177 代表代行 4

会議の内容でなくても、コーネリアがそれっぽい話をすればいい、と俺は言ったものの、正直不安になってきた。
コーネリアは本当に関係ない話をしそうだからだ。
ティーブ・アンドロイドの制御は俺からコーネリアへと移った。
ティーブは俺達と話してる時に見せたような笑顔で話をして、ちょっとオーバーアクションな身振り手振りがあり、会場のクスクスという笑い声…それから一部の英語が卓越しているネイティブな記者からは手を叩いて爆笑する様…おいおいおい…
これ、本当に関係のない話をしてるんじゃないのか?
俺は震える手でaiPhoneの録音モードをオンにした後、録音した音声をCoogle翻訳で日本語に変換して、電脳通信経由で聞いた。
『そしたらそのマヌケが俺に言ったのさ』
え、ちょっ…
なんだよこのどっかのコメディー洋画に出てくるブラックジョーク言ってそうな俳優なテンポのセリフは!!!!
『「俺のほうがお前よりもでかいクソで便器を詰まらせた」ってさ!HAHAHAHAHAHA!!』
会場では女性のネイティブは顔をしかめっ面にしてから後、悔しそうに笑って手を叩き、男性のネイティブは爆笑で手を叩く。中国人と日本人の記者だけはこの場に合わない事を言ってる事に腹を立ててるのか、それとも英語がわからないのか、英語がわかってもジョークがわからないのか、とにかく無反応だった。
…とその時だった。
会場の隅にあったドアが開いて、中国人の軍の護衛と共にアメリカ人らしきのが入ってきたのだ。
「すまない、肝心の記者会見に寝坊で遅刻してしまうなんて、」
え?
俺は目を疑った。
いや、おそらく2度あることは3度ある的な後悔が一瞬よぎった。
その声はスティーブの声だ。スティーブ本人がそこに居たのだ。
今まで朝になったらスティーブが復活することはもう予想はしてたんだけれど、思ったより記者会見が始まるというペースに載せられてまったくもって心の片隅にもその予測はなかった。どこかで昨日死んだスティーブが今日、生成されて、今そのアンドロイドではない生身の人間のスティーブが会場に遅れて到着してしまったのだ。
俺もコーネリアもそれを理解して、冷や汗を掻いた。
しかもコーネリアなんて驚きのあまりアンドロイドの制御を解除してしまいやがった。慌てて俺がスティーブ・アンドロイドの制御をとる。
が、これが後にもっとヤバイ事に繋がるなんて、思いもよらない。
中国語で記者が叫んだ。
なんて言ってるのかはわからなかったが、そのニュアンスや会場のどよめきから意味は何となく分かった。壇上にいるスティーブを指さして『スパイだ!』と叫んだのだ。きっとそういう意味だ…。
異常を察知したのかスカーレットは劉老子を連れて会場を出ようとする。その横では警備のドロイドが俺に向けて、いや、スティーブ・アンドロイドに向けてレーザー光線を浴びせる。
空港などで体内に武器を隠し持っているかどうかをチェックする、センサーと、センサーの結果を表示するホログラムだ。
ティーブ・アンドロイドの視点からは眩しくてわからないが、俺からの視点ではスティーブ・アンドロイドの内部構造がホログラム表示される。アンドロイドだから身体の骨格も人間と違うし、脳にはMPUが入っているし、体内に内臓は存在しない。
やばい。
バレ…た…ぞぉぉぉぉ!!!
コーネリアの隣に座っていた劉老子の護衛のドロイドバスターは一瞬で壇上まで駆け上がってテーブルを蹴り上げる。そのテーブルがスティーブ・アンドロイドに飛んでくる、と同時にドロイドバスターの忍刀のような黒い刃がスティーブ・アンドロイドに襲いかかっているのが、一瞬だけれど見えたのだ。
ここで黙って斬られておけばよかったのだけれど、俺も武闘家の端くれだ。チャフ用の影分身キミカを扱っている感覚で、気がつけばキミカ部屋からグングニルの槍を引っ張りだして忍刀を防いでいた。
テーブルの影になって自分の攻撃は見えてないはずなのに、予想外の防御、そしてアンドロイドの素早い動きに目を見開く、劉老子の護衛ドロイドバスター。そして彼女から立て続けに浴びせられる二撃目、三撃目の攻撃を全て槍で防御する俺。
会場の記者達は一斉に逃げ出し、代わりに軍と軍の制御するクモ型のドロイドが突入してくる。
一瞬、護衛のドロイドバスターはスティーブ・アンドロイドから距離を置く。これで次の攻撃が俺に浴びせられる銃弾の雨だということは予想がつく。またしても俺は反射的にグラビティコントロールを発動させて、地面のコンクリートを盛り上げて銃弾を塞いだ。
もう、スティーブ・アンドロイドの姿をしたドロイドバスターがそこで暴れてるという状況になってしまっている。
『何をぼーっとしてるの!!』
電脳通信で俺の頭に響くスカーレットの声。
『いや、えっと、突然の事で』
『コーネリアはこちらの護衛に回させてるわ。あんたはあのアンドロイドを始末しなさい。EMPを使われる前にね!』
『え?イーエムピー?』
『全ての電子部品を使用不能にする機雷よ。おそらく近くにあのアンドロイドを制御しているドロイドバスターがいるはずだわ。EMPを使われるとそいつを特定することができないくなるのよ』
そうなのか〜…。
って、制御してるの俺じゃん!!
バレたらやべぇよ!!
などと考えている間にもスティーブ・アンドロイドと中国人ドロイドバスターの戦いが続いている。槍による攻撃を試しに喰らわせてみると、何故かその攻撃が当たらず、別の方向に衝撃波が起きる。
こいつ…。
目の色から察するにパワー型だと思ったけれど、攻撃のベクトルを自由に変更できている!!!槍による攻撃のダメージが身体に当たらず、別の場所に当たっているのだ。すげぇ…。
しかし俺の方も負けてはいなかった。
地面に掛かっている重力を一時的に解いたのだ。
これは俺だけが使える力、グラビティ・コントロールの拡張だ。突然地面の『支え』をなくした護衛のドロイドバスターは身体がふらつく。と、その時にスキをついて槍の持ち手の部分で突く。彼女の身体からバリア壁が一瞬現れて、防御しきれずに体ごと吹き飛ばされた。
「その程度の力で護衛が勤まるのかね…?」
などとアニメの適役的なセリフなどを言わせてみたりする。
が、そろそろケリをつけないと解析されて犯人が俺ってバレちゃうじゃん!しかし、この中国人ドロイドバスターの攻撃を弾き飛ばしていたわけだから、筋書きでは俺がそれ以上の力をもってしてスティーブ・アンドロイドを倒さないと、スカーレットの事だから『怪しい』目で俺を見る可能性がある…これは慎重に慎重に『演じ』ないとな…。
俺のグラビティ・ブレードによる斬撃を見事に全部グングニルの槍によって防御するスティーブ・アンドロイド。気がつけば俺としたことが、同時に中国人ドロイドバスターの攻撃を同時に防御していた。
ドロイドバスター二人の攻撃をただのアンドロイドが防御しているわけだから、赤い目を見開いて驚いている中国人ドロイドバスター。
よし、三人目を登場させて…。
俺は印を結び「影分身の術!」
叫んだ。
俺の背後の空間が一瞬歪んで影分身こと『デコイ』の俺そっくりのアンドロイドを召喚する。
中国人ドロイドバスターの攻撃を槍でガードしたその瞬間、俺の蹴りが槍を押し上げ、槍そのものをキミカ部屋に吸い込んだ。防御の手段がなくなったスティーブ・アンドロイドに立て続けにデコイの後ろ回し蹴りが叩き込まれ、会場の窓を突き破って路上へと転がる。
と、そこで俺の『キミカ・インパクト』
地球に向けての超重力攻撃により路上にはクレーターが出来て、スティーブ・アンドロイドは無残にもぺっちゃんこになった。
すると、中国語でその護衛ドロイドバスターは俺に何かを言う。中国語はわからない俺だけれど、何となく『なんで倒したの??まだ情報を抜いてないのに』…という風に聞こえた。
『なんで壊してるのよ…さっきも言ったでしょ?情報を抜かなきゃいけないんだから…。まぁ、仕方ないわね、手ごわかったし』
スカーレットから電脳通信が入ってきた。だからか、おそらく、この中国人ドロイドバスターも同じ事を言っていたんだろう。