14 トラ・トラ・トラ(リメイク) 4

砂浜から少し歩いたところにある岩場、俺が日本でよく見る岩場とはことなり、植物や水生生物のソレが一切張り付いていないような独特の丸みを帯びた岩が張り付くように伸びている場所、それがタチコマが指定した合流ポイントだった。
途中で日本人の男性だけで海外旅行をしている連中にナンパをされていたが、用事があるのでと丁重にお断りしていた。
アンドロイドの店員の完璧なスタイルであるビキニと肩を並べても違和感ないほどに完璧なスタイルでなおかつ美少女が俺であり、それがアンドロイド店員ではないのだから男の目を引くのは仕方がない。しかし、戦闘用の服(タチコマに格納している)をビキニの上から着用すると、あからさまにこれからどこかで暴れますという風に見えるから観光客に混ざって上陸が難しいのだ。
タチコマは既に上陸を終わらせて茂みの中に身を潜めていた。
「どうしたのさ、巨大なクモが巨大なハチに怯えて草陰に身を潜めるみたいに」
と、俺はそれに話しかける。
「先程、偵察用とみられる対地ヘリ・ドロイドが周回してきましたので、念の為に草陰に隠れていました」
「見つかったらただのコンベイアーだと言えばいいんじゃないの?」
「管理者が近くにいない状況で岩場を単体でウロウロしているコンベイアーは異常とみなされます」
「あぁ、そっか」
それじゃ、さっそく移動を開始しますか。
俺は軽く地面を蹴って空高く舞い上がると、タチコマの背中にトン、と足をのせた。グラビティ・コントロールで空を飛ぶこともできれば、このようにジャンプを装って自らの身体を空に翻らせることも可能なのだ。
「キミカさんは運動神経が素晴らしいのですね」
「いえいえ、どういたしまして」
「さきほどもマグロの様なスピードで海を泳いでいましたね」
「それは泳いでたっていうか飛んでたっていうか」
俺はタチコマの上で立った状態、タチコマは岩場を歩いて移動。そのまま砂浜を歩いて周囲の観光客の目を引きながらも、道路へと出た。
ようやくそこでタチコマは歩きからタイヤに切り替えた。不安定だった背中が安定走行に切り替わったから、あぐらをかいて背中に座る。
そういえばコンベイアーの背中に乗った状態で移動するっていうのは、アメリカ的には道路交通法違反になるのだろうか?少なくとも日本では、例えばトラックの荷台に乗るのも違反行為だけれども。
などと考えながらもヤシの木が左右を挟む道路を涼し気な速度で移動していくタチコマとその背中のビキニの美少女、俺。
タチコマ
「はい、なんでしょう?」
タチコマはどうしてタチコマって呼ばれてるの?」
「タクティカル・コンベイアー・マシンの略称だと言われています」
「なるほどなるほど…戦略的運搬機械か…戦場で装備を運搬するトラックの代わりに使われてるわけね」
「はい。瓦礫の中も人間よりも早い速度で移動できることから、兵器以外にも人間を運搬する役割も担っています」
タチコマ車は商店街らしき中を人目を惹きつけながら移動する。ここいらになると日本人だけじゃなくてハワイ人(アメリカ国籍でハワイアンな人)だとか白人が目につき始める。
どうやらタチコマは確かに高価であり金持ちの持ち物というイメージだけれども、それ以上に俺が背中に乗って移動しているのが面白いらしい。俺を指差して笑っていたり、笑顔で手を降ってくる白人男性もいる。
「これから仕事なのに人目につくのはまずいな…」
「そろそろ郊外へ出ます」
タチコマ車の周囲からは商店街がなくなり、またヤシの木が両サイドにある道路。それを進んで小一時間、石の門がある位置の前で停車。
石の門には看板があり、英語は読めないが最後がParkとなっていたので公園の入り口といったところだろうか。さすがアメリカだ。日本の公園とは桁外れに巨大な広さ。端から端は見えないどころか、目の前には小高い山も広がっており、まるで適当に見つけたジャングルの適当な位置に門を置いてみたと言った感じ。
「この奥にハイヴがあるようです」
タチコマから降りる。
というのも、木々が邪魔して乗っているとぶつかりそうになるから。
適当にあしらったような歩行者向けの道路をタチコマと共に進むとキャンプ場か別荘地か、コテージが並んでいるような場所に出た。
「本当にここにあるのかなぁ?」
俺が疑いの目でそれらを見ていた。
何しろ家族連れが焼肉パーティをしていたからだ。
養豚場から逃げ出してきたような丸々と太った4つの塊…いや、父親に母親にお姉さんに弟と、これら4人のデブが巨大なソーセージやらステーキやらを食べてる。
父親は網の前で肉を焼き、母親がそれのサポートだ。
お姉さんは反抗期なのか鼻に耳に口にピアスをして白い肌にはさらに白くお化粧をして、日本人で言うところの茶髪でだらしないジャージをいつも着ているガラの悪いヤンキーだ。
しかし、そんなヤンキーも肉の魅力には負けたらしく、ガラの悪そうな顔がニッコリと微笑んで「オォォゥ、ファッキンビッグ」などと言っている。その汚い言葉遣いを母親に注意されるも、叱る母親の顔も笑顔。
そして弟のほうはこれからブタになる練習でもしているのだろうか、鼻音をフゴフゴと立てながら肉に齧り付く。
英語なので何を言っているのかはわからないが、雰囲気的には何を言っているのかはわかる。
遠目にそんな光景を見ながら、俺がそれぞれの家族の台詞を代役。
ブタのような食べ方をしている弟に姉は言う。
「もっとおしとやかに食べなさい。ほら、ポテトも食べないと!デブになっちゃうわよぉ?」
ポテトを勧めているようだ。
ポテトは炭水化物だからむしろそっちが太るんだけれど、アメリカ人にはその感覚がないらしい…何しろあいつらは日本の寿司がヘルシーだと言って喜んで喰ってるからな。で、それを受けた弟のほうは
「何を言ってるんだよ(肉の塊を指さしながら)今はこの肉で口の中を満たす時だろ?」
父親が言う。
「おいおい、マイク、そんなに急いで喰ったら次の肉がまだ焼けてないだろ?ペースを考えろよ、ハッハッハッハ!」
「そうよ、パパが今、おっきなの焼いてるからポテトでも食べて待っておきなさい」
「(マッシュポテトをフォークで持ち上げて)せっかくのバーベキューなのにこんなので胃の中を満たせっていうのかよ?」
「キミカさん、何を言っているのですか?」
「は?」
「先程から独り言を」
「ねぇ、あんな一般ピープルが居るような公園に本当にハイブがあるの?場所を間違えた疑惑が浮上しているんだけれど」
「作戦ではこの位置が指定されています」
と、タチコマはズカズカとそのファミリーの横を進んでいくのだ。
弟のほうが俺に気づいて何か英語で言って手を降っている…が、その英語の中に「チャイニーズ」という単語が入ってたから俺は中指を立てた。俺はジャパニーズだっての。
「おい、まだ何にも言ってないのに彼女はすっげぇ怒ってるぜ?」
と俺が弟が家族に向けて話した英語を代役。
1分ほど歩いたところでコテージの中に一箇所だけ草木が綺麗に刈り取られている場所があった。ずさんな管理で芝生も見えなくなっていたのだけれど、そこだけは誰かが住んでいるのか整備がされている。
「あれがハイブの入り口です」
「普通の家っぽいけれど…」
俺の電脳にアクセスがあるのか、許可するかどうかを応えるよう催促。これはタチコマからのアクセスか。
許可すると視界にあわせて赤でマーキングされ、日本語で説明が表示される。確かに遠目にはわからなかったが目を凝らすとマーキングされた箇所にはカメラが設定されている。ドアノブにもマーキングされており、振動センサーと説明がある。
「この箇所だけ警備が厳重です」
「意外なところに…さっきの家族もじつは関係者だったりして…」
「それよりキミカさん水着のままでいいのでしょうか?」
あぁ、そうだった。
俺はタチコマの背中をペシペシと叩く。
ラックがひらいて中には装備。
ビキニの上から戦闘服を着ていく…軍にそのような装備があるのかケイスケの趣味なのか水着にちゃんと合うように作られている。
「スパイ映画みたいにセンサーを潜り抜けて本丸に忍び込むとか、そのあたりは何か案はあるの?」
「軍はそのようなことをキミカさんに期待していません。警備が厳重すぎてそれは不可能だと思われます」
「とどのつまりはどういうこと?」
「堂々とした態度でカメラの前を通りすぎ、勢い良くセンサー付きのドアを蹴り飛ばし、非常事態警報という名のチャイムを鳴らして警備兵を叩き起こしてあげる手法がいいと思われます」
「いいと思われますっていうか、あたしとタチコマのコンビだったらそれ以外にはやりようがないってことじゃん!」
ラックの中にあったのは米軍で標準支給されているMなんとかっていうライフル。それを小柄な美少女の身体で軽々しくと抱えて、ズカズカと歩きハイブの入り口に向かう。
で、カメラに向かってニコニコ手を振り、次の瞬間、俺の放ったライフル弾がカメラを粉砕した。
背後ではさっきのバーベキュー・ファミリーが「What’s the fuck!」「Shit!」などと叫びながら、俺達のほうを見ては逃げ、見ては逃げ、恐ろしい出来事に巻き込まれないようにと逃げていく。
俺は叫んだ。
「SaYoNaRa!!!」
そして俺のライフルの掃射でコテージの窓ガラスやらドアやらが穴だらけになる。コテージの中からドタドタと音が聞こえて人影がチラホラする。タチコマが俺の前に盾となり進むと、建物から警備兵(…と言ってもまるで野盗のような格好の連中)が銃弾を撃ち込んでくる。
負けじとタチコマガトリングガンが火を吹いた。
俺のライフルがオモチャだと思わせるぐらいに、その戦闘機にも搭載されているであろう小型のガトリングガンは、目の前で大きな火花を散らし、空気を吹き飛ばし、銃弾の衝撃波だけでも家の壁を木っ端微塵に粉砕して、先ほどまであった人影は既に人の形をした死体に変わっていた。
こんな強襲型人質救出があるのかよ…。
「行きましょう」
タチコマが言う。
そのコテージの中には通常は露出することはないであろう、金属製の巨大な扉が地面に埋めてある。さっきタチコマガトリングガン掃射で隠された扉が露出したようだ。その扉の手前に死体が転がっているから、おそらくはここを守るように言われたのだろう。
「パスコードを解析します」
電磁ロックを解除しようとタチコマが操作パネルに手を延ばす。
「いいよいいよ、あたしが扉ごとどけるから」
「どのようにどけるのですか?これは重機を用いなければ、」
そうタチコマが言いかけた時、俺のグラビティコントロールが発動。周囲の小さなゴミが一瞬だけ宙に浮いたかと思うと、今度は本命である扉が、ハイブの入り口がそのまま宙に浮く。
ベキベキと接合部を剥がしながらだ。
そのまま庭の方へ放り投げた。
音だけでも腹に染み渡る。凄まじい重量があったようだけれど…俺のグラビティコントロールの前では重量はあんまり関係ない。大きさや数は関係あるけれども。
「素晴らしい…それは軍が開発した新しい兵器でしょうか?」
「いえいえ、キミカ神のチカラです」
「…はい」
俺とタチコマは不器用に引き剥がされたハイブへと降りるカーゴの横にある、メンテナンス用通路を降りていった。

14 トラ・トラ・トラ(リメイク) 3

どれだけの時間が経過しただろう。
この潜水艦…いや、人間魚雷型潜水艦は、地球儀で言うところの海の色が激しく濃いところを移動していた。ただ、それは海面から10数メートルのところではないことは確かだ。
大戦時から日本の潜水艦は世界中で『忍者』と揶揄されるほど神出鬼没で、潜るときは、通常なら深海の調査をする場合にしか潜らないであろう深い場所まで激しく潜り潜むので、結果、殆どのソナーに引っかからない。引っかかったのはイギリスだかフランスの深海火山調査をしていた時に日本の潜水艦『らしきもの』が移動していたのを発見したとか、そのレベルである。
政府はこれを否定し…と言っても、日本政府は国民IDが振られた人々の意識の集合体なわけで、軍が行っている防衛任務の細かいところまでは把握していないから(情報漏えい対策)潜水艦の位置まで知るわけがない。
そして多くの人が抱く疑問は、何故、そんなに深くまで潜り、殆ど補給を行わずにジッと潜んでいられるのか?
答えは簡単だ。
潜水艦を動かすバッテリーは海底にある熱源や太陽光で補給されるから。必要であれば、位置がバレるが衛星軌道上からのマイクロ波による送電で補給が可能だ。で、食料や水はどうするのか?と疑問を持つだろう…そう、それらは必要ない。何故なら人が乗っていないから…。
というわけで、普段なら武器庫として使われているであろう船内に俺用に座席が設けられたわけだ。水圧を調整する装置も即席でつけたんじゃないのかぁ?人が乗れるようにする必要がそもそもなかったものだからなぁ…クッソォ…命を粗末に扱われている気分だ。
俺の電脳視界に展開されている地図はハワイがありそうな海域の島に近づいていた。海の深さを表す色は薄い青。これでも結構な深さはあるはずだけれど…電脳にはこの回天と呼ばれる魚雷…いや、小型潜水艇からメッセージが響く。
『目的海域にはいりました。減圧し居住区を射出します』
「きょ、居住区を射出ゥ?!」
「キミカさん、そろそろ着替えておいたほうがいいですよ」
お、おう。
耳に圧を感じながら、俺は用意されたバッグの中に入っていた水着に着替える為にドロイドバスターの戦闘服を脱ぎ捨てる。
「その戦闘服に防御力はないのですか?」
「見た目だけのものだよ」
ケイスケが用意していた水着は黒のビキニか…この任務が始まって唯一これだけは安心できた。あ(変)い(態)つの事だからスクール水着でも用意してるのかと思ったけど、海水浴客に混じって進入するからそんなもの着てたら目立って職質受けそうだしな。
『居住区を射出しました』
え、もう?!
俺は慌ててまだ装着していなかったブラの部分をつけようとする。
その瞬間、船内の電気が真っ暗になる。
「うわ、なんだこれ!!」
「海水が侵入してきていますね」
「なんだよこのボロ船!!!おいいいいいい!!!」
一瞬で船内は海水に沈んだ。
空気がない…。明かりもない…真っ暗な中で、船体が、まるで用意されていたかのように綺麗にバラバラに分解されていく。上と認識できる位置にぼんやりと明かりがある。
海面があるぞ。
下を見下ろす…今しがた綺麗にバラバラに分解されていった『居住区』部分が重さで海底へと沈んでいく。
その中にタチコマの姿が…っておい!!
タチコマ沈んでるよ!!』
『はい』
『はいじゃないよ!!』
『私は海底を歩いて向かいます』
『なるほど…』
これからは俺が泳いでいくしかないわけか。
重力制御ができるのは海底のような液体の中では無理みたいで、俺は普通の人間と同じ様に泳いでいた。
そしてふと、電脳視界に展開される地図を観てみる。当初定められていた作戦どおり、地図ではなんたら海岸へと近づいていた。だが、相変わらず漆黒の海底は続いていて足が砂浜につく雰囲気はない。
ようやく海面まででる…GPSが狂っていないのならこれが太平洋のど真ん中ではない…はず!!もしど真ん中だったら狂ったGPSを頼りに空を飛んで日本に帰ってから南軍の基地内で暴れてやろう…。
目の前には水平線、そして青い海が広がっている。波が強い…。
って、おい、島がないぞ!!
身体を回転させる…。
おぉ…。
タチコマ、どうやら海水浴場が見える位置までついたみたい』
『了解しました。地形情報を送信します』
タチコマが調べたリアルタイムの海底の情報が俺の電脳視界に広がる。見えている海の上に上書きされて、海底が見える。サンゴが見える。泳ぐ魚が見える。思ったよりも深かったみたいだ。
そして、空が見えたから俺は、今ようやくドロイドバスターの能力である重力制御が行える。と、言っても空を飛んでるところを見つかったら元も子もないから…あくまでサーフィンでもしているかのように、海面スレスレに足をつけてぇ…。
俺はグラビティコントロールで身体を持ち上げて、足が海面スレスレにつくような位置に持っていった。そして、一気に身体を水平に押す。
「ひゃっはー!!!」
俺の背後には衝撃波により水しぶきが上空まで拭きあげた。
水を吹き上げながら水面を移動する。
どんどん島が、海岸が、海水浴場が、観光客が近づいてくる。
『キミカさん、泳ぐのが早いですね。マグロのスピードですよ』
『艦娘やでぇ!!』
観光客の顔まで見えるような位置で俺はグラビティコントロールで行っていたなんちゃってサーフィンを解除し、泳ぎに切り替える。
タチコマ、ここ…場所あってるんだよね?』
『はい。ハワイです』
『なんか…』
そう、なんか…さぁ…これ日本のどっかの島なんじゃないかって思ってしまった。それぐらいに日本人ばっかりなんだけど。
『観光客が日本人しかいなくて、場所を間違えた感ハンパないんだけど…本当にハワイなの?ハワイのなんとか島?』
『私のGPSが狂っていなければそうです』
周囲には家族連れであったりカップルであったり、女子だけ、男子だけでの海水浴を楽しむ人達がいる。
気づけばもう腰あたりに海水があるほど浅い砂浜近くに着ていた。そこで俺はつい最近やってるグラビティ・コントロールを用いた髪を早く乾かす特技をご披露する。
「初の海外旅行が海からご入国とはねぇ…」
そう独り言を呟きながら。
水しぶきが玉状になり、空中に浮かぶ。濡れた髪もほぼこれで水分を吹き飛ばせば自然と乾燥するわけだ。
と、周囲の男達の視線…。
おっと、俺としたことが一般人の前でドロイドバスターの秘儀を放ってしまったか。話題になってしまうとまずいからこれぐらいにしておこうか。グラビティ・コントロールを解除すると水しぶきの玉が重力を与えられて海面へと降り注ぐ。
パツキンの妙にスタイルのいい外国人女性がカクテルだかジュースだかを運んでいる。あぁ、そうか、さっきはGPSを疑っていたけれどこれで納得した。ここはやっぱりハワイだよ。
日本ではこれはやらない。
日本では日本人の『アンドロイド』がジュースを運ぶからだ。
妙にスタイルがいいのもアンドロイドだからだろう。
だからぁ…。
「こんにちは」
「はい、ご注文をお伺いします」
日本語も通じるわけだ。
「ここはどこ?」
「現在地は『ハワイ島・カイム・ビーチ・パーク』です。世界でも有数の火山が見渡せる砂浜です」
よし、GPSは間違ってなかったのが確認できた。
タチコマぁ、まだ?』
『私はキミカさんのようにマグロ泳ぎはできませんから、時間がかかります。あと32分でキミカさんと合流可能です』
『そうか!それは素晴らしい』
それまでの間は任務から離れて海外旅行を楽しむことができるわけだ。
「それじゃ、適当にカクテルなんていうのをつくろうってくださいな。あたしはそのあたりは詳しくありませんので」
と目の前のアンドロイドに言う俺。
「12ドルになります」
高いなぁ…ん?俺はドル札なんて持ってたっけ?
いやまてよ、おい、財布は持ってたっけ?
持ってるわけ無いじゃん!!ドロイドバスターに変身した時に財布なんて持ってないじゃん!!!そうだ、変身を解除したら財布が…いや、まてまて、持ってなかった…そうだ、それは男の時にはズボンのポケットに財布を入れてるんだけれど、女にはスカートのポケットがないから、つまり、俺は…無一文野郎に…。
『どうかしましたか?』
『…財布を忘れた』
『私にはオサイフ機能はありません』
『はい…』

14 トラ・トラ・トラ(リメイク) 2

さっきまでエヴァンゲリオンだのオヴァンゲリオンだの言ってたからさぞ凄いものがカーゴにあるのだろうと思って期待していたのだけれど、案内されたのは軍が毎年GWやSWに行っている基地お披露目の時に公開されている戦車や装甲車などが陳列されている場所だ。
子供が初めてここに案内されたら歓喜の声をあげるのだろうけれど、俺のような大人にはせいぜい写真をaiPhoneで撮ってTwitterで「秘密基地なぅ」とかデマ情報を吐くぐらいしか使いみちがない。
「秘密基地なぅ」
「おい、やめるんだ」
すぐにマダオに阻止される。
「なんだよ、Twitterにアップしてもここが本当に南軍のカーゴ内かはわからないから大丈夫だよ」
「位置情報やカーゴ内の軍機配置から特定されて極右派の人間にリツイートされ、軍の機密を暴露するなんちゃって左翼とレッテルを貼られて、3日もしないうちに自宅と学校・職場を特定されて放火されるぞ」
「ひぃッ」
えらく詳しいな、やったことあるのかこのオッサン…。
俺はカーゴ内を見渡しながら、
「それでぇ、ドロイドバスターに匹敵しうる凄まじい相棒っていうのはどこにいるのかな?あの多脚戦車?」
と、俺がドロイドバスターに最初に戦闘した全長10メートル、高さ3メートルクラスの多脚戦車に駆け寄って行った。
こう間近で見ると本当によく俺1人でこんなのを相手にできたなぁ、と感心する。今でもコイツが街なかを歩いているのを夢に見てしまうほど、あの戦闘はインパクトがあったからだ。この大きさのくせに最新技術でそこらの犬や猫ぐらいに滑らかな動きをするのだ。
「その隣の機体だ」
え?
隣の機体?
見れば戦車の2分の1ぐらいのサイズで肩に超電磁砲を搭載したバッテリー車がある。こいつも凄いんだよなぁ、レールガンを撃つのは映画の中でしか見たことが無かったけれど、周囲の電子機器が一斉に停電になる様とか、あれが実際に起きるんだよな。怖い兵器だよ。
「それではない。その間にある…」
間ァ?
俺の見上げた視線の先には何もない。しいて言うならば見下ろせば俺と背丈が同じような小さな…。
「何もないじゃん」
マダオはメガネをクイッと指で押し上げてから、
「何もないことはないだろう…キミカ君、君の目は節穴か何かか」
そりゃぁ、工場とかで荷物運びを行うドロイドならある。これは戦車とかバッテリー車の装備品を運んでいる最中じゃ…。
「え?」
「それだ」
「これェェエェェェェ?!」
「うむ」
「単身でハワイの米軍を相手に乗り込もうって言うのに、相棒にするのが荷物運び用のクモ型ドロイドだなんて…クソみたいなつまんないテレビ局の無人島で荷物運び用のクモ型ドロイドだけで何日生活できるか企画でやってるわけじゃないんだからさ!!!命かかってんだよ、妹さんも、あたしも!!これテレビで流れたら『はははは』って笑いが起きるところでしょォォォ?!勘弁してよォォォォ!!!」
マダオのネクタイの部分を思いっきり両手で締めあげてあと少しで殺しおわるぐらいの頃に、副官のミサトさんが割り込む。
「これでも優秀な装備がされているのよ。ただの荷物運び用ドロイドに見えるけれど、軍用の対物バリアに15mmチェーンガン装備。電子戦も得意よ。キミカちゃんはハッキングとか出来るの?
「い、いえ…」
俺の手を振りほどきながらマダオが言う。
「そ、それにだ。あまり大きな機体では回天に搭載できない」
「か、回天?何その不吉な名前の…」
「回天だ。特殊潜航艇『回天』」
「まさかこれで敵の戦艦に体当たりしろとか言わないよね!?」
「天から水中へと回りながら突入することからこのネーミングになっているだけだ。正式名は別にある」
「ま、回りながらァ?!」
「ま、回らなかったかもしれない。大丈夫だ、回らない」
おいおいおいおい!!
なんか色々と聞いておきたいことが山ほど出てきたんだけどォ!
「ささ、キミカちゃん、さっそくだけれど出発して。準備はもう万全だから!」などと言いながらミサトさんは俺の背中を押す。
「あぁ、そうだ。キミカ君、もうドロイドバスターに変身しておいたほうがいい」とマダオ。同時に「そうね!それがいいわ」と早口で言うミサトさん。どうなってるんだ?!
「べ、別に現地についてからでもいいじゃん?」
「安全の為だ」
「あ、安全の為ェ?!特殊潜航艇は安全なんじゃないの?!」
「万が一のこともあるからな」
「そうそう、万が一のこともあるからよ。軍のテストでも兵士には対物バリアの武装をさせてから行う予定だったのよ」
「え、ちょっ、テストしてないの?!」
「あっ…」
おいいいいいいいいいいいいい!!!!何て危険なものに俺を載せようとしてるんだよォォォォォラァァァァァ!!!
怒りはしたけれど怒っていても何も始まらない。
イライラしながらも俺はドロイドバスターに変身した。
今しがた着ていた普段着は黒い煙の中で消滅し、裸が見えるか見えないかぐらいのタイミングでドロイドバスターのあの黒い戦闘服へと一気に変わっていく。そして、漆黒の煙が晴れ変身後の俺の姿が現れた。
間近で変身を見たのは初めてなのか、マダオミサトさんも子供のような目の輝きで俺の姿を見ている。
案内されたフロアは既に輸送機がスタンバイ。あの回天と呼ばれる一見するとミサイルのようにも魚雷のようにも見える姿の中に、さっきの小さな荷物運びドロイドが歩いて入っていく。
「これ本当に大丈夫?大丈夫なの?」
俺は経営が危ない遊園地の遊具が問題なく動くかを手で触って確かめるみたいに、回天をペタペタ触って、その後に荷物運び戦車を触った。荷物運び戦車はいきなり声優のアニメ声で「私は問題ありません」と言いやがる。あぁ、失礼失礼。
俺が椅子に腰掛けてベルトを装着したり、遊園地の遊具の身体を固定するアレを装着したりしてると電脳にはケイスケの声が響く。
『軍用回線でのアクセスですにぃ!ハワイに近づいたら米軍のジャミングで切断されるけれど、それまではちゃんとキミカちゃんの生死は確認できますにゃん』
『不吉なことは言わなくていいよ!!』
次はマダオの声だ。
『心配しなくても大丈夫だ。万が一にも回天が空中分解したり、海面衝突時に分解したり、水圧で分解したりしたら飛び出してハワイまで泳いでくれれば無事に到着できる』
『それって無事じゃないよね?!何か起きてるよね、トラブルが!』
と、同時に俺の視覚には女性が泳いでいる教育用ホログラムが表示されやがる。泳ぎ方なんてわかっとるわ!俺は素早くそのホログラムを削除して二度と表示されない設定にする。
最後にミサトさんの電脳通信。
と同時にハッチが締り、この輸送機がゆっくりと滑走路を動いている感覚が俺達に伝わってくる。
『もしタチコマが途中で壊れても回収しなくてもいいわ』
タチコマ?』
『その戦車の名前』
『最初っからそのつもりだよ!っていうか、壊れることなんて想定してないし、回天が空中分解するのも、』
って俺が通信仕掛けた時に輸送機が滑走路に既にいるのか、一気に発進し始める。何故かって、強烈なGが俺の身体に掛かるからだ。
『…水中分解するのも、想定してないよ!!』
と、続きを言う。
もう話してられないぐらいに強烈なGがのしかかる。
そのまま輸送機は上昇…してる…だとゥ?!
斜めにGがかかってるから外が見えなくても輸送機があの南軍ハイヴの地下から地上へと上昇してるのがわかる。レーシングカーみたいな凄まじいエンジン音が響く。防音設備は無いのかよ!
『ゆ、揺れてる揺れてる!!やばい壊れそう!!』
『壊れた?』
『壊れてないよ!壊れそうだよ!!』
俺の電脳に今度は世界地図が…太平洋だ。
って、凄まじい速度で地図が動いてるぞ、ハワイに向かって動いてる!どおりでGがかかってると思ったよ!どんだけ早いんだよこの輸送機!強襲艦レベルじゃんかよ!!
『目標地点に到着した。米軍のレーダー管制に検知されたので、ここで回天を投下する』と、パイロットらしき声が電脳に響く。
『あ、はい、ごくr…』
ご苦労様と言おうと思ったら今度は一気に急降下のGがかかる。
『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!タマヒュンしてる!タマヒュン状態だよォォォォ!!!!』
『キミカちゃんはタマとかないからヒュンしないにゃん』
『やばいやばいやばい!!壊れる!壊れるゥゥ!!』
俺の身体もタチコマの機体も回天の狭い船内で僅かにだが浮いてる。無重力空間になってる。辛うじて固定されてるベルトやらでフラフラするのを防いでる状態だ。
『スタビライザーを起動しました』
今度は電子音。これは回天からの電脳通信か?
船内が一瞬真っ暗になる。
轟音。
凄まじい揺れ。
あの耳の奥が一気にキーンとなる感じがして、メキメキ、パキパキと船体が凄まじい圧力で押しつぶされそうになる感覚だ。
「ひぃぃいぃぃぃぃぃ!!!」
俺は今にも泣きそうな声で叫んでいた。

14 トラ・トラ・トラ(リメイク) 1

「何故ここにいる?」
俺は思わず拍子抜けした。
高校入試で試験会場を間違えて試験官らしき人に「こっちは来ちゃダメだよ」って言われた時と同じような状況である。あの時は俺はテンパってて試験に遅れることもあって普通はうろつかないような場所をうろついていたからな。で、プールサイドの女子更衣室に入ろうとしていたところを体育の先生らしき人に停められて、試験会場を案内してもらった。
…まぁ昔の話はいいとして、なにせマダオに言われてケイスケを連れ戻し、そして妹さんを助ける作戦に参加する許可を得て、今、再び南軍の司令室まで来たからだ。呼び出した本人であるマダオが発したセリフがソレだ。どう考えてもおかしい。頭が。
苦笑いしながら隣でミサトさんが言う。
「ごめんなさいね、エヴァの中で有名なセリフなのよ」
「知らないよ!!!」
マダオが言う。
「そこは『僕は、エヴァンゲリオン初号機のパイロット、碇シンジです』と言ってほしかったところでもある…いや、無理だと言うのなら『僕が、エヴァンゲリオン初号機です』でもよかった」
「…そっちが呼び出したんでしょうがァッ!!!ケイスケを説得してここまで連れてきたんだからもうs(モゴモゴ…)」
と俺がキレていたところを背後からケイスケが口を塞いだ。
ケイスケがマダオに言うのだ。
まるで碇シンジが自分の父に男の告白をするように。
「全知全能の天才マッド・サイエンティスト『石見佳祐』が、人に頼みごとをすることなど滅多にないのだから、絶対に受け入れて、そして叶えて欲しいですぉ…」
「わかっている」
「キミカちゃんはまだ素人ですにぃ…だから、マダオと南軍でサポートして欲しい…妹を助けてくださいにゃん」
「作戦に私情を挟むことは軍人として失格だが、救出するのがお前の妹だからな。思う存分に私情を挟もう。もとよりお前に頼まれずとも全力でサポートするつもりだ」
言うが早くミサトさんがホログラムの表示をスラスラと切り替える。
司令室の中央には妹さんが連れ去られたであろうアメリカ軍の施設がある…のであろう何かの島が表示されている。
マダオは司令官の椅子へと腰掛けて両肘をついて鼻の前で両手をあわせる、いわゆる格好をつけたような姿で俺に言う。
「ハワイ旅行の経験はあるか?」
「行かないよ、芸能人じゃあるまいし。海外旅行の経験もないよ」
「ならば、これが初めてのハワイ行きになり、初めての海外渡航となるわけか…」
「ついにパスポートが必要とされるわけですね」
「軍事作戦なのでそれは必要ない。我々が準備している」
「はい…」
「ケイスケの妹、石見夏子は現在ハワイ島にいると思われる。『アッパー・ワイスケア・ハイヴ』。米軍の秘密研究所だ。まぁ、既に我々にその存在が知られているから秘密でもなんでもないわけだが」
ハワイの複数ある島々で一番右の島、地図が拡大されて火山のようなものが見え、その裏側にある森林がホログラムに表示される。
「第三次大戦中にアメリカ軍が複数のドロイド・ファクトリーを建設したが、その中でも最も地中奥深くに建設された。今では廃墟…ということになっている。公式ではな」
「ハワイってことは、もう既にアメリカ領内に連れ去られてるじゃん…どうやって侵入するの?」
ミサトさんが手元の端末を操作する。
輸送機が表示され、日本の地図…北九州あたりから飛び立って、びょーんと海の米軍国境線あたりまで線が伸びる。するとホログラムは断面図に切り替わって、輸送機からミサイルのように…いや、銃弾のように凄まじい速さで…黒い塊を海に目掛けて何かを発射した。
そのミサイルらしきものは海にそのままズボッと沈む。
「なにこれ…クソでも垂らしたの?」
「クソではない、これがキミカ君の乗る『特殊潜航艇』だ」
「え、ちょっ…今、高度1000メートルとかいう表示があったよね?!1000メートルから斜めに海面に向けて物凄いスピードで黒いのが『発射』されたよね?!どう考えたって死ぬでしょ?!」
「1000メートルの表示?そんなものがあったか?」
「あったよ!!!ホログラムの映像が断面図になって、飛行機の高さが1000mって書いてあったよ!!!!」
「次は消しておこう」
「おい!」
ホログラムの操作をしながらも別の仕事をしていたミサトさんが言う。
「輸送機から発射された特殊潜航艇が米軍のレーダーにひっかかる限界点なのよ。1000メートルから海面に叩きつけられても壊れないようにできているから心配しないで。輸送機は見つかってもいいけど、特殊潜航艇が米軍に見つかるとマズイから仕方がないの」
「…」
マダオは続ける。
「心配するな。特殊潜航艇で海の旅をする際には攻撃を受けることはないだろう。これについては既に実証済み」
「鳥の高速フン発射みたいに海面に特殊潜航艇を叩きつけるのは?」
「それは今回が初めてだ」
「…」
ホログラムの映像が繊細になり、現地の写真かと見紛うほどになる。ビーチ客が派手なビキニをしていたり、カップルではしゃいでいる…その中を俺が通過するであろう線が伸びてビーチ側のホテルを過ぎて道路を過ぎて、一直線に森の中へ。おい。森かよ。
「特殊潜航艇でハワイ島のワイオリーナ・ビーチかカイム・ビーチのどちらかから進入する…ただし、その際にはあくまで観光客という設定だ。ビーチ客に怪しまれないように水着を着用してもらう。怪しまれないようにビーチから離れた場所で潜航艇から出て、泳いでビーチに近づく」
「はいはい、水着か。水着はいいね、観光客として来たかったよ…ん?ちょっとまって、なんで作戦なのにワイオリーナかカイムって選択肢が出てきてるの?危険じゃない方に決めてよ!」
「そのどちらが警備が手薄なのかまではわからない。もう少し時間が必要なのだ。まぁ、おそらくはどちらもしつこいまでに警備されているだろうな。ワイオリーナ方面の場合はケアアウを経由してワイアケア・フォレストへ侵入、カイムの場合はプーナ・フォレストへ侵入しハイヴを目指す。米国は日本よりも公道に配置されているドロイドやカメラが多い。何かに見つかった場合は警察官が来るまでにはその場所から離れるんだ」
「簡単に言ってくれるねぇ…」
参考資料としてか、交差点に設置されているカメラ、そしてカメラからの映像や、ゴミ拾いをしているドロイド、木の剪定をしているドロイドなどからの視界を交互に映す。
映像は森の中にあるハイヴと呼ばれる地下施設への入り口…らしきもののホログラム表示に切り替わる。
厳重な警備をしているっていうのが素人の俺でもわかる。ドロイドバスターの姿じゃなければ、ここに黙って入ったらどうなるか…少なくとも「こっちに来ちゃダメじゃないか」と促してくれる試験官の甘さはない。ヘタすれば警告なしに撃たれる。
正面には戦車が2台、対戦車ライフルを搭載した装甲車…亀の姿のドロイドらしきものが2台、トラックが出入りしてて、時折、銃を持って歩いている軍人らしき姿もあり。ただし、軍服姿ではなく、工場の作業員のような姿だ。まぁ銃を持って歩いている工場の作業員っていうのもオカシナ話だけれどね。ただ、1つだけ言えるのは、『どう考えても廃墟ではない』ということだ。
「『公式』には彼らはテロリストや雇われ衛兵だが、実際はアメリ海兵隊の訓練を受け、装備を貰った、アメリ海兵隊だ」
「こころしてかかれ、ってことでしょ」
ケイスケが背後から言う。
「心配することはありませんですォ!!!ヤンキーもイワンもボッシュ
もジョンブルもキミカちゃんはみんな平等にぶっ殺してくれますォァッ!!」
「今回の任務はケイスケの妹を奪還することだ。無駄な戦闘は避けるように。とくに市民に発砲するとそれだけで後々面倒なことになる。戦闘はなるべくハイヴ近辺だけにするんだ」
「帰りはどうするの?まさか…」
「泳いでは帰らない。ヒロにある大使館へ向かうんだ」
ミサトさんが続けて言う。
「既に手続きは済んでいるわ。それからマスコミへの情報公開もほぼ同時にね。キミカちゃんが妹さんを助けて大使館へ逃げ込んだと同時に、妹さんがアメリカ人のテロリストグループに連れ去られていたということも、それが妹さんが自力で偶然にも大使館へ逃げ込んでこれたということも、大使館までテロリストが追い掛け回してきたことも全てが世間に明るみにされる。それでも大使館へ向けて発砲するようなら…その場合はアメリカに対する日本のカードが増えるだけになるから、上から止めるよう指示がでるでしょうね。そうなれば作戦成功よ」
「何か質問はあるか?シンジ」
「シンジではありません…えっと、これ全部、1人でやるの?」
「いや、優秀な相棒と共に行動してもらう」
「ほほぉ〜…ドロイドバスターに匹敵しうる奴がいるわけですね」
ミサトさんが言う。
「カーゴでスタンバイしてるわ」
俺達はその『優秀な相棒』がいるであろうカーゴ(南軍基地内の兵器を置く場所)へ向かった。

13 囚われの妹(リメイク) 5

司令室には俺と司令官のマダオ、副司令のミサトさんが残されていた。ケイスケのズボンも残されていたから、ケイスケはパンツ一丁で帰ったことになるんだろう…。
だがそれはどうでもいい。
それすらもどうでもいいぐらいに酷い状況だった。
「司令、どうするんです?」
副司令のミサトさんマダオに聞いた。
「我々は、我々が出来ることをするだけだ。人はその時に出来ることをただ積み重ねてきた。後はそれを歴史がどう評価するかだけだ」
そう言ってマダオはホログラムのスイッチをオフにした。
もう先へ進めるのだろう。
察して慌ててミサトさんは俺に言う。つまり、差し迫った状況だということがその雰囲気だけで俺には理解できた。
「ねぇ、キミカちゃん。キミカちゃんだけの判断で今回の作戦に参加してもらえないかしら?確かに石見博士は色々と家族とあったから複雑なのは否めないわ。だけど、だからといって妹を見殺しにして良いことなんてあるわけがないでしょ?」
「それは…そうだけど…。あたしはケイスケに家に住まわせてもらっている身だし、ケイスケが嫌がることを一般常識的には正しいからとそれに従ってやったとしても…」
「…」
俺だって正しいと思っているのなら正しいと思っていることを素直に出来たほうが幸せだ。だけれど、この話にはもっと根本的に解決しなきゃいけないことがあるんだよ。それが米軍による拉致っていう形で、解決もままならぬままに急ぎ足に判断しなきゃいけなくなってる。
家族間の話だとか、ケイスケと俺との話だとか。
「司令。提案があります」
ミサトさんマダオに言う。
「なんだ?」
「キミカちゃんに説得させてみてはどうですか?」
「奴は親友である俺の説得に応じなかったんだぞ?」
さっきのケイスケの反応が結構ココロにキテるらしいマダオ。なんだかんだ言っても親友だというのは強ち言葉のアヤっていうわけじゃないく、本当にそうらしい。
ミサトさんは少し咳払いをしてから、
「シンジ君のこと、もう少し信じてあげてもいいのでは?」
おい。
普通に言ってもダメならエヴァネタで攻めてみたました的なのやめてくれませんか。また調子に乗ってマダオが…。
「いいだろう。シンジ。やれるか?」
「おい」
「せっかく雰囲気が出てきたのに」
「とにかくエヴァネタはやめてください」
「…」
「わかったよ、説得してみる。ダメだったら…」
「その時は、俺が俺の責務を果たすだけだ」
「ダメだったらあたしが、あたしの価値観に従ってケイスケの家族感を全否定してボッコボコにしてここに連れてくるよ。顔の形がブタと区別がつかなくなるぐらいに」
と俺は拳をポキペキ鳴らす。
「い、いや、そこまでしなくてもいい…」
「遠い場所で妹が殺されるかもしれないのに、顔の形がブタと区別がつかなくなる程度は屁でもないでしょう。ついでに身体の形もブタと区別がつかなくなるぐらいにしてあげようかと」
「既に今の時点で区別がついてない、というか既にブタのようなものだからそれはやるだけ無意味だ…」
というわけで、俺は帰路についた。
ここ数日はまともに家に帰ったような気さえしなかったけれど、よくよく考えるとまだ1日しか経ってない。色々なことが起きすぎて1日が長く感じるのは子供の1日と老人の1日の長さが違う論にも通じるものがある。つまり、色々なことが起きすぎて俺はとても疲れていた。
公共機関を使おうとも思ったけれどその力も無く、俺は面倒くさいのでドロイドバスターに変身してから空高くへと飛び上がって、現在地を確認した。やっぱりそうだ。北九州と門司港、下関が見えるからここが南軍の基地だということがわかる。
どこにそんな土地があるのかと思っていたけれど、地下に大規模に作られた基地なんだな。地上にひょっこり出てきているトンネルやらがシェルターに繋がっていたとは…昔、中国と戦争をしていた頃は北海道と九州が爆撃やミサイル攻撃の標的にされていたから、地下に基地を作っていたというのは本当だったのか…。
などと考えるうちに、関門海峡を超え、山を超え谷を超え、第四首都の山口県へと入る。
「うぅ〜…さむさむ…」
空高く上がるとさすがにこのドロイドバスターの身体でも寒い。怪我をしても通常の人間よりも感覚が調整可能のこの身体でも。
着地と同時に変身を解いて普段の女子高生の姿に戻る。
ジェダイがフォースでドアを開けるがごとく、俺はグラビティ・コントロールでドアを開けて「ただいまー。ご飯まだぁ?」と勢い良くリビングに入る…と、あまりの異様な光景に俺は思わず。
「おぉぅ…」
そう言ってしまった。
部屋が暗くてテレビもついてない。普段ならケイスケが録画していたアニメを鑑賞している時間なのに…そして、リビングとキッチンにだけ明かりが灯っていて、コンビニで買ってきたであろう弁当が乱雑に置かれているだけだ。
それをモシャモシャと食べているブタ…いや、ケイスケの姿がそこにある。異様だ。とても異様だ。
電気代が勿体ないからとキッチンとリビングだけに明かりを灯し、料理を作るのが面倒くさいからとコンビニで買ってきた弁当を食べる…そんな家庭はゴマンとある。だから遠く離れた場所で突然、今の俺とケイスケの姿を見た外野の誰かは、違和感なくその光景を受け入れるだろう。
しかし、普段からケイスケと過ごしている俺に言わせると、それはとても異様だった。あのケイスケが、グルメなケイスケが『コンビニの弁当』というDQNの一般的な食事を食っている、しかも明かりも必要最低限にして、テレビだってつけていない。
「あぁ、キミカちゃん、お帰りですぉ…」
疲れた顔でそう言う。
少し痩せてるんじゃないかと思ったぐらいに窶れている。
「えと、これがあたしのぶん?」
「そうですぉ…確かキミカちゃんはファミチキとティラミスが好きだったから、ファミチキとティラミス買ってきましたぉ…」
って、おいおいおい…確かにファミチキとティラミス好きだけど夕御飯にファミチキとティラミス食うやつがどこの世界にいるんだよ、あぁ、今から俺がそれをするからここの世界線にいるわけか。
「あぁ…どうも…」
俺はファミチキを食べながらミサトさんの話を思い出していた。
ケイスケとケイスケの妹の話。
ケイスケの妹は若い頃から…とは言っても俺の想像していた若い頃は少なくとも大学卒からだけれど、妹さんの場合は中学生ぐらいの頃からだから凄まじい。その頃からドロイド開発の分野で天才的な才能を発揮していて、学校に通う傍らで既に『柏田重工』と呼ばれる兵器関係の会社へ入社していた。
一方でケイスケのほうもやっぱり血が血なのか別の分野でも才能を開かせていた。おそらくはドロイドバスターだとかそういう特殊な兵器の分野だろう、ただ、俺も知っているがこの分野はアナーキーなところがあって、学会ではあまり相手にされていないらしい。だから兄と妹で陽の目を見る者と陽の目を見ない者に別れた様な状況になってしまっていた。
ちょうどその頃に母親がテロで死に、ケイスケも妹も精神をやられていた頃…ケイスケの研究資料が何者かによって外部へと漏れた…形跡があった。で、ケイスケはあるマスコミの1つの記事を信じた。
そこには妹さんが柏田重工に依頼されて、妹という立場を利用してケイスケの研究情報を盗んだのではないか?という根も葉もない噂。
しかし、その噂も様々な点と点と線で繋げてみると偶然にも成り立つわけで、ケイスケも元々は家族というものに重きを置いていなかったせいもあって、妹を疑うようになっていた。
疑いの芽は晴れるまもなく、今回の事態に至ったわけだ。
俺はファミチキをモグモグやりながら、
「ケイスケぇ…妹さんのこと、」
と言い掛けたその時だ。
おそらく、妹さん、の「い」が出た時、
「もうその話はたくさんですぉ!!!!」
と言われた。「もうとさんのこと、」の部分は既にケイスケの大声にかき消されて聞こえなくなってしまった。
「そんなに大声で怒鳴らなくてもいいじゃん!」
「キミカちゃんは兄弟とかいないからわからないんですぉ!!自分の分身みたいでムカつく存在ですにィィ!!!」
「死ねって思うぐらいに?本当に死んだとしてもいいの?」
「いいですぉ!!!」
「兄弟姉妹がいる人で本気で死ねだなんて思っている人はいないよ」
「…」
「妹さんがケイスケの研究資料を外部に漏らしたんだと疑ってるんだよね…それは本当にそうなの?」
「そうに決まっていますォ!!!」
「決まっているって、100パーセントそうなのか決まったわけじゃないって、マダオもそう言ってたよ」
「…富と名声にうつつをヌかしていた妹ならやりかねないですにぃ…。ボクちんと違って正義だの悪だのなんて非現実にはことには関心がない…だから妹は企業に唆されてあの年齢で入社して働いてたんですぉ」
「あたしが言いたいのはそういう事じゃなくて、100パーセントやったってわけじゃないのに勝手に決めつけてそれで妹さんが死んじゃって真実が何もわからなくなってもいいのかってことだよ」
「…た、例えそうじゃなかったとしても、妹のような人間なら、」
「本当に嫌いなら、アタマの天辺から足の爪先まで全部嫌いになってから答えを出すべきじゃないの。『そうに決まってる』とか、何かを研究して答えを出す分野にいる人がそんな意見を言ってていいの?」
「うっ…」
「イジメだってそうだよ。相手のことを何も知ろうともしないで、ただなんとなく気に入らないからってイジメをしているんだよ。ケイスケは正義を信じてるっていうけど、ケイスケの言う正義ってそういう薄っぺらいものだったんだ〜…ふぅ〜ん。じゃあイジメっ子とおんなじだね」
これは…効いたか?
かなりアタマを抱えて髪の毛を掻き毟り始めたぞ。
「…わ、…りましたぉ」
「ん?」
ケイスケは静かに椅子から立ち上がって、その巨体をフロアに座らせて、そして土下座をしてから叫んだ。
「わかりましたァァァ!!!キミカちゃん!妹を助けに行ってくださいですぉ!!!これは石見夏子の兄、石見佳祐としてのお願いですォォアァアァアァ!!!!」
俺はそのちょうど踏みやすい位置にある頭を踏んでから言う。
「よろしい。引き受けましょう」

13 囚われの妹(リメイク) 4

妹が米軍に連れ去られた、という情報は普通に考えれば血の繋がった家族に一大事が起きたのだから驚くべきところだし、顔色のひとつも変えるものだ。普通に考えれば。
しかしケイスケは顔色ひとつ変えずに、
「あったり前田のクラッキング講座ですォォ!!」
と普段の調子で怒った。顔を真っ赤にして怒った。
よくよく考えてみると顔色は真っ赤に変わっていた。
ちなみに『あたり前田のクラッキング講座』というのは、『前田』という自称YouTuberの男性が広告費欲しさにYouTubeクラッキング講座を開いたわけだが、あまりにパソコン初心者が質問攻めを食らわせてくるので「そんなの知ってて当たり前だ!!!」とキレて逆にそのキレ芸が有名になり、『あたり前田のクラッキング講座』という番組のアダ名だけが広がったものである。
今やモトのネタが何なのかすら殆どの人にわからないのに『あたり前田のクラッキング講座』という言葉だけは語り継がれているわけだ。
「そうそう、あたり前田のクラッキング講座だよ。って、えぇ?!」
俺はケイスケを追従して援護したものの、逆の意味にも捉えられる言葉を奴が吐いたのでそれに驚いた。
俺は続けて聞く。
「妹さんなんでしょ?なんでそんな言い方するんだよ」
「血の繋がっている『妹』なんて本物の『妹』ではありません」
「おい」
「エロゲの中では近親相姦はタブーなので登場した時は『妹』って紹介しておいて、後のファンブックの中とかで『腹違いの』って付け加えて法律の網の目を掻い潜っているんですぉ!!!」
「そんな説明はいいから」
「あンのクソ妹がボクチンの素晴らしい発明を諸外国に漏らしたに決まっていますにぃィイイィィ…(睨」
ケイスケの発明…ドロイドバスターの発明を妹さんが盗んで漏らしたってことなのか。あの家に一緒に住んでいたら地下の研究施設のことなんて直ぐにわかりそうなものだしな…。
「で、でもさぁ、家族なんだし…」
と俺が言うも、ケイスケは漫画みたいに目を血走らせて、顔の筋肉をフル活用して変形させてから、
「かァぞォくゥ…?」
と、そのキーワードを発したら罰ゲームでも始まるんじゃねーのかっていうぐらいの勢いでキレてきた。
ケイスケがキレて俺の首を吊るしあげるその前に、髭のおじさんことマダオが間に入って言う。
「シンジ…いや、キミカ君」
「まだそれ続いてたんだ…」
「家族…というのは、『家族』という言葉は、正義と悪の定義のように人それぞれで大きく概念が異なる言葉なんだよ。キミカ君の中での家族が必ずしも世界共通の認識ではない。人の数だけ、様々な家族が存在し、そして、必ずしも全てにおいてそれらの言葉が幸せの意味合いを持っているわけじゃない。ケイスケにはケイスケの思いがある」
そう。
意外にもそれは俺に対する批判だった。
俺の脳裏には最近のニュースがふいに飛び込んできた。
そこには結婚の自由化により結婚しない選択肢を選ぶ人間が意外にも多く、それでも子供が欲しいと思う人間がおり、精子バンクなどを経由して機械的に妊娠し子供を産んだはいいものの、育てるのに苦労するので兄弟姉妹を別れ離れにさせる話だ。
しかし、それも合理的かつ自由な思想の中に振り回された結果だ。そこには悪意なんてものはない。悪意があるとするのなら、俺のような、ちゃんと親と子の血が繋がってて同じ屋根の下に暮らした人間が、当たり前のように享受した『幸せ』の形を赤の他人であるケイスケに押し付けたことぐらいだろう。
俺が俺で幸せだったのなら、他人がその同じ幸せの形にならなくてもいいだろう。違うからといって批判することのほうが自分勝手で、横暴である。ましてケイスケからしてみれば、同じ屋根の下に暮らしているものがケイスケを裏切ってドロイドバスターの情報を誰かに売っていたということは、それが事実であるかそうでないか別にして、家族すら疑わなければならないという意味での『家族』という定義があるわけで、何も知らない俺が軽々しく首を突っ込める話ではない。
だから俺はケイスケが怒り狂っていることも、マダオや副司令の無言の訴えも読んだ上で、それ以上は何も言わなかった。
少なくともケイスケを説得する材料として『家族だから』という言葉は無意味だし逆効果なわけだ。
マダオは言う。
「説得しようと思った俺がバカだった…お前は昔から筋の通った理系だったからな。ちゃんと理にかなってないと、『その場の空気で』とか『親だの親友だの家族だの』とかでは動かない男だ」
へぇ〜…そうなんだ。
「へッ…わかってるのにとりあえず練った作戦だからやってみるっていうのが愚かな文系を体現していますにぃ!!!そんなのが司令官だなんて斜め上の次世代型インパール作戦を繰り広げそうで末恐ろしいにゃん」
「だから次の作戦も練っておいた…ケイスケの秘密を、お前と同居している彼女に知られて欲しくなかったら素直に従ってもらおうか」
彼女…って俺のことかよ。
そうか、俺は女の子の姿だったな、今、再び思い知らされたよ。
「な、何をするつもりですぉ!!!」
「我々は石見圭佑博士宅を虱潰しに調べあげた。邪魔するものはどこにもいなかったからな…この意味がわかるな?」
「はッ…まさか…」
おいおいおいおい…ケイスケが2次元の美少女好きっていう以外にもヤバイ秘密があるのかよ、爪を瓶に集めてるとか、女の身体を爆発させて腕だけを持ち歩いてるとかか?
「そのまさかだ。さぁ、どうする?…キミカ君の前でこの石見圭佑の秘密を暴露されたくなければ…ん?」
ケイスケは震えていた。
そして静かに俺の前に跪き、土下座したのだ。
「これからキミカちゃんの前にボクチンの秘密が暴露されてしまう、だから事前にこの醜態を晒すボクチンを『謝って』おくのですぉ…!!!これが『覚悟』ですにィィィィイイィ!!!」
「…ケイスケ…お前は既に『覚悟』をしてきたと…言うのか」
「その覚悟をしてまでも妹を助けるために軍に協力はしない!!!そういう意味も含めた覚悟ですォォァァ!!!甘く見るな!!」
「…いいだろう。お前の覚悟、この目に焼き付けよう」
そう言ってマダオはリモコンのスイッチを押した。
え?
なんだこれ…?
司令室の豪華なホログラム・シアターには映像が映し出されている。
そこは部屋の中だ。
部屋のベッドには美少女がキャミソール姿で寝転がっていた。朝の光が射してきて目が冷めたのかその美少女は起き上がった。
って、これ、俺じゃねぇか!!!!!
映像の中の美少女こと俺は、何やら学生服やら体操着やらブルマやらスクール水着を物珍しそうに床に並べて、その触り心地などを楽しんでいたり、股間の部分を舐めたりしていた。
って、おいいいいいいいいいいい!!!!!
何やってんねん俺!!
そういえばしたわ!!!
股間の部分舐めまわしたわ!!!
マダオが顔を真っ赤にしてその映像を見るなか、キャミソールでパンツ一丁な美少女が自らが今後着るであろうスクール水着やらブルマやらの股間を舐めるというシュールな絵を見てミサトさんはジト目で睨んでいた。ホログラムを睨んでいた。
「え、ちょっ…」
次のシーンではミサトさんまでもが顔を赤らめた。
それもそのはずだ、さっきまで股間を舐めてた美少女がキャミソールを脱いでパンツを脱いで、スクール水着着始めたわけだ。
あぁ、やりましたわ。
着ましたわ俺。
スクール水着マニアな俺はスクール水着着た美少女を間近で見たかったんだよ、そういう気分になってたんだよ。だってそうだろ、自分の言うことを何でも聞いてくれる美少女が側に(自分自身がそうなのだから)居るようなものじゃないか、従わせるに決まってんだろ。
やっぱりというか、俺は俺でしかなかったというか、美少女はそのまま鏡の前に座って、ちゃんと着てたスクール水着股間の部分を捲って『具』を思いっきり鏡に映しながらクリの助を突き回しましたわ、そうですわ、あれは気持ちよかったなァ…。
「あっ…あぁ…あんッ」
映像からは美少女のアニメ声が、いや、俺の声が響く。
「止めろォォォォォオオォォォァァァッ!!!」
同じアニメ声で俺はマダオに怒鳴る。
シーンは既に鏡に抱きついて股間をこすりつけてるところだ。スクール水着の美少女が自分の姿みて興奮して鏡に抱きついて股間を支柱に擦り付けるというシュールな映像が流れる。が、
マダオはエロビデオを見ている最中に後ろから親に呼ばれた時のような凄まじい反射速度で停止スイッチを押して動画を終了させた。
「なんてもンとっちょんじゃァァァ!!!!貴様ァ!!」
俺はちょうど土下座していて踏みやすい位置にあったケイスケの頭を思いっきり踏んづけてグリグリと捻る捻る捻る。
しかし、案の定だ。
ケイスケは苦しむ素振りすら見せない。
「無駄のようだな…ケイスケにとっては足で踏みつけることも『ご褒美』になっている…飼いならされた豚のようだ」
「ヒッ!!」
俺は思わず足をどけた。
ケイスケは顔を高揚させてよだれを垂らしていやがった。
なんて野郎だ…全ての攻撃をマゾ化することで吸収している。吸収して感じているのだ。コレほど恐ろしい(そして気持ち悪い)敵はいない。
ふと、俺は最初っから思っていた疑問をぶつけてみた。
「どうしてケイスケに頼ろうとしてるの?ケイスケなら妹さんを救出できるって策でも思い浮かぶの?」
「それはキミカちゃんが単身、妹さんを救出しに行くって作戦が練れるわけじゃないの。そういうことよ。石見博士にお願いしてるのはキミカちゃんを一時的にお借りしたいってことなのよ」
「お借りしたいって、あたしはレンタル品じゃないんだけど」
「あ、うん、えーっと…そう、バイトよ。バイト!」
「…」
間に割って入るマダオ
「もしキミカ君を当作戦に参加させることに失敗した場合…」
そう言って続きをミサトさんに話すよう促すマダオ
副司令ことミサトさんは続ける。
「連れ去られたのが一般人ならまだ問題はないのだけれど、兵器メーカーで世界的にも有名なトップクラスの柏田重工で、さらにその中でもトップクラスの兵器開発者ともなれば、それは頭のいい人でも凄い人でも石見圭佑さんの妹さんでもなんでもない…『歩く軍事機密情報』になるのよ。彼女を失うことだけでも十分痛手だけれども他国の手に軍事機密情報が渡っているという今の状況が一番の痛手なわけ。これが政府で協議されればなんとしてでも奪還せよと命令がくだるわ。そして、当然だけれど奪還することはキミカちゃんを抜きにしたら、われわれ南軍だけでは不可能に近いのよ…それは分かるでしょ?」
「…アメリカに戦争を仕掛けるってことだから?」
「そう。じゃあ奪還がダメっていうなら…別の作戦になる」
「奪還以外にも手があるの?」
「政府は答えを出せないままに終わるでしょうね。だから、軍としてはもう1つの手段を用意しているの。これは未来永劫、公にはされない。でも国や軍を守るのには最善の策よ」
「…まさか」
と俺は言う。
それはとある兵器の設計図が敵に渡った時に、どうするべきなのかの答えにもなるだろう。1つは奪還すること。でもそれが無理なら…
「そう。石見圭佑さんの妹さん、石見夏子博士を殺害する」
俺は思わずケイスケの顔を見てしまった。
しかし、俺の思惑は外れてやっぱりケイスケはドヤ顔で、
「それがどうしたっちゅぅねん!!!」
と言い放ちやがったわけだ。
「それがどうしたじゃないよ!!!たった一人の妹なんでしょ!!なんでそんな平気な顔してられるんだよ!!!!!!」
またしても妹…家族というキーワードを出してしまった。
しかし、妹が殺されるかもしれないっていうのに感情のゆらぎが何一つ無いっていうのが、家族をテロリストに殺された俺からしてみれば受け入れがたい事実だったのだ。
「ボクチンにはなんにも関係ない事ですにゃん!!どうせアイツの事だからお金を渡されればヘイヘイ手ごまを擦りながら言い寄って軍事機密もパンツの色もクソした回数までペーラペラ米軍に話してくれますォォ!!!早く殺さないとマダオエヴァ趣味もエヴァの登場人物に名前が似てるからっていうだけでミサトさんを副司令に昇格させた事実もぜーんぶ米軍に暴露されてしまいますォォァァ!!!」
「それが正義の味方の言うことかァァァアアァ!!!妹1人守ってあげれなくて、困っている人を誰一人救うことなんて出来るわけないでしょうがァァ!!!!」
と俺はグラビティ・コントロールでケイスケの身体を逆さ磔してケツにパンチを繰り出した。司令室にはケイスケのケツが激しくパンチされる音が響く。
「た、例え、ボクチンがここで辱めを受けても、あンのクソ妹を助けるような愚行は行わない…行わないと神に誓いますォォァァァ!」
この冗談のような雰囲気を破ってマダオがケイスケに言う。
わりと本気っぽい声で言う。
「これはお前の親友としての俺からの頼みだ…」
「む、無理な相談ですにぃィ…」
まだ頼んでもないのに無理な相談とか言ってるし。
ほんと、きくみみ持ってねぇな…。
しかしマダオはそんなケイスケを無視して言った。
「お前の妹を殺害する命令を俺に出させないでくれ」
「…」
それは切実な頼みだった。
さすがのケイスケもこれには言い返さなかった。
さすがに俺も逆さ磔を解いた。
パンツ一枚になったケイスケは俯いたまま床に座る。
司令官と言えども人間だ。
国民一人一人の命を預かるだろうけれども、その一人一人の名前を覚えているわけでもない。そんな彼がある特定の人間を殺す命令をしなければならない。それが国民一人一人の命と天秤にかけられていて、しかもそれが親友の妹なのだ。
使命をまっとうするのなら天秤にすらかけてはならない両者だろう。
しかし、ケイスケを親友として説得することが出来たのなら、自分がその嫌な天秤に大切なものを2つ乗せるような事をしなくてもよくなる。
そして、親友なのだからその望みはあった。
はずなのだけれど…。
「それはマダオの仕事だからしょうがないのですぉ…」
ケイスケはそう言ってズボンを履いてない状態のまま、司令室のドアを開けて、廊下をトボトボと歩いて去っていた。
もう一度逆さ磔をしようとした俺をマダオミサトさんは止めた。

13 囚われの妹(リメイク) 4

俺は髪をタオルで乾かしていた。
先程までシャワーを浴びていたから仕方がない。
今、俺の前にはケイスケの家に置いてあるような大型のホログラム・ビジョンがある。表示されているものは島の形をした何かと、建物の形をした何か。関係者ならわかるはずだ。
そして関係者らしき連中が俺の前にいる。
1人は40代ぐらい…サングラスを掛けて肘をテーブルにつけて、顎鬚のある口の前で手を組んで、ジッと俺達のほうを見ている男。1人は20代ぐらい…その側でスタイルのいい華奢な身体にPadを持ち、にこやかな表情で立っている女。…そう、それらから前提を抜きにして今、俺が2人の印象を述べるのなら、悪の組織のボスとその秘書である。
そして、その悪の組織にゲストとして招かれたけれども、あまりの極悪っぷりにおどおどしているような印象の初老のスーツ姿の男が1人、テーブルの隅で疲れた顔をして席についている。
他には司令室っぽい部屋なのに誰も見当たらない…が、椅子の側に『SOUND ONLY』と書かれた黒いプラスティック製の四角い大きな柱みたいなのがあのサングラス男のほうを向いている。
そして、そのサングラスで表情の読みづらい、しかも社会人でありながらも初対面の俺に対して肘をテーブルについたまま会話をするという威圧的で失礼な態度のその男は俺のいる方向を向いて言ったのだ。
「よく来たな、シンジ」
俺はこの会議室のような司令室のような場所に、モノローグに読みあげられなかった登場人物がもう一人いるのではないかと思って部屋を見渡した。とくに、俺の背後のほうを見てみた…が、『シンジ』らしき人物がいるわけもなく、もしかして…俺にはみえない何か霊的なものがあるのではないかとさえ思ってしまった。
というのも、俺はケイスケと元にこの場所まで連れ去られてしまったわけで、結局のところここがどこなのかはわかっていない。
気がついたら髪が濡れていて(もちろん、シャワーを浴びて風呂に入っていたのだから仕方がないことだけれども)目の前にタオルが置かれてあったからそれを使って乾かしていただけだ。きっと目の前にバナナが置かれてあってもお腹が空いているから食べてしまっていただろう。それぐらいに動物園のゴリラレベルの行動理由しか今の俺にはない。
だから少なくともサングラス男が言うように『よく来たな』などと旧友だか息子だかに言うようなセリフを言われる筋合いはない。…ただ、もう一つ、霊的なものがこの部屋にいる以外にも思い浮かぶ原因がある。それはこのサングラスのオッサンのアタマがイカれている場合だ。
「いや、こう言えばいいかな…『エヴァンゲリオン初号機』」
あぁ、これはダメだ。
後者のパターンだ。
このオッサン、アタマがイカれている。
可哀想な人なんだよ。どこか大人の姿をしていても子供っぽさが『悪い意味で』残っている人がいるんだけれど、そういう部類と同じ香りが漂ってくる。こいつは中学生時代に中二病という不治の病にかかって、そこから抜け出すことが出来なくなったまるでダメな男なのだ。
「まだそんなアニメの設定で自分の人生を演じてるんですかぉ!!!だからクラスメートから『まだお』って呼ばれてるのが軍の中でも同じ様に言われるようになるんですぉォォ!!!」
ケイスケが吠える。
俺が頭のなかで浮かんだ『まるでダメな男=まだお』っていうキーワードが口に発する前にケイスケの口から放たれたということが、この男のダメっぷりが人類共通認識されてる事実をあぶり出していた。
…ん?
軍?
っていうと、ここは軍の中なのか?
山口県に一番近いっていうと福岡本部の南軍かな?
「昔の話を持ちだして精神攻撃をするのは、今、論理的に勝てないと判断しているからだぞ、ケイスケ」
「昔もまるでダメな男なら、今もまるでダメな男だから言っているんですにぃぃぃ!!!だいたい何ですかォ!!このプラスティック製のなんちゃってエヴァンゲリオンのおもちゃは!!こんなの、暇なニコ生主がウケ狙いでハマゾンで購入するぐらいしか客層がないような糞商品じゃないですかォァァ!!」
そう言ってケイスケが軽くプラスティック製おもちゃを叩くと安っぽい音を立ててカランカランと『SOUND ONLY』の箱が席の後ろに飛んでいった。慌てて秘書っぽい女性が拾いに向かって立て直す。
「やめてくれ、ケイスケ。それはただのプラスティック製なのに1980円もするんだ。壊れたら洒落にならない」
「それを買ってる時点でマダオの人生が洒落になってないですァ!!ただのプラスティック製の製品にSOUND ONLYって書いたらエヴァオタクに飛ぶように売れるんだから、バカがバカみたいに大量生産するのは目に見えていますォォ!!」
興奮するケイスケ。
話が進まないなぁ…。
俺は言う。
「えっと、つまり、マダオとケイスケは友達で、マダオが散財してバイトを雇って銃を持たせてあたしとケイスケを誘拐してエヴァンゲリオンゴッコをしてるっていうのが事の顛末?」
「それは違う…違うぞシンジ」
っていうかシンジって俺の事だったのかよ!!!
マダオの隣で秘書の女性が言う。
「ここは本当に日本国防軍、南軍中央司令室よ。そして司令官の光莉源道(ひかり・げんどう)。私が副司令の桂美郷(かつら・みさと)それから、彼が(スーツ姿の初老の男を指して)柏田重工の兵器開発部門室長の柳輝政さん…ちょっと強引な方法だったけれど、とても急ぐ案件が起きてるのよ。ケイスケさんが逃げまわるから…」
再びケイスケが吠える。
「軍とは関係ないですにゃん!!!なんで今さらボクチンを捕まえてアレやコレやと依頼しようとしてるんですかォォァァ!!!」
今さら?
っていうとやっぱりケイスケは軍の関係者だったのか。
それにしてもォ…。と俺は、プラスティック製のSOUND ONLYをグラビティコントロールで引っ張りあげた。
その光景は俺やケイスケの間では別に珍しくない普段のものなわけだが、見たことが無い人にとっては『テレキネシスという超能力をもってして手を触れずにモノを動かしている』ようにも見えるわけで、スーツ姿の重役も、副司令も、肘をテーブルについてふんぞり返っていた司令ですらも、驚いて声をあげるほどだった。
立て続けに俺は言う。
血税でこんなものを買って、軍の関係者がエヴァンゲリオンごっこねぇ…左翼が知ったら大変な事になるんじゃないの…」
「シンジ…いや、キミカ君。地味に心臓に来る言葉を吐くじゃないか…私だって遊びでやってるわけじゃない」
「いや、遊びでやってないなら更にヤバイよ…」
「普段はちゃんと仕事をしている…ただ、今日は特別なのだ」
「は?」
「キミカ君がここに来るということがわかっていたからな」
「あたしとどう関係があるの?」
「人造人間エヴァンゲリオン…それがついに我が司令部に…」
エヴァンゲリオンごっこは妄想の中だけでお願いします」
「『ドロイドバスター・キミカ』…それが街の平和を守ろうと活躍していることは県警のみならず、軍にも伝わっている」
それを補うように副司令の『桂美郷』が言う。
「取って食べようというわけじゃないし、解剖して中がどうなっているのか見ようってわけじゃないのよ。あなた達が活躍していることに感謝してるし、これからもお願いしたいぐらいなのよ。でも、キミカちゃんじゃないと出来ないことが起きて、それを伝えようと思っていたの」
そして俺とケイスケはようやく、司令部中央に表示されたホログラムの意味を知ることになった。
「昨夜2時、柏田重工の兵器研究所の研究者2名を乗せたヘリが何者かに襲撃され、うち1名が拉致されたの。これの件はまだ政府にもマスコミにも報じられてないけれど、事実よ」
現場の映像がホログラムで流れる。
墜落したと思われるヘリがバッテリーが切れるその前まで、証拠としてカメラ映像を撮っていたのだろう。武装した人間と戦闘用ドロイドの姿がカメラに映る…が、それらは体格からすると白人。ドロイドのタイプから察するとアメリカ人のような気がしなくもない。
マダオが言う。
「その『何者か』に司令を出したのが誰か、先ほどわかった」
ホログラム内のカメラ映像は、ドロイドの映像部分だけを切り取って3D表示し、設計図らしきものと比較する。
「現場の証拠と映像から、ドロイドはアメリカ軍から流出したものだと思われる。つまり、研究者を連れ去るよう指示したのは米軍。米軍に支持したのはアメリカ政府…ということになる」
そして副司令であるミサトが言う。
「連れ去られた研究者はケイスケさん、あなたの妹さんよ」