13 囚われの妹(リメイク) 3

俺とケイスケは家の近くにいた。
じゃあさっさと家に帰れよ、という話ではあるけれども、帰れない事情…つまり先程の続きになり、尾行が理由で帰れない。
ケイスケ曰く、家の周囲は一見すると普段となんの変哲もないけど、軍や警察が張り込んでていつでも帰ってきたケイスケと俺を取り押さえれるようスタンバイしているらしい。
と、言いながらケイスケは俺に双眼鏡を手渡して、
「向かいの家の糞野郎を見てみますにぃ!!!」
手にとってケイスケ宅向かい側のご近所様を双眼鏡で覗く俺。
普段そうしているようにゴルフの練習をしている…んだけど、どうも視線がフラフラと彷徨っている。そう、まるで、俺達の住む家をチラチラと視界の隅に入れながら器用にゴルフをするみたいに。
「確かに、ご近所様の向かいのご主人、チラチラとケイスケの家のほうを見ている感じはあるけど、でも今に始まったことでもなくて…普段からああいう感じだったような気もするよ?」
「ふ、普段からキミカちゃんのほうをジロジロと見ていたっていう事ですかォォォオァァァ!!!許さん!!全身の皮という皮を全部引剥して風が吹いても敏感になる身体にさせてやりたいですォ!!」
「まぁお隣のご主人、陰険な表情をしているからね〜…ん?何か…ゴルフをしながらブツブツ呟いているような…」
「やっぱりそうですォ!!」
「え?やっぱり?」
「あれは軍か警察がバックに居て、ボクちんの家を観察している様ですぉォァァァァ!!!ブツブツ呟いているのは小型のマイクがどこかに隠してあって、状況を逐次伝えているんですニィィィィ…(睨)…あンの野郎ゥ…警察と軍に魂を売りやがって、ぶっ殺してやる!!」
「元々こっち側の人じゃないじゃん…ん、なんかマイクの調子が悪いみたい。もうマイクを隠す素振りすら見せないよ、バレバレ。あ、なんかお隣さんの家からスーツ姿の男が何人か出てきてマイクの位置を直したり、『マイクをあまりさわらないでください』とか言ってる」
「ニィィィィィ!!!マヌケめ!!キミカちゃん、家の中には何人ぐらい軍とか警察の奴がいるかわかりますかォ?」
「えーっと、どうするんだっけ」
ケイスケは俺の頭をがっしり掴んで向かいご近所様の家に向けて、
「家の中が見たいと念じれば透けますにぃ!」
「ふむふむ」
俺は頭の中で向かい側の家の中が見たいと願った…すると、家の壁が透明になり、中に数名のスーツ姿の奴らが機材を構えて座っているのが見える。時代設定100年前の逆探知してる警察の姿そのまんまだ。
「5人はいるね…」
さらに奥の方へ奥の方へと透視していく…と、
「ん…んんッ?!」
「な、何があったんですかォ?」
「これはまた…」
「ぐ、軍と警察以外に何があるんですかォ?」
「これは…Dかな」
「D?!なんですか?Dって、そういうドロイドがいるんですかぉ?」
「Dカップぐらい…お隣の家ってお嬢さんが住んでるんだね」
「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!見せてくださいですぉォォァァァ!!!録画モードで録画できるから、録画して後でデータディスクに書き込んでくださいィォァァ!!」
「自分で透視のメガネみたいなのを準備すればいいじゃん」
「それはキミカちゃんの能力だから道具にはできないんですぉ…」
「ふーん」
と、言いながら俺はジッとお隣のお嬢さんのイヤラシイお風呂のシーンを見つめていた。
「と、とにかくですぉ。家に帰るのは今日は無理だから、ホテルに泊まりますにゃん…フヒヒ…」
「えーっと…別の部屋だよね」
「一緒の部屋に決まってるじゃないですかォォァァ!!」
「何でだよ!!!」
「一緒に部屋にしないと、もし軍か警察の連中が部屋に突入してきたら、ボクちんを助けてくれるキミカちゃんが側に居ないから大変なことになってしまいますぉぉぉぉ!!!」
「それはあるけど警察が突入してきたら未成年と一緒の部屋に寝てた罪で簡単に逮捕されてしまう…」
「そこはキミカちゃんが暴れてくれればいいですにゃん」
「…」
ドリフのエンドじゃないんだからドンちゃん騒ぎで何もかも次から無かったことになるわけがないのに。
まぁ、そんな事を考えながらもケイスケと俺は、厳戒態勢でケイスケ宅の周囲を張り込んでいる連中を後にしてホテルへと向かった。
そして、小一時間後。
都内ホテル。
「おい」
俺はさっそく目の前のタッチパネルで部屋を選んでいるデブにそう言った。何故ならデブはニヘラニヘラと笑いながら部屋を選んでいるし、選んでいる部屋は休憩もできるタイプの部屋なわけで、俺の背後にはアンドロイドの娼婦を連れた男性がよそよそしくも廊下を行き交っているわけで、つまり、ここはラブホテルなわけである。
「そんな怖い声を出さないで欲しいにゃん」
「ホテルなら他にも色々あるじゃん」
「無いです」
「あ?」
「他のホテルは満室だったんですにぃ…」
「本当にそうなのかあたしが今かr」
「ダァァァンメッ!!!ダメですぉ!!!」
素早い操作でタッチパネルをポチポチ押すと、ケイスケはあっという間にスイートを確保して俺をお姫様抱っこ状態で抱えてエレベータに乗った。そしてあっという間にスイート・ルームへと突入した。
随分と広い。
部屋の中心には巨大な回転ベッドがあり、壁側には何の目的であるのか不明なクローゼットあり、液晶テレビが壁に掛けてあり…20畳は軽くあるだろうか、無駄に広い。
「シャワーは、先に浴びてきなよ…」
突然、普段のにゃん語ではなく渋い声を出すデブ。
「んじゃ、お先に失礼」
普通は男性が風呂は先に入るものだけれども、まぁ先にひとっ風呂浴びてきていいんだっていうんだから失礼させてもらおう。
洗面所。広い。6畳ぐらいか。
服を脱ぐだけなのに鏡が全身を映せるようにそこにある。
大きな鏡の前には女子高生の美少女の姿…つまり、俺の姿があった。しかし普段、生活感のある家のような空間とは違う。ここはラブホテルなのだ。ラブホテルに女子高生がいる…というシチュエーションだけで俺は興奮してきてしまった。鏡にうつる美少女が俺自身であると思っていながら興奮してきた。おかしいのだろうか、いや、おかしくない。
タイに手を掛けてゆっくりと外す。
ブラウスのボタンを1つ、2つ…と外すと、白い胸元が顕になる。
「ゴクリ」
自分の姿を見て興奮してしまうとは、これもこのラブホテルという特殊空間のなせる技なのだろうか…しかも、顔が高揚しているらしく、恥ずかしそうに服を脱ぐ美少女が鏡に映っている。俺だった。
ブラウスを脱ぎスカートを脱ぐ。
そしてブラに手をかける。
今まで普通にぽいぽい脱いでたけれど、こうやってジラすようにゆっくり脱ぐとまた興奮してくるなぁ…おいおいおいおい、自分の姿を見て興奮するなんてなんてナルシストなんだ。
でも、ブラとパンツを脱いだら…うーん、生まれたままの姿のあまりエロくないこと。これはチラリズムに繋がるものがあるのかな、もう肉体標本を見ているような…確かにスタイルは良いんだけれど、もっと色っぽい見せ方が欲しいよなぁ、と思いながら興ざめしてお風呂のほうへと足を運んだ。
シャワールームは…というと、これは普通か。
お風呂の前にシャワーを浴びましょう。
身体を洗い流して髪も洗う。普段そうしているようにシャンプーとリンスを手の上でグシャグシャに混ぜてから髪にオラオラオラと塗りたくってワシワシと洗う。普通の女性が見たら驚くような手荒い洗い方である。で、そのシャンプーとリンスがついてる泡をそのまんま身体にも塗りたくって洗いまくる。
はい、おしまい。
男のシャワーなんてのはこんな単純なものなわけだよ、しかし、身体が男に比べて凸凹している女は、おっぱいとアレが洗いづらいんだよな。
さてさて、いよいよお風呂のご登場である。
ん…暗いな。
階段があって、風呂桶なる部分はその階段を登った頂上にある。で、上からは手術台のようにきらびやかな証明がお風呂を照らしている。お風呂は男性と女性が2人入ってもまだあと2人入れるぐらいの大きなもの。
「ってぇ…ことはァ…ここって、男女4名が入ってアレやコレをしたりするのかな…なんちって」とアニメ声で語りながらも、美少女である俺はゆっくりと風呂桶の階段をのぼる。
その姿も鏡張りの部屋の中に映しだされているわけだ。
贅沢な造りだなぁ…。
石鹸の泡なのだろうか、風呂桶の中から空中に向かって大量の泡、しゃぼんだま、水泡が湧き上がっている。すると、突然、部屋の照明が暗くなって風呂のお湯の底だけが光る。
幻想的なシチュエーションだ。
「よっこらセックス」
俺はその風呂の中に腰を降ろした。
ほほぉ、最新の風呂は肌触りが固くなくて、まるでアンドロイドの肌を触っているかのようなプニプニとして触り心地なわけか、で、背中をそれに任せると、背中にもプニプニとした肉の感触が。
「…って、何やってんじゃァァァァーッい!!!」
おもいっきり俺の背後にはケイスケの糞デブの肉塊がある。
俺は素早くその肉塊から離れて大事なところと胸を隠して立ち上がった。相手が男であっても、なんか見せてはならないような気がして。
「い、いやぁ、いい風呂ですにぃ…」
顔を真赤にして俺を見てからケイスケが言う。
「風呂は交代で入るものでしょうが!!」
「キミカちゃんは先にシャワーを、ボクちんは先にお風呂を味わっているという段取りでしたが、キミカちゃんがボクちんを椅子代わりに座るので股間ジョイスティックがさっきから天を刺しております」
「いいから出てってよ!!!!!このままケイスケが風呂桶に居たら中が豚骨風味になるじゃんか!!」
「ボクちんはラーメンの出汁じゃないですォォ!!!」
突然、部屋の照明が完全に落ちる。
真っ暗闇だ。
「ちょっ、これはどういう演出なの?!」
「フヒヒ、キミカちゃぁぁーん」
「おい!!抱きつくな!!殺すぞ!!!」
突然風呂のの照明が明るくなる…しかも、さっきのライトアップされたものとは違う、完全に風呂をメンテナンスする時の照明である。
「げ」
「ハァハァ…」
俺の身体にまとわりつくデブ、その周囲を武装した軍の兵とドロイドが包囲していた…。もう完全に照準をロックオンされた状態で。

13 囚われの妹(リメイク) 2

いつもの場所こと『青空公園』の近くのビルの上に着地する俺。
泥棒団が派手に暴れた場合は都市全体が戒厳令下に置かれて、悠々と青空公園に着地できたのだけれど、今回のような警察のお手伝いをしているレベルだと人目につかないようにビルの屋上からわざわざ地上まで歩いて降りて公園に行かなければならない。
屋上についた俺は、周囲に誰も(ドローンの類も)いないことを確認してからドロイドバスターの『変身状態』を解除する。
あいもかわらず黒い煙が身体を包んで、その煙が風で飛んでいった箇所から変身前に着ていた学生服の状態に戻る。
変身モノのヒーローが変身する瞬間は随分と派手なのだけれど、変身を解除する瞬間はそうそうテレビに登場することはない。変身モノだから変身するまでの過程が重要なのであって、変身を解除する過程なんてのは彼女とラブホテルに行った後、それなりの行為をして、終わってからシャワーを浴びたり着替えたりの様子を淡々と映像で流すようなもので、必要ではあるけれども見せられてる側からすると意味の無いものなのだ。
つまり、この街でヒーローよろしく活動している俺は、ヒーロー以外は見ることは無いであろう一番つまらないシーンを見ている。
「本当にこれ、どうなってるんだろう」
制服が元通りに戻っていることに毎回おどろく。
でも、よく見ると…。
「ん?なんか、買ったばっかりの新品状態になってる…?」
今、気づいた。
学食で久々に肉料理…とは行ってもミートソース・スパゲッティが出たわけだが、喜んで食ってる最中に派手に服に飛び散ってしまって、ユウカに「子供みたいね」と言われてキレそうになった事も思い出した。
そう、あの時に服にミートソースがへばりついたんだ。
それが無くなっている。
元に戻ってるんじゃなくて…。
「毎回、作り変えられてる…?」
まぁ、気にしてもしょうがない。
男だった俺が今や美少女になって、しかもヒーローに変身までして不思議な力で悪党を倒しているわけだ。服が毎回新品状態になっていることなんて、夕方になれば空に月が見えるのと同じぐらいに疑問を持たないレベルの事象だった。
「お、ま、たッ、セッ!!」
俺は普段そうするように、ケイスケの背後から音もなく近づいてケツに軽くパンチを食らわした。
「うおおおぉぉぉぉァァァァァアアァァ!!!」
派手に驚くケイスケ。
「あっはっはっは、なんだよ大声だして、面白いデブだなぁ」
「シィーッ!!」
「あ?」
「さっきから誰かに見られてる気がしてるにゃん」
そういえば俺もそんな気がしてた。
っていうことは俺とケイスケ、両方に誰かが何かを仕掛けてきた…っていうことなのか?泥棒連中に正体がバレた?
「こういう時はキミカちゃんの必殺技ですにぃゃん!」
「必殺技?誰か殺せってこと?」
「なんかかっこいいから『必殺技』とか言ったけど別に殺す能力ではないにゃん。名付けて…『キミカ・アイ』!!」
「今考えて付けたような名前じゃん…勘弁してよそのネーミング。まだキラキラネームのほうがよく考えてつけてんじゃん」
「今考えて付けました」
「おい」
「面白いネーミング浮かばなかったからとりあえずつけただけですにゃん!!それぐらいヒーローなんだから察して欲しいにぃぃ…」
「ヒーローとは関係ないよ!!!…で、キミカ・アイっていうぐらいだから、目に関する何かなの?目で睨み殺せるとか?」
と、とっさにケイスケのデブの太い手が俺の頭をガシッと掴んで周囲の建物のように向けた。
「な、な、なにするんだよ」
「あの建物の後ろ側に何があるのかを探りを入れるようにじっと見つめてみるにゃん…機能が作動して裏側を透視できますにぃぃぃ」
「マジ…でェ?!」
ケイスケによって方向づけられてたのはアパートの非常階段の側、自転車が何台も放置してある場所だ。その自転車や非常階段が俺の視界から消えて、つまりは透視されて、裏側に何があるのかがわかる。
数名のスーツ姿の男達が隠れてる。
「何あれ…かくれんぼでもしてるのかな?」
「尾行されてるにぃぃぃぃァァァッ!!!」
「びこぉ?」
ケイスケは激しく俺の腕を握って、その軽々とした美少女の身体(俺の身体)をミニカーの助手席に放り込む。
「ぎゃー!!」
「逃げますォォォ!!!」
エンジンがフル回転する。
マルチーズ土佐犬の前で吠えるような、かなり無理のあるエンジン音。ミニカーは既にケイスケを乗せるだけでも重量オーバーなのだ。
「そんなに慌てなくても誰も追ってきてないよ」
と、俺は後ろを振り返りながら言う。
さっきのかくれんぼをしていたスーツ姿の男達もいない。
「そりゃ走って追いかけてくるわけがないでしょうがァァ!」
などとケイスケが言うものだから車で追いかけてくるのだろうと思っていたけれど、そうでもない。誰かが追い掛け回しているようには見えない。俺とケイスケだけが慌てて何かから逃げ回っている。
「あぁああぁぁぁッ!信号が赤ですにゃんォォォァァァ!!!」
「赤にもなれば青にもなるんだよ。今が青ならいずれは赤に、赤ならいずれは青になる。雨はいつかあがるものさ」
「それはただの哲学ですにィィィ!!!」
ケイスケの車は左へ急カーブした。って、そこには道路なんてない…歩道があるんだが…。
「ちょっ、どこ走ってんの!!!」
「歩道を走ってるに決まってますおォァァ!!」
このクソミニカーはケイスケの肉の塊を載せたまま、歩道に乗り上げてキャーキャー言いながら車を避ける歩行者を周囲に撒き散らしながら、歩道の真ん中を走る。
「あらららら!!すいません、すいません通りまーす!」
「オラオラオラ!!どけどけ!!轢き殺すぞクソババア!!」
ラクションを鳴らしまくり、自転車に乗ったパーマのババアを危うく引き殺し損ねるケイスケ。ババアはボロのミニカーに押し出されて花壇の中に突っ込んでいる。
それ以外にも様々な人々に迷惑を掛けながらもデブと美少女を載せたミニカーは歩道から横断歩道へと、そして車線へと移動する。
俺がにこやかな表情をなんとか繕って異常性を薄くしようとしたのだけれど、となりのデブが真っ赤な顔で唾を撒き散らしながら吠えている。
「うわ、マジキチ、目がイッてる…これ絶対にニュースになる」
「逃げるっていうのはこういう事を言うんですにぃィヒヒッヒッヒ」
「ぁゎゎゎゎ…」
しかし、俺はそのケイスケのイッちゃってる目よりも更に異常な事態に今しがた気づいた。
信号が、全て赤なのだ。
しかも警察のドローンではない別の黒い物体が交差点上空を飛び回っている。それらはまるで俺達の動きをジッと見つめているかのように、身体を、カメラを俺達が乗るミニカーへと向けていた。
これも、テロなのか?
俺とケイスケだけを狙ったテロなのか?

13 囚われの妹(リメイク) 1

それはいつもの戦闘の最中に起きた。
そのまえに「いつもの戦闘」というのを説明しておかなければならない。いつもの戦闘というのは、ケイスケが警察のネットワークをハッキングして事件が起きた場所に警察が駆けつけるよりも先に到着して悪い事をした奴らを懲らしめるのだ。
それだけ日本の警察が無能なのかと言われればそうではない。日々発生する事件は2丁目の居酒屋で客が暴れたとか、路上で肩と肩がぶつかったから喧嘩になっただとか、コンビニの前に不良が屯ってるから駆除して欲しいだとか8割ぐらいはそういった類の事件とも呼べないような小さなものの集まりで、警察が居てくれなければ巻き込まれて悲惨な結果になるようなものばかりだ。
そして残りの1割が、スケジューリングされた捜査やガサ入れ、逮捕など。で、残りの1割が警察が対処するのには手こずる難しい案件だ。この最後の1割の難しい案件は突発的に発生して、時として警察は尻尾を巻いて逃げる結果になる場合もある。昔はそんな事は無かったらしいのだけれど、泥棒ではなくテロリストと呼ばれる武装集団の場合は軍隊に匹敵する重武装でドロイドが加わっている事もあり、日本軍がサポートに加わって始めて解決できる。
しかもテロでもイスラム系のテロリストとは違って中華系・東南アジア系のテロリストは主義主張よりも欲が全面に出てきて、『経済的に豊かな泥棒』だとか、『軍隊並に武装に拘る泥棒』だとか、またはあるジャーナリストは彼らのことを『テロを理由にすることで自分がやっていることを正当化しようとした泥棒』とまで罵った。
決して多くの人は口には出さないけれども、ようは簡単に言うのなら、警察は泥棒に屈している状態なのである。
軍が作戦を開始するまで警察では対処できず、時間を稼ぐだけの存在になりさがっているから、ケイスケはこれを何とかしようと『ヒーロー』という存在…つまり、俺を作り出したのかもしれない。
…と、そのような前置きを置いてから、俺は普段そうしているように警察の時間稼ぎの時間に泥棒どもを懲らしめて、軍が準備を整える頃には作戦が追わている算段で重武装した泥棒どもをヒーローの謎の力をもってして退治していった。
俺の噂は泥棒どもにもちゃんと流布されているらしく、俺が姿を表わすと降参して警察に御用になる奴等も多い。が、残念なことにちゃんと流布されてない場合は『俺が流布』しなければならない。
俺がここに姿を現した時、奴らにとって警察は『天使』のような存在になる。なにせ、武器を捨てて降参すればちゃんと逮捕してくれて、日本人の血税によって建てられた暖かい留置場のベッドで、同じく日本人の血税によって与えられる食事を食べて、うまく行けば刑務所で労働訓練をすることで手に職を得ることすらできてしまう。
しかし、俺は違う。
シンプルで、そしてショートだ。
まずドロイドは無条件に俺に攻撃を仕掛けてくるのでドロイドを真っ先に狙うが、その時にそばにマヌケにも突っ立っていると気がつけばドロイド側にあった『自分の身体』の一部が肉塊となって吹き飛んで、バランスを崩して道路に寝転がることになる。
そして、二度と自分の足では地面に立てなくなる。
倒れた後は遠くまで転がっていった太ももから先の部分をそのマヌケな目で見ることになるのだ。
次に狙うのはサイボーグ化した奴。
ドロイドほどではないにしてもよほど自分に自身があるのか調子に乗って俺に向かって銃を向けて容赦なく銃弾の雨を浴びせてくるから、ドロイドの次に『破壊』する。奴らの身体はサイボーグ化した硬い部分を残して、生身の部分が優先して吹き飛ばされて、最後はカスだけが残る。
そして、悲鳴を上げて全身生身の泥棒どもは俺の伝説を流布する役目を追うわけだ。訳の分からない中国語のような言葉で、奴らは何かを叫んでいる…けれども、言葉の壁を乗り越えてその意味を訳すのなら、『ドロイドバスター・キミカが近くに現れるとき、地獄の門が開かれる…』
今回も派手に暴れたわけだけれど、近くにもう1グループ泥棒野郎どもがいて近づいてきた俺に集中砲火を浴びせようとした。
こういう時はバリアで防がれるんだけれども、現実はアニメや小説のようにはいかずバリアはちゃんと物理法則に従ってエネルギーがどんどん減って最後は切れ、生身の状態になった俺は蜂の巣にされる。というわけで、最後のガードとしてバリアを保存しておき、今はこの不思議な力『グラビティ・コントロール』をもってしてガードする。
一瞬で地面を不思議な力によって盛り上げた俺は奴らの銃弾を防ぐ。と、同時にそばにあった誰かの車を同じくグラビティ・コントロールを使って奴らにぶつける。奴らが持ってきた白のバンと、俺がぶつけた誰かの車の間でトマトが潰れるように肉が飛び散って、さながら「La Tomatina」のような状態になる。
そして、冒頭の「それはいつもの戦闘の最中に起きた」というところに戻る。
俺がぶつけた車と車の間、ぺちゃんこになった肉塊を見ている視線に気づいたわけだ。それは泥棒達の視線ではない。
一般人の視線だ。
路上からは一般市民は逃げてくださいというのが警察から伝達されているはずなのに…その黒いジープを大きくしたような車両に乗っているのは屈強な筋肉の男達。自信があるのだろうか?最前列でヒーローを見物したいのだろうか?そいつらは戦闘が始まってからも逃げなかったのに、俺と視線があったら突然、車のエンジンをふかして逃げ出す。
俺は降参したり逃げ出したりする泥棒達は攻撃しない。
警察が俺の代わりに追いかけて捕まえるからだ。
しかし、ソイツ等は泥棒っぽさがないから違和感があった。
これは…嫌な予感がするぞ。例えるのなら俺が万引きをしたとして、それをクラスメートに見られたとしよう。で、何故かそのクラスメートは誰にもバラさずにニヤリと笑ってからその場を立ち去る。
言うならば手札を手に入れた事に満足して立ち去る感じ。とっさに俺は本能でその情報を持って逃げ出そうとする輩を始末しようとする。
ショックカノンが火を吹いた。
2発、3発、4発。
街路樹は文字通り木っ端微塵に、周囲の店舗のショーウィンドウも衝撃でガラスを撒き散らしながら破壊された。が、肝心のジープらしき車の正面で青色の物理バリアが展開された。
バリア…。
ただのジープに?
撃ってくるとは思っていなかったのだろうか、ジープは俺が撃つまではトロトロと俺を観察しながら去っていったのだけれど、撃ち始めると急にスピードをあげて路地の中へと逃げていった。
『お疲れ様ですにゃん!いつもの場所で待機してるにぃ!』
ケイスケからの電脳通信だ。
いつものようにグラビティコントロールを俺自身の身体に効かせて、空高くへと舞い上がる。周囲には黒い波動が広がって車や埃などを一瞬だけ空に浮かせる。この能力が重力を制御するものだとする証だ。
『ヒーローは悪者を退治したら颯爽と現場をさりますにぃ!』
『ダサいミニカーに乗って去るんだけどね』
『それは言わないお約束ですぉ!』

177 代表代行 6

『スティーブは死んだ、ってどういうことなの?』
再び質問が、今度は俺に向けてだ。
『いや、その…』
俺もしどろもどろになる。
追い打ちをかけるようにジライヤが言う。
『辻褄としては合う。キミカとコーネリア両名が共同して外交官を殺害し、その代役としてアンドロイドを操る。ドロイドバスターの能力も完全にコントロール下にあれば使用可能だから、会場でのあのアンドロイド離れした動きにも説明がつく…だが、殺したはずのスティーブが何故か会場に突然現れて、アンドロイドを始末することで「スパイを殺した」とアピールしていた…。だが、それは一般向けには成功するが、ドロイドバスターについて詳しい人間が見れば、あの動きから誰がコントロールしているのかまで知ることができる』
『なるほどね』
『…って、おいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!』
『あなた達が殺したんじゃないって言ったら何なのよ?』
黙ってやり過ごそうと思ってたがここまで来ると暴露するしかない。暴露しないケースでの俺の立ち位置が怪しくなってきたからだ。
『スティーブは護衛の最中に殺害されたんだよ!』
『は?』
『しかも2度!』
『2、2度も?』
『どういうことだ?スティーブは寝坊して参加が遅れただけと聞いているが、殺害されている人間が生きて戻ってきてるというのは?』
『生きて戻ってきたから驚いたんだよ!スティーブは前々日に1階、トラップに引っかかって死んだんだよ。で、次の日にはロシアのテロリストの襲撃にあって死んだの。その時にはコーネリアと一緒だったから、スティーブそっくりのアンドロイドでなんとかやり過ごせないかって思って…。あ、ちなみにスティーブそっくりのアンドロイドを用意する案を提示したのはコーネリアね』
ジライヤもスカーレットも頭を抱えた。
しばらく無言。
と、その空気をぶち破るように安倍議員がお腹を抑えながら入室。
『ふぃ〜…飲んだジュースがほぼ同じ形で肛門から排出…最悪な腸環境になっているのだ。しかし、水分をとらなければ脱水症状になってしまう。水アレルギーになったかのようなジレンマ。ん?二人共何を頭を抱えているのだ?』
その問いにはスカーレットが返す。
『コーネリアがスティーブの護衛に失敗して、何度か殺害されているらしいのよ。今の話を聞いた限りだと、代役が何人も居て入れ替わり立ち替わりで帰国したスティーブは5人目らしいわ』
『帰国したのは3人目だよ!2回死んだんだから!』
『結局「ザル」護衛じゃないのよ?最初に出会ったスティーブが本物である保証もないわ。というか、どうなってるのよ、アメリカは。いつから遺伝子組み換えスティーブを量産して外交官として送ってきてるのかしら。彼は以前にも米軍のリーダーの補佐官として来たことがあったわよね』
…そういえば、なんとなく俺の脳裏の片隅にはある。
あの重たそうなスーツケースを持って歩いているスティーブの姿が。
頭を抑えながらジライヤが言う。
『話を纏めると、スティーブは偽物かも知れないが、何人か同じものが用意されていて、死ねば次の代役と交代していた、ということか。人間でそっくりなものを作り上げることは不可能じゃないし、アメリカがそれをやらないとも言い切れない。だが、今は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっているんだ。とても認識していたとは思えない…仮にも認識していたとするのなら、コーネリアにはそれを伝えてあるだろうし、次の代役が合流するまでの間に会見が始まってしまうようなことが起きてはならない』
蓮宝議員ことスカーレットが俺に問う。
『スティーブはどこで殺されたの?トラップがどうとか…』
『えっと…それはぁ、よくわかんないけど…』
『護衛してたんでしょ?』
『スティーブが案内した場所に一緒についていったんだから、どこなのかわかんないよ。ドロイドバスターの生成施設みたいなところ』
『『…』』
安倍議員もスカーレットもジライヤも一瞬だけ口を閉ざした。
ジライヤこと東条は言う。
『なぜそのような場所に用事がある?』
『知らないよ、なんかデータを引っこ抜いてスーツケースの中にある機械に入れてたみたいだけれど』
再びの沈黙。
しかし、それはスカーレットが指を鳴らしたことで解かれた。
これは『閃いた』という意味での指鳴らしではない。ドロイドバスターの能力であるインフォメーション・コントロールだ。何故そうなのかと言えば、東条司令官も安倍議員もコーネリアもこのタイミングでの指鳴らしになんら反応を示さないからだ。
明智教授ね…』
それが俺が喉まで出掛かっていて引っかかっていたキーワードだった。数日前からずっと引っかかっていた。点と点の繋がりがひっつきそうでひっつかなくてイライラしていた。俺が中国での任務の度に奴の名前や存在や形跡が視界の隅にチラチラする。
『ケイスケの…石見教授の先生で、ドロイドバスター生成をケイスケと競い合っていた奴だよ。中国で日本語が通用するバックパッカーを誘拐しては殺して実験に使っていたクソ野郎さ。以前はそいつが日本の大学で授業してる時にあんたが護衛してたじゃん?どういう繋がりがあるの?もしかして、スカーレットは元々はバックパッカーで中国を旅行中にアイツに殺されてドロイドバスターになった人間?』
情報の行き来が俺とスカーレット以外が遮断されている、という前提で俺は今まで言いたくても言えなかった事をここで放った。
『私はバックパッカーになった覚えもないし、中国を旅行した覚えもないわ。仕事以外ではね。私がドロイドバスターになったのは四神の…まぁいいわ。私の話はどうでも』
そう言ってスカーレットはため息をついてから、話し始める。
『石見と明智教授は同じ研究室で物理や生物学の研究をしていたわ。物理学の観点から現象を算出する際に多次元の空間を用意すると説明がつくことから「宇宙空間」以外にも何かしら空間が存在しているという説が古くからあって、その解明が「生命がどこから来たのか」に繋がっている。計算の上ではそう証明されていても実験で検証されなければただの説にすぎない…明智教授はそれを実験で証明しようとしていた。その異空間からの謎の力を研究して利用しようとした石見とは方向性が違っている。石見のほうがさきにそれを再現してしまった。その際に起きた不幸な事故で石見の研究はストップさせられて、学会から姿を消して明智教授の研究も継続できなくなってしまった。彼は日本では研究の継続は不可能と判断して、中国とのパイプが太い私を頼ってきた。きっとその原動力になっているのは過去の自分の生徒だった石見に自分の専門の分野において先を越されたのがあるのかもしれないわ』
『繋がりについてはわかったよ。もう一つ、ロシアのテロリストに襲撃された理由は?今回もあの研究所で襲撃にあったんだ。連中は研究結果を狙っていたような感じだった』
『わからないけれど、おそらく狙いは明智教授が持っている知識ね。彼の研究データを狙っている感じがしない?』
『ドロイドバスターの生成技術が欲しいのなら明智教授を生かしておくはずだから…』
『そうね。石見が狙われないのに明智教授が狙われる理由…明智教授は学会で発表しようとしていた。多次元の存在が証明されれば科学は飛躍的に発展するから。一方で石見は自分の為だけにその技術を使った』
『でも今回はその防衛任務は失敗だね。スティーブがスーツケース内の外部記憶装置に研究結果を入れて持って帰ったよ』
『本当に?』
『ドロイドバスターに邪魔をされたんだよ。コーネリアみたいに物質変換をするタイプの奴。そいつがスーツケースを守ってて…』
『なんでそれを最初に言わないのよ?』
『聞かれなかったからだよ!』
『それはそれは、とても面白くないことになりそうだわ』
『ん?どのあたりが?』
『例えばあなたが一生懸命作ったものをどこかの誰かがそっくりそのまま真似て「自分が作りました」とドヤ顔で発表したらイライラしてこない?別にあなたがそれを世界に発表しようとしていたんじゃなかったとして、誰かの為に何かをしようとしていたわけでもなくて』
『それは著作権侵害だね』
『そうそう。そういう感情よ。それが大切なのよ』
『えっと…つまり?』
スカーレットは指を再びパチンと鳴らした。
『「なし」ってことよ』
『あ?』
『スティーブが「誰かの依頼」でドロイドバスターの技術をスーツケースに入れてアメリカに持ち帰った…という結末は「なし」』
『そ、そんなの、あり…なの?』
『「あり」よ』
え、ちょっ、俺の頭の中にある『あの研究施設での出来事』がどんどん消えていくんだけど!!なンなんだよ!一生懸命頑張って戦ったのに全部ナシになるのかよ!!!!!!
『あなたが一生懸命頑張ったことは私が知ってるからいいじゃない?』
全然よくねぇよ!!!
時間だけ無駄に過ぎただけじゃねーかよ!!!
おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
…。
『あぁ…ぁぅ…かゆ…うま…』
えぇ〜っと…。
なんで俺、電脳通信してるんだっけ?

177 代表代行 5

ようやく帰国してから世間を賑わせていたのは、中国のクーデターの話でもなければ日本の参戦でもなく、記者会見の時に登場したアメリカ代表の姿で会場に紛れ込んでいたスパイである。
左翼はこぞってスカーレットこと蓮宝議員にインタービューを行って、誰も正確なことは知らないのに『アメリカの背後にあるユダヤ財閥の陰謀』と称し、何者かが世界を混沌へ陥れようとしているとまで話している始末。街角でのインタビューではアンドロイドにはありえないほどに素早い動きや特殊な力からドロイドバスターではないかとの噂を言う者もいる。実は当たっているのだけれど。
そんな中でメンツを潰されたのはアメリカだった。
記者会見に寝坊で遅れるという失態はもとより、何者かが代表としてなりすまして記者会見を行っていた…しかもそれに誰も(護衛についていたコーネリアも気付かなかった)という事態。
調査委員会まで設置するとか…。
俺はしばらくはニュースを見ることが出来なかった。
いつどこで俺の失態が暴かれるかどうかビクビクしていたのだ。
今、この瞬間、茶の間で食事を摂りながらテレビの映像を前にマコトがナツコと共にニュースを見入っている最中にも、俺だけは不自然に壁に吊り下げられたケイスケ作の萌え絵カレンダー(日捲り)を睨んでいた。
「なんかキミカちゃんの動きに似てるね、このアメリカ代表の」
ニュースを見ながらマコトが言う。
俺は再び食事が喉を通らなくなる。
「そ、そりゃ世の中、似てる人はたくさんいると思うよ!」
「グラビティ・コントロールも使ってるみたいだし」
「そ、そりゃ世の中、グラビティコントロールを使う人も他にいるよ!あのジライヤだって使ってるんだからさ!コーネリアだって!」
「っていうと、このアンドロイドを制御していた人もドロイドバスターでグラビティコントロールを使える人だよね。ジライヤかコーネリアか、キミカちゃん?」
「だから他にも色々いるんじゃないのかな?!だいたい、なんであたしがこんな事をして世間を騒がせなきゃいけないんだよ!動機がないじゃん?動機がある人を犯人だと思わなきゃ!!!」
「でもキミカちゃんがドヤリングするのだって、他人には理解できない動機だからなー。こうやって世間で目立ちたいって気持ちでやってる可能性だってあr」
「なんでマコトはあたしを犯人にしたがってるんだよォォォォオォォオォォォオォォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!」
俺は立ち上がってマコトのか細い肩を掴んで前後左右に振った。
「ぼ、ボクは別にそんな気があって言ってるわけじゃないよ、ただ、この滅茶苦茶な強さはキミカちゃんぐらいしかいないなーと…」
「それを犯人にしたがってるっていうんだよォオォォオッ!」
「ご、ごめん」
その瞬間、胸のポケットに入れていたaiPhoneがヴーンとバイブ音を発しながら揺れた。思わず乳首に響いて顔を赤くしてうずくまる俺。そんな俺をニヤニヤしながら見る下心丸出しのマコト。
取り出して見てみると画面には暗号化された通信の文字。
ぬぅぅ…嫌な予感がする。
『はい、どなたですか?』
『私よ、私』
『間違い電話ですね』
声を聞いてスカーレットと分かったから切ろうとしてたら、
『おい、もう解ってるんでしょう?』
『ン…だよォ?!』
『招集がかかったわよ。この暗号化通信でアクセスしなさい』
『は?』
『は?じゃないの。スパイ事件の件よ』
『ひぃぃ〜…』
『怯えてないで。みんな待ってるんだから』
食事を中断してリビングのソファに腰を落として電脳通信経由の会議へと参加する。俺の目の前には俺にしか見えないホログラム表示の会議室が広がって、そこには神妙な顔持ちでジライヤこと東条指令官、そのとなりにスカーレットこと蓮宝議員、安倍議員が並ぶ。
アメリカから例のスパイについて情報を求められている』
と東条。
『知らないよォォォォオォォ!!』
俺は叫んだ。
『動揺が半端ないな。いったいどうしたというのだ』
安倍議員が訝しげな目で俺を見て言う。
『確かに朝、様子がおかしかったわね。いや、あの日の朝だけじゃなくて、前日ぐらいから…。まぁ、元々どこかオカシナ人だったから気にも止めなかったのが悪いのだけれど』
『コーネリアには聞いたの?』
と俺が言って、周囲を見渡してみる。
いましがた気づいたけれど、コーネリアもいるじゃん。気配を消して隅でガタガタ震えているから全然気づかなかった。
『コーネリアは何も知らないと言っているわ』
『それよりも映像を見て欲しいのだ。ほら』
俺が幾度と無くニュースで見ていたあの映像だ、うわぁぁああぁぁ!
『う、うわぁぁああぁぁ!』
『落ち着きなさいよ』
『ほら、動きがキミカそっくりなのだ』
『そう、この槍で忍刀を弾き飛ばす瞬間とか』
『う、うわぁぁああぁぁ!』
ジライヤが落ち着いた声で言う。
『しかし、仮にキミカ、貴様がこのアンドロイドを遠隔操作しているとして、目的はいったい何なのだ?アメリカの面目を潰すぐらいしか結果がみえないし、そこにリスクを負ってまでやる意味もない』
『だからあたしが操作してるんじゃないんだよォォォォ!まずはそこから離れよう!あたしを前提に話をするからおかしくなるんだよ』
映像はさらに進んで俺の制御する分身がスティーブ・アンドロイドを蹴り飛ばしてトドメにキミカ・インパクトを放つ瞬間がある。
『ほら、ここでキミカがため息をついてるわよ、「ふぅ、バレる前に壊せた。危ない危ない」』
『おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!』
まるで俺が言ったかのようにスカーレットのクソ野郎が言うので思わず俺は途中から奴の電脳通信上の音声をかき消すかのごとく叫んだ。
しかし、見ている全員がそれに納得している。
『蓮宝議員からアンドロイドを破壊すれば証拠が消滅する、という情報を聞いておきながらなぜ破壊した?』
ジライヤこと東条司令官が言う。
『非常に興奮していて、あの状況では、ここで殺らなければ自分が殺られると思って、自己防衛の為に殺りました…』
DVを受けた妻が緊急避難の自己防衛で夫を殺害した時の供述のように、俺は目を座らせて淡々とそう言った。
『うははは!何を言っておるのだ。キミカともあろう「つわもの」が自分が殺られるだなんて恐怖心を起こすわけがないだろう。あるとしたら自分がコントロールしていることがバレt、』
『だからあたしじゃないって言ってんじゃんかよォォォォオオオォォォオオォォォ!!!!』
『あいたたたた…またポンポンペインなのだ…』
『無実の罪であるあたしを疑うからそうなるんだよ!』
お腹が痛くなったのだろう、安倍議員は退室した。
『蓮宝議員、さきほど「前日あたりから様子がおかしかった」というのは、どんな風におかしかったのですか?』
ジライヤが蓮宝議員に丁寧語で質問するのは違和感があるが、今はそれは全部どうでもよくて、質問の内容が全部俺についてってことだ。クソ…さっき俺が犯人である前提で話を進めないでって言ったのに!
『まずスティーブの様子がおかしかったわ。で、それを庇うようにキミカとコーネリアの様子がおかしかったわね。二人で何かを隠しているようにも見えたわね』
俺は会議に参加しているホログラム・ビジョンの髪の毛が逆立つのを覚えた。ホログラム・ビジョンにはそんな器用な機能は実装されていないというのはわかってはいるが、それでも。しかしコーネリアに至っては実際に現場にいるのだろう、完全に髪の毛が逆立っていた。
『コーネリア、あんた髪の毛が思いっきり天井に引っ張られてるわよ』
『ンン…ンノォォオォォォオォォゥ!!!』
『どうしたのよ、落ち着きなさいよ』
もうスプラッター系のホラー映画で殺人鬼の襲撃にあって1人だけ生き残った(だけれど後に殺される運命にある)モブキャラが主人公達に事情を聞かせて欲しいと質問にあって、その過去の記憶を遡る過程において精神に異常をきたした状態になっている。
そして英語でブツブツと何かを言っているのだ…ヤバイ。
これはヤバイぞ。
俺には英語はわからないが、この2人は聞き取れてる感じだ。
『スティーブは確かに死んだはずなのに、ってどういうこと?』
それを聞いて俺は正直、失禁しそうになった。
いや、少しだけ失禁した。

177 代表代行 4

会議の内容でなくても、コーネリアがそれっぽい話をすればいい、と俺は言ったものの、正直不安になってきた。
コーネリアは本当に関係ない話をしそうだからだ。
ティーブ・アンドロイドの制御は俺からコーネリアへと移った。
ティーブは俺達と話してる時に見せたような笑顔で話をして、ちょっとオーバーアクションな身振り手振りがあり、会場のクスクスという笑い声…それから一部の英語が卓越しているネイティブな記者からは手を叩いて爆笑する様…おいおいおい…
これ、本当に関係のない話をしてるんじゃないのか?
俺は震える手でaiPhoneの録音モードをオンにした後、録音した音声をCoogle翻訳で日本語に変換して、電脳通信経由で聞いた。
『そしたらそのマヌケが俺に言ったのさ』
え、ちょっ…
なんだよこのどっかのコメディー洋画に出てくるブラックジョーク言ってそうな俳優なテンポのセリフは!!!!
『「俺のほうがお前よりもでかいクソで便器を詰まらせた」ってさ!HAHAHAHAHAHA!!』
会場では女性のネイティブは顔をしかめっ面にしてから後、悔しそうに笑って手を叩き、男性のネイティブは爆笑で手を叩く。中国人と日本人の記者だけはこの場に合わない事を言ってる事に腹を立ててるのか、それとも英語がわからないのか、英語がわかってもジョークがわからないのか、とにかく無反応だった。
…とその時だった。
会場の隅にあったドアが開いて、中国人の軍の護衛と共にアメリカ人らしきのが入ってきたのだ。
「すまない、肝心の記者会見に寝坊で遅刻してしまうなんて、」
え?
俺は目を疑った。
いや、おそらく2度あることは3度ある的な後悔が一瞬よぎった。
その声はスティーブの声だ。スティーブ本人がそこに居たのだ。
今まで朝になったらスティーブが復活することはもう予想はしてたんだけれど、思ったより記者会見が始まるというペースに載せられてまったくもって心の片隅にもその予測はなかった。どこかで昨日死んだスティーブが今日、生成されて、今そのアンドロイドではない生身の人間のスティーブが会場に遅れて到着してしまったのだ。
俺もコーネリアもそれを理解して、冷や汗を掻いた。
しかもコーネリアなんて驚きのあまりアンドロイドの制御を解除してしまいやがった。慌てて俺がスティーブ・アンドロイドの制御をとる。
が、これが後にもっとヤバイ事に繋がるなんて、思いもよらない。
中国語で記者が叫んだ。
なんて言ってるのかはわからなかったが、そのニュアンスや会場のどよめきから意味は何となく分かった。壇上にいるスティーブを指さして『スパイだ!』と叫んだのだ。きっとそういう意味だ…。
異常を察知したのかスカーレットは劉老子を連れて会場を出ようとする。その横では警備のドロイドが俺に向けて、いや、スティーブ・アンドロイドに向けてレーザー光線を浴びせる。
空港などで体内に武器を隠し持っているかどうかをチェックする、センサーと、センサーの結果を表示するホログラムだ。
ティーブ・アンドロイドの視点からは眩しくてわからないが、俺からの視点ではスティーブ・アンドロイドの内部構造がホログラム表示される。アンドロイドだから身体の骨格も人間と違うし、脳にはMPUが入っているし、体内に内臓は存在しない。
やばい。
バレ…た…ぞぉぉぉぉ!!!
コーネリアの隣に座っていた劉老子の護衛のドロイドバスターは一瞬で壇上まで駆け上がってテーブルを蹴り上げる。そのテーブルがスティーブ・アンドロイドに飛んでくる、と同時にドロイドバスターの忍刀のような黒い刃がスティーブ・アンドロイドに襲いかかっているのが、一瞬だけれど見えたのだ。
ここで黙って斬られておけばよかったのだけれど、俺も武闘家の端くれだ。チャフ用の影分身キミカを扱っている感覚で、気がつけばキミカ部屋からグングニルの槍を引っ張りだして忍刀を防いでいた。
テーブルの影になって自分の攻撃は見えてないはずなのに、予想外の防御、そしてアンドロイドの素早い動きに目を見開く、劉老子の護衛ドロイドバスター。そして彼女から立て続けに浴びせられる二撃目、三撃目の攻撃を全て槍で防御する俺。
会場の記者達は一斉に逃げ出し、代わりに軍と軍の制御するクモ型のドロイドが突入してくる。
一瞬、護衛のドロイドバスターはスティーブ・アンドロイドから距離を置く。これで次の攻撃が俺に浴びせられる銃弾の雨だということは予想がつく。またしても俺は反射的にグラビティコントロールを発動させて、地面のコンクリートを盛り上げて銃弾を塞いだ。
もう、スティーブ・アンドロイドの姿をしたドロイドバスターがそこで暴れてるという状況になってしまっている。
『何をぼーっとしてるの!!』
電脳通信で俺の頭に響くスカーレットの声。
『いや、えっと、突然の事で』
『コーネリアはこちらの護衛に回させてるわ。あんたはあのアンドロイドを始末しなさい。EMPを使われる前にね!』
『え?イーエムピー?』
『全ての電子部品を使用不能にする機雷よ。おそらく近くにあのアンドロイドを制御しているドロイドバスターがいるはずだわ。EMPを使われるとそいつを特定することができないくなるのよ』
そうなのか〜…。
って、制御してるの俺じゃん!!
バレたらやべぇよ!!
などと考えている間にもスティーブ・アンドロイドと中国人ドロイドバスターの戦いが続いている。槍による攻撃を試しに喰らわせてみると、何故かその攻撃が当たらず、別の方向に衝撃波が起きる。
こいつ…。
目の色から察するにパワー型だと思ったけれど、攻撃のベクトルを自由に変更できている!!!槍による攻撃のダメージが身体に当たらず、別の場所に当たっているのだ。すげぇ…。
しかし俺の方も負けてはいなかった。
地面に掛かっている重力を一時的に解いたのだ。
これは俺だけが使える力、グラビティ・コントロールの拡張だ。突然地面の『支え』をなくした護衛のドロイドバスターは身体がふらつく。と、その時にスキをついて槍の持ち手の部分で突く。彼女の身体からバリア壁が一瞬現れて、防御しきれずに体ごと吹き飛ばされた。
「その程度の力で護衛が勤まるのかね…?」
などとアニメの適役的なセリフなどを言わせてみたりする。
が、そろそろケリをつけないと解析されて犯人が俺ってバレちゃうじゃん!しかし、この中国人ドロイドバスターの攻撃を弾き飛ばしていたわけだから、筋書きでは俺がそれ以上の力をもってしてスティーブ・アンドロイドを倒さないと、スカーレットの事だから『怪しい』目で俺を見る可能性がある…これは慎重に慎重に『演じ』ないとな…。
俺のグラビティ・ブレードによる斬撃を見事に全部グングニルの槍によって防御するスティーブ・アンドロイド。気がつけば俺としたことが、同時に中国人ドロイドバスターの攻撃を同時に防御していた。
ドロイドバスター二人の攻撃をただのアンドロイドが防御しているわけだから、赤い目を見開いて驚いている中国人ドロイドバスター。
よし、三人目を登場させて…。
俺は印を結び「影分身の術!」
叫んだ。
俺の背後の空間が一瞬歪んで影分身こと『デコイ』の俺そっくりのアンドロイドを召喚する。
中国人ドロイドバスターの攻撃を槍でガードしたその瞬間、俺の蹴りが槍を押し上げ、槍そのものをキミカ部屋に吸い込んだ。防御の手段がなくなったスティーブ・アンドロイドに立て続けにデコイの後ろ回し蹴りが叩き込まれ、会場の窓を突き破って路上へと転がる。
と、そこで俺の『キミカ・インパクト』
地球に向けての超重力攻撃により路上にはクレーターが出来て、スティーブ・アンドロイドは無残にもぺっちゃんこになった。
すると、中国語でその護衛ドロイドバスターは俺に何かを言う。中国語はわからない俺だけれど、何となく『なんで倒したの??まだ情報を抜いてないのに』…という風に聞こえた。
『なんで壊してるのよ…さっきも言ったでしょ?情報を抜かなきゃいけないんだから…。まぁ、仕方ないわね、手ごわかったし』
スカーレットから電脳通信が入ってきた。だからか、おそらく、この中国人ドロイドバスターも同じ事を言っていたんだろう。

177 代表代行 3

ようやく味覚が正常な状態に戻った時、おそらくは吐いてからその状態に至るまでの間、ずっとお世話係のアンドロイド達がテーブルの掃除をしてくれていたのだろう。
もうそこにはあのアメリカ代表のスティーブの姿は無く、乞食のようにがっついて食べてる偽スティーブでもなく、予定よりも早く発病してしまった痴呆症で自分が何をしているのかわからないどっかの若いアメリカ人の姿がそこにあった。
「ほんとうに大丈夫なの?何か病気的な意味での問題を抱えているような感じがするわよ?」
「いや、その、なんていうか、コーネリアっぽくアメリカ人本来の食べ方をしようと思ったんだが、胃まで食べ物が入ってから、味覚がイカれてる人間の食べ方だと改めて自覚して、身体が拒否反応を示したみたいだ」
「遅すぎるわよ、なんで胃まで入ってから始めて気づくのよ」
「あ〜…きっとおかしいんだ。アメリカ人という人種そのものが」
「そういうことは言わないほうがいいわよ。あなた、アメリカの代表でしょう?これから記者会見が行われるんだから、国民へ向けてのメッセージは気をつけて言わないと」
と、いつも国民向けのメッセージを左翼らしく刺々しく言っているスカーレットこと蓮宝議員が言っている。
…。
そして朝食は終わった。
小一時間が経過していた。
そして俺はいま、スティーブの部屋の中を荒らしていた。
「やっぱどこにもないのかなぁ?頭の中にあるのかな?」
「頭ノ中ニアルトシカ思エマセンネー」
何を探しているのかと言うと、『台本』である。
記者会見の台本がどこかにあるはずなのである。
アメリカ式だとカメラの横に台本が出るんだよね?」
「ソノハズデース」
「もー!コーネリアがやればいいじゃん!」
「私ハ、ドウイウ会議ガ行ワレテイタノカ、知リマセン」
いや、お前会議にいただろうが。
「じゃああたしが適当な台本を書いておくからコーネリアが読んでよ!英語じゃないとダメなはずだから!」
「OK。口ノ動キト声ノ制御ダケ、私ガシマショウ」
「全部やればいいじゃん!」
「前ニモ言ッタケレド、」
「あー、はいはい。自分の身体とアンドロイドの同時制御ができないんだったよね。はいはい、わかりました」
その時だ。
部屋をノックする音。
護衛としてコーネリアが部屋のドアを開ける。
立っていたのは中国人だけれども、英語でコーネリアとの間で何かしらの会話がある。と、その中でコーネリアが喜びの声をあげていた。
いくつか会話を交わした後にニュアンス的に「え?本当にそれでいいのか?」的な声が中国人から聞こえてくる。
会話が終わり、ドアが閉まる。
「今、なんて?」
「HeHeHe…ドウヤラ、記者会見デカメラノ横ニ流レル、カンニング台本ノデータヲクダサイトイウ事デシタ」
「じゃあ台本を書いて渡さないと、」
「台本ナンテアリマセーン」
「え?じゃあどうすんだよ!!」
「適当ニソレラシイ事ヲ書イテオイテト言ッテオキマシタ」
「え、ちょっ、なんて事してるんだよォォォォォ!!!」
「ジャア、キミカナラ台本書ケルンデスカァァァ?!」
「そ、それは…」
確かにそうだ。
アメリカの国の代表としての言葉を述べなければならないが、まずコーネリアは今までの会議を聞いてないし、聞いていた俺は日本としての意見を述べるぐらいしかできない。結局のところ、俺とコーネリアが考えたところで、コーネリアが「適当に書いておいて」と中国人に指示した結果と同じような結果になるはずだ。
そうこうしている間にも無慈悲にも時間は過ぎていき、いよいよ記者会見の時間になってしまった。
俺とコーネリアは特に準備ができているわけでもない。適当に書かれた台本がそれらしくできている事を祈るだけだ。
会場に入ると護衛組は脇に揃って立って、壇上にはまず劉老子が上がって中国としての発言がある。
そして次が隣国である日本、最後がアメリカ。
中国語なので何を言っているのかよくわからないが、会場にはどよめきが起きて、そして静まり返り、最後は拍手。俺の予測では、中国が内戦状態であることを始めて中国が認めた、そしてこれから戦争が始まるということ、最後に一緒に頑張っていきましょう的な話じゃないかな。
次にスカーレットこと蓮宝議員だった。
壇上にあがり話し始める。
「先ほど劉老子から話がありましたとおり、今、中国も、周辺国も歴史的な分岐点に来ています。日本は中国が内戦状態になっていることを休戦状態である視点から見て見ぬふりをしてきました。国民の中では未だ、中国という巨大な国と戦い、今は一時の休戦だと認識している方もいらっしゃると思います。しかし、総理と安倍議員の中国訪問、そしてクーデーターに巻き込まれ、一時的に安倍議員が敵国の捕虜になるという事態が発生し、その認識を改めざるえない状況だと判断されたことと思います。この火の粉は今はまだ小さなものですが、放っておけば、いずれこの中国を、そして周辺国を焼きつくすでしょう。私達は人間です。人間は他の動物と同様に生きていくことを使命としています。戦火に巻き込まれ、多くの方々が命を落とすような事態にしてはなりません。今日という日はかつて敵国であった中国と、平和の為に戦おうと決意した日となりました。これから長い戦いとなりますが、日本政府として、戦火が収まったあかつきにこの日を思い出せるよう、仁義を尽くしていきます」
ここまでは滞りない進行だ。
会場は中国の代表が話した時のようなどよめきはなかったが、最後は拍手が流れた。というより、ここでスカーレットがシメたと言っても過言ではないのだけれど、この後アメリカはまたどういう立場で話をするんだろう。まぁ無難な内容がスピーチで流れるんだろうけど。
壇上に俺はスティーブ・アンドロイドを進める。
会場は壇上に向けてライトが照らされているせいか、記者席が暗い。カメラの物体認識用のセンサーの小さな赤い点だけが見える。
さて…と、肝心の台本はどこかなぁ?
目の前のカメラの下に一方方向にしか見えないホログラムが流れている。台本らしきものはあれしかないんだけれど…。
中国語だ…。
え、ちょっ…。
え?
おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!
台本が中国語だよ!!
俺の隣ではガタガタ震えているツインテールの白人の美少女の姿がある。台本を適当に書いておいてと指示したら、適当に中国語で台本が書かれていたという大惨事となり、その事実に全身の震えを持って応えているコーネリアの姿がそこにあった。
『どーするんだよ!!!中国語読めるの?!』
『翻訳シナイト無理デス、助ケt』
『だからコーネリアが書いておけばよかったんだよ!!超ヤバイじゃん!会場凍りついてるよ!!!!』
いっこうに話が始まらない状況で会場は予想外のどよめきだ。中国代表が話した時のどよめきとは別の。
『モウ、寝マス…寝テ起キタラ、キット、妖精サンガ悪夢ノ様ナツライ現実ヲ全テ解決シテクレテイマス…Good night』
『おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!』
ぐったりと俺に寄りかかってくるコーネリア。
そんな様子を訝しげな目で隣の劉老子護衛のドロイドバスター(俺と同じようなコンセプトの戦闘服)が見ている。
『いいから、もう制御全部代わってよ!!コーネリアが英語で適当に話をするしかないじゃん!!』
『会議ノ内容ハワカリマセーン!!』
『国の代表が何も話さないってのは一番ヤバイんだよ!!!この際、会議の内容じゃなくてもいいんだよ!!』
「Oh!」
閃いたかのようにコーネリアが言う。
ちょっと嫌な予感がするけれど、コーネリアにスティーブ・アンドロイドの制御を渡した。