんて持ってないっつぅの」
お。
ちゃんとセオリー通りにやってくれてるな。俺の返し待ちか?
田舎の不良は「金なんて持ってません」と言ったらセオリー通りに次のような返しをするんだよ。
「ちょっとジャンプしてみて」
「はぁぁぁ?(笑)」
「ジャンプだよ、ジャンプ」
「え?なに?跳べばいいの?(ジャンプする)」
(チャリンチャリン)
そのカラーギャングの男から音がする。
チャリンチャリンと音がする。
これは金が入ってる音だ。
金と金が擦れて鳴っている音だ。
よし、ここで田舎の不良はセオリー通りの返しをするのだ。
「ちゃりんちゃりんいってんじゃん!金あるでしょ?」
「はぁ?マジウケるんですけどぉ(笑)今時小銭持ち歩くバカは居ねぇっしょ(大笑)なに?やっぱ田舎は小銭しか持ち歩かないの?東京出てきたから靴の中にお金入れたりソックスの中にお金入れたりしてんの?(ニヤニヤ)母ちゃんがスリとかに気をつけなさいよって言って帽子の裏に布縫い付けて中にお金入れたりすんの?(周囲爆笑)」
なんだかだんだん俺は情けない気持ちになってきた。
確かに街に行くときはスリに気をつけなさいって母親から言われたし、靴の中やソックスの中にお金を隠してもし取られたりした時にはそれを使いなさいって言われたりもした。帽子の裏に布を縫い付けて中にお金を入れたりとかはウチの親はやりはしなかったが中学の時はそういうアイデアはあるって言われて誰も決して「恥ずかしい事」だとは言わなかった。何か起きた時の防衛策だからと。
でもそれは恥ずかしい事だったのだろうか?
こいつらはお金を使わないのか?もしかしてトンキンでは既に紙幣の価値はなくなって別の何かが使われているのかもしれない。マッカっていう魔界の通貨だとか悪魔が行動する時はマグネタイトが必要だとか。
そんな情けない気持ちの中で振り絞った俺の一言は、
「いや…その、だって、今、お金…」
だった。
完全に押され状態である。
ジロウはそんな俺を心配してか「キミカさん俺がやりましょうか?」とか言い出す。しかし乗りかかった船だ。ここで押されたからやっぱ男に交代するわ、ってそれはもう金持ちで世間知らずのお嬢様が調子に乗ったけど世間様の荒波には逆らえず結局ボディガードに頼んじゃいました的な顛末だ。さすがに俺はそこまでは出来ない。
だから今は耐えるのみなのだ。
そのブルーマンティスというカラーギャングの男は、
「これは鍵だっつゥの!(一同爆笑)」
と鍵を取り出して俺に見せた。
鍵…。
鍵が鳴ってただけなのか。
それから「おいおい!こっち来いよ!面白いのがいるぞ!」とカラーギャングの1人が言うと、周囲からどんどん同じ色(青)の装飾を付けたカラーギャングが集まってくる。
「え?なになに?この今にも泣きそうな女の子なに?」「田舎から来たんだって!」「靴下とか帽子の中にお金入れてるらしいよ」「ヤベェwwwマジウケるんですけど(大笑)」「なになに?どこ出身?」「東北じゃね?」「やっぱ自分の事『オラ』とか言っちゃう系?」「オラってwwwワロタwwww」「なになにどこ出身よ?」
「どこ出身なの?マジでどこ?」
「山口…県…」
ここで爆笑されるのかと思ったが不思議にも周囲は、
「は?山口?山口ってどこよ?」「地理で習ったっけ?」「山口?」「あー、俺関東しかわかんないわ」「いやいや、それほんとに県なの?聞いたこと無いよ」「まぁ、日本ではあるだろうけど…」
おいおいおい!!
地理で習っただろう!!
お前ら旅行で九州とか行く時に関門海峡通るだろうが!その手前は何県だと思ってんだよ!本州最南端だよ!!
「ほら、中国地方の…」
と、カラーギャングの1人が言うのだ。そうそうそう!中国地方だよ!中国地方の!!
「中国?中国なの?」
ちげーよ!!!
「だから中国地方ってのがあるだろ。中国地方は大阪よりも南だな」
「あぁ、わかった。広島だろ?」
いやもうちょっと左!左だよ!
「あぁ〜。広島かぁ。広島県の中にある山g」
ここで我慢の限界となった俺のスーパーミサイルパンチが「広島県の中に山口って呼ばれる場所ある」って勘違いしたバカ野郎の頬にヒットし、衝撃波で男の髪が一瞬でハゲになり、グラビティコントロールも効かせていたので自動販売機に吹き飛び、突っ込んだ。