14 トラ・トラ・トラ(リメイク) 4

砂浜から少し歩いたところにある岩場、俺が日本でよく見る岩場とはことなり、植物や水生生物のソレが一切張り付いていないような独特の丸みを帯びた岩が張り付くように伸びている場所、それがタチコマが指定した合流ポイントだった。
途中で日本人の男性だけで海外旅行をしている連中にナンパをされていたが、用事があるのでと丁重にお断りしていた。
アンドロイドの店員の完璧なスタイルであるビキニと肩を並べても違和感ないほどに完璧なスタイルでなおかつ美少女が俺であり、それがアンドロイド店員ではないのだから男の目を引くのは仕方がない。しかし、戦闘用の服(タチコマに格納している)をビキニの上から着用すると、あからさまにこれからどこかで暴れますという風に見えるから観光客に混ざって上陸が難しいのだ。
タチコマは既に上陸を終わらせて茂みの中に身を潜めていた。
「どうしたのさ、巨大なクモが巨大なハチに怯えて草陰に身を潜めるみたいに」
と、俺はそれに話しかける。
「先程、偵察用とみられる対地ヘリ・ドロイドが周回してきましたので、念の為に草陰に隠れていました」
「見つかったらただのコンベイアーだと言えばいいんじゃないの?」
「管理者が近くにいない状況で岩場を単体でウロウロしているコンベイアーは異常とみなされます」
「あぁ、そっか」
それじゃ、さっそく移動を開始しますか。
俺は軽く地面を蹴って空高く舞い上がると、タチコマの背中にトン、と足をのせた。グラビティ・コントロールで空を飛ぶこともできれば、このようにジャンプを装って自らの身体を空に翻らせることも可能なのだ。
「キミカさんは運動神経が素晴らしいのですね」
「いえいえ、どういたしまして」
「さきほどもマグロの様なスピードで海を泳いでいましたね」
「それは泳いでたっていうか飛んでたっていうか」
俺はタチコマの上で立った状態、タチコマは岩場を歩いて移動。そのまま砂浜を歩いて周囲の観光客の目を引きながらも、道路へと出た。
ようやくそこでタチコマは歩きからタイヤに切り替えた。不安定だった背中が安定走行に切り替わったから、あぐらをかいて背中に座る。
そういえばコンベイアーの背中に乗った状態で移動するっていうのは、アメリカ的には道路交通法違反になるのだろうか?少なくとも日本では、例えばトラックの荷台に乗るのも違反行為だけれども。
などと考えながらもヤシの木が左右を挟む道路を涼し気な速度で移動していくタチコマとその背中のビキニの美少女、俺。
タチコマ
「はい、なんでしょう?」
タチコマはどうしてタチコマって呼ばれてるの?」
「タクティカル・コンベイアー・マシンの略称だと言われています」
「なるほどなるほど…戦略的運搬機械か…戦場で装備を運搬するトラックの代わりに使われてるわけね」
「はい。瓦礫の中も人間よりも早い速度で移動できることから、兵器以外にも人間を運搬する役割も担っています」
タチコマ車は商店街らしき中を人目を惹きつけながら移動する。ここいらになると日本人だけじゃなくてハワイ人(アメリカ国籍でハワイアンな人)だとか白人が目につき始める。
どうやらタチコマは確かに高価であり金持ちの持ち物というイメージだけれども、それ以上に俺が背中に乗って移動しているのが面白いらしい。俺を指差して笑っていたり、笑顔で手を降ってくる白人男性もいる。
「これから仕事なのに人目につくのはまずいな…」
「そろそろ郊外へ出ます」
タチコマ車の周囲からは商店街がなくなり、またヤシの木が両サイドにある道路。それを進んで小一時間、石の門がある位置の前で停車。
石の門には看板があり、英語は読めないが最後がParkとなっていたので公園の入り口といったところだろうか。さすがアメリカだ。日本の公園とは桁外れに巨大な広さ。端から端は見えないどころか、目の前には小高い山も広がっており、まるで適当に見つけたジャングルの適当な位置に門を置いてみたと言った感じ。
「この奥にハイヴがあるようです」
タチコマから降りる。
というのも、木々が邪魔して乗っているとぶつかりそうになるから。
適当にあしらったような歩行者向けの道路をタチコマと共に進むとキャンプ場か別荘地か、コテージが並んでいるような場所に出た。
「本当にここにあるのかなぁ?」
俺が疑いの目でそれらを見ていた。
何しろ家族連れが焼肉パーティをしていたからだ。
養豚場から逃げ出してきたような丸々と太った4つの塊…いや、父親に母親にお姉さんに弟と、これら4人のデブが巨大なソーセージやらステーキやらを食べてる。
父親は網の前で肉を焼き、母親がそれのサポートだ。
お姉さんは反抗期なのか鼻に耳に口にピアスをして白い肌にはさらに白くお化粧をして、日本人で言うところの茶髪でだらしないジャージをいつも着ているガラの悪いヤンキーだ。
しかし、そんなヤンキーも肉の魅力には負けたらしく、ガラの悪そうな顔がニッコリと微笑んで「オォォゥ、ファッキンビッグ」などと言っている。その汚い言葉遣いを母親に注意されるも、叱る母親の顔も笑顔。
そして弟のほうはこれからブタになる練習でもしているのだろうか、鼻音をフゴフゴと立てながら肉に齧り付く。
英語なので何を言っているのかはわからないが、雰囲気的には何を言っているのかはわかる。
遠目にそんな光景を見ながら、俺がそれぞれの家族の台詞を代役。
ブタのような食べ方をしている弟に姉は言う。
「もっとおしとやかに食べなさい。ほら、ポテトも食べないと!デブになっちゃうわよぉ?」
ポテトを勧めているようだ。
ポテトは炭水化物だからむしろそっちが太るんだけれど、アメリカ人にはその感覚がないらしい…何しろあいつらは日本の寿司がヘルシーだと言って喜んで喰ってるからな。で、それを受けた弟のほうは
「何を言ってるんだよ(肉の塊を指さしながら)今はこの肉で口の中を満たす時だろ?」
父親が言う。
「おいおい、マイク、そんなに急いで喰ったら次の肉がまだ焼けてないだろ?ペースを考えろよ、ハッハッハッハ!」
「そうよ、パパが今、おっきなの焼いてるからポテトでも食べて待っておきなさい」
「(マッシュポテトをフォークで持ち上げて)せっかくのバーベキューなのにこんなので胃の中を満たせっていうのかよ?」
「キミカさん、何を言っているのですか?」
「は?」
「先程から独り言を」
「ねぇ、あんな一般ピープルが居るような公園に本当にハイブがあるの?場所を間違えた疑惑が浮上しているんだけれど」
「作戦ではこの位置が指定されています」
と、タチコマはズカズカとそのファミリーの横を進んでいくのだ。
弟のほうが俺に気づいて何か英語で言って手を降っている…が、その英語の中に「チャイニーズ」という単語が入ってたから俺は中指を立てた。俺はジャパニーズだっての。
「おい、まだ何にも言ってないのに彼女はすっげぇ怒ってるぜ?」
と俺が弟が家族に向けて話した英語を代役。
1分ほど歩いたところでコテージの中に一箇所だけ草木が綺麗に刈り取られている場所があった。ずさんな管理で芝生も見えなくなっていたのだけれど、そこだけは誰かが住んでいるのか整備がされている。
「あれがハイブの入り口です」
「普通の家っぽいけれど…」
俺の電脳にアクセスがあるのか、許可するかどうかを応えるよう催促。これはタチコマからのアクセスか。
許可すると視界にあわせて赤でマーキングされ、日本語で説明が表示される。確かに遠目にはわからなかったが目を凝らすとマーキングされた箇所にはカメラが設定されている。ドアノブにもマーキングされており、振動センサーと説明がある。
「この箇所だけ警備が厳重です」
「意外なところに…さっきの家族もじつは関係者だったりして…」
「それよりキミカさん水着のままでいいのでしょうか?」
あぁ、そうだった。
俺はタチコマの背中をペシペシと叩く。
ラックがひらいて中には装備。
ビキニの上から戦闘服を着ていく…軍にそのような装備があるのかケイスケの趣味なのか水着にちゃんと合うように作られている。
「スパイ映画みたいにセンサーを潜り抜けて本丸に忍び込むとか、そのあたりは何か案はあるの?」
「軍はそのようなことをキミカさんに期待していません。警備が厳重すぎてそれは不可能だと思われます」
「とどのつまりはどういうこと?」
「堂々とした態度でカメラの前を通りすぎ、勢い良くセンサー付きのドアを蹴り飛ばし、非常事態警報という名のチャイムを鳴らして警備兵を叩き起こしてあげる手法がいいと思われます」
「いいと思われますっていうか、あたしとタチコマのコンビだったらそれ以外にはやりようがないってことじゃん!」
ラックの中にあったのは米軍で標準支給されているMなんとかっていうライフル。それを小柄な美少女の身体で軽々しくと抱えて、ズカズカと歩きハイブの入り口に向かう。
で、カメラに向かってニコニコ手を振り、次の瞬間、俺の放ったライフル弾がカメラを粉砕した。
背後ではさっきのバーベキュー・ファミリーが「What’s the fuck!」「Shit!」などと叫びながら、俺達のほうを見ては逃げ、見ては逃げ、恐ろしい出来事に巻き込まれないようにと逃げていく。
俺は叫んだ。
「SaYoNaRa!!!」
そして俺のライフルの掃射でコテージの窓ガラスやらドアやらが穴だらけになる。コテージの中からドタドタと音が聞こえて人影がチラホラする。タチコマが俺の前に盾となり進むと、建物から警備兵(…と言ってもまるで野盗のような格好の連中)が銃弾を撃ち込んでくる。
負けじとタチコマガトリングガンが火を吹いた。
俺のライフルがオモチャだと思わせるぐらいに、その戦闘機にも搭載されているであろう小型のガトリングガンは、目の前で大きな火花を散らし、空気を吹き飛ばし、銃弾の衝撃波だけでも家の壁を木っ端微塵に粉砕して、先ほどまであった人影は既に人の形をした死体に変わっていた。
こんな強襲型人質救出があるのかよ…。
「行きましょう」
タチコマが言う。
そのコテージの中には通常は露出することはないであろう、金属製の巨大な扉が地面に埋めてある。さっきタチコマガトリングガン掃射で隠された扉が露出したようだ。その扉の手前に死体が転がっているから、おそらくはここを守るように言われたのだろう。
「パスコードを解析します」
電磁ロックを解除しようとタチコマが操作パネルに手を延ばす。
「いいよいいよ、あたしが扉ごとどけるから」
「どのようにどけるのですか?これは重機を用いなければ、」
そうタチコマが言いかけた時、俺のグラビティコントロールが発動。周囲の小さなゴミが一瞬だけ宙に浮いたかと思うと、今度は本命である扉が、ハイブの入り口がそのまま宙に浮く。
ベキベキと接合部を剥がしながらだ。
そのまま庭の方へ放り投げた。
音だけでも腹に染み渡る。凄まじい重量があったようだけれど…俺のグラビティコントロールの前では重量はあんまり関係ない。大きさや数は関係あるけれども。
「素晴らしい…それは軍が開発した新しい兵器でしょうか?」
「いえいえ、キミカ神のチカラです」
「…はい」
俺とタチコマは不器用に引き剥がされたハイブへと降りるカーゴの横にある、メンテナンス用通路を降りていった。