2 キミカ出動(リメイク) 1

さっきからつけっぱなしになっていたテレビの画面が突然緊急放送に切り替わった。画面は都心のビルの隙間にそこにあるべきではないものが映っている。
戦争中に使われていた多脚戦車。
それらが車を踏みつぶしながらビルの間を進んでいる。
ヘリはそれを中継するマスコミだった。
「来たか…」
「『来たか』って、まるで起きることを知っていたかのような感じじゃん」
「事故だって片付けられてたけど、警察が手に負えなくなってついに撤退命令を出したんですにぃ。これから軍が出動しますぉ」
「さ、さっきの続きなの?俺を殺したドロイドがこれ?!」
「わからないですにぃ、レーザー砲を装備してるタイプではないから違うとは思いますがァ…ただ、首都高速方面からやってきたからひょっとしたら…」
するといそいそと今まで使っていた実験設備の電源を落とし始めるケイスケ。今からどっかに出掛けるのかな?
「どっかいくの?」
「よし、キミカちゃん、出動ですぉ!」
「しゅつどうぅ?何?服とか買いに行くの?」
「最初のターゲットはあの多脚戦車ですにゃん!!」
俺はテレビに映っているニュースに向かって目ン玉を飛ばしそうになった。そのまま目ン玉を飛ばしてテレビを破壊しそうになった。っていうぐらいに驚いた。
「あははは、はははは。…さてと、冗談はさておき、服とかはどこでk」
「いよッ!正義の味方ァ!」
とりあえず俺はベッドの上で寝ようと思って身体を横たわらせた。
それから「むにゃむにゃ…」と寝ているフリをする。
「何寝てんですかォ!!」
と無理やり俺を起き上がらせるケイスケ。
「あれを倒すの?マジで言ってるの?冗談は肉だけにしろよォ?!」
と、俺はケイスケの脂肪を指でつまんで吠える。
「ぜーんぜん冗談じゃないですぉ!武器はキミカちゃん自身!!あんなドロイドなんか屁でもないしウンコでもないし!精液でも愛液でもないですにゃん!!!」
いやいやいや屁とかウンコとか精液とか愛液とかそんな話をしてる場合じゃないってば、冗談はマジで勘弁してよォ…(枯れ声
俺はケイスケに手を引かれて部屋から連れだされた。
出動っていうと例えばこの場所が地下深いところにあって地上まで超スピードで上昇するエレベータみたいなのに乗るとか、プールの底が割れてそこから何かが飛び出して来るとかかかな?
そういうイメージしか思い浮かばないんだけど…。
木で作られた立て付けの悪い階段を登るとそこは普通の住宅で、玄関で靴を履いて外に出る。と、そこはこれもまた普通の家の庭で車庫には女の子が趣味で買うような小さな軽自動車が停まっている。
そうか、これはカモフラージュなわけだな。
この車は実は空を飛ぶとかそういう奴でしょ。
ケイスケはキーのボタンを押すと「ピッピッ」という電子音とアンロックされる音が聞こえる。女の子が乗るような軽自動車にデブが無理矢理乗るものだから右側のタイヤがやけにすり減っている。
乗れば案の定右側が軋んで沈んだ。いや、空を飛ぶんだからタイヤなんて関係ないさ。そう、これが軋んでいるのもタイヤがすり減っているのもカモフラージュ。
「さ、行きますにゃん!」
俺は誘われるままに助手席に座る。
車はバッグして車道に出るとそのまま進んでいった。
ちゃんと一時停止の場所で止まったり信号ももちろん規則正しく守っている。時々、横断歩道を渡るお年寄りをちゃんと待ったりもして。
「で、どの辺で空に飛ぶの?」
「んぉ?」
「この車で現場に行くんでしょ?」
「そうだけど空は飛ばないですにぃ…。飛行機じゃあるまいし。何を言ってるんですかぉ?キミカちゃんは事故で頭を強くぶつけすぎたんじゃないですかぉ?」
「…マジ?」
「うん」
「…」
「…」
なんだか急に白けた。
もしかしたら本当に服とか買いに出ただけじゃないのか?途中でコンビニによってコーラとか買っていくし、銀行からお金を落としたりしてるし、どう考えてもヒーローが出陣するにはのんびりしすぎだろっていう。
「よし、この辺りに停めておくにぃ」
車は反対車線は渋滞していてもう殆ど進めなくなっていた。俺達はドロイドが暴れてるっていう現場に向かっているわけだから、前を走る車はない。
ケイスケは道路脇に用意されたパーキングエリアに車を停めた。
救急車やら消防車やらが俺達を追い越してビルの間に消える。
警察車両と警察のドロイドがその後を追っていく。
それにしても…。
もう終わってんじゃねーの?
このデブちゃんは料金チケットを取ってから財布に入れたぞ。
正義の味方ならいち早く現場に駆けつけなきゃいけないだろうがよ、マジでこいつやる気あるのかよ…。
「で?変身とかは?武器はどこにあるの?」
「ふひひッ!変身すると服がボロボロになっちゃう仕様にしてるから脱いでいったほうがいいにゃん。…というかその服もタダじゃないから脱いでいって」
なんちゅう仕様にしてんだよ。
確か変身時に服が脱げるヒーローって美少女で居たような気がするけどさぁ…だからって無理に真似せんでもいいのに。
「ヒーローって変身する時に服がボロボロになるけどあれはどうなるのかとずっと疑問だったんだよね。やっぱり現実ではちゃんと服脱いでから変身するんだなぁ。…って、もっと何とかなんないの??わざわざ服着替えるヒーローなんて情け無さ過ぎる」
「ま、まぁ、改善案件のひとつって事で…」
「じゃあ車の中で着替えるのか。何、ヒーロースーツとかあるの?」
「変身したらスーツを着てる状態にはなるにゃん。あ、それとボクチンの車の中じゃ変身しないで欲しいぉ。変身する時に周囲を異空間に引きずり込むから」
異ィ空ゥゥ間ンンン?!
頭大丈夫かこの人ォ?!
「…おい、大丈夫なのか?(君の頭は)」
「んぉ?」
「俺も異空間に引きずり込まれたりするんじゃないのか?」
「らぁーいじょうぶ、らぁーいじょうぶ」
「ほんとかよ…。それにしても面倒臭いな〜。えっと、トイレかどこかで変身すりゃいいのかな?」
「離れたところはボクチンと無線で通信出来るから!無線まってるぉ!」
「はいはい」
トイレトイレェ…っと、どこにもトイレはないし、そりゃ街中に突然トイレがあるわけないか。公園のトイレがいいかな?と思ったけれどそんなものもない。目に入ったのは喫茶店だ。ここのトイレをお借りしようかな?
俺はとりあえず適当にその喫茶店へと入った。