4 新生活応援フェア(リメイク) 1

翌日。
何曜日なのかも感覚がない。
あの事故が起きたのが昨日で今日はその次の日、で、その際に俺は男から女へと性別が変わってヒーローっぽいものに変身することも出来るようになってしまった。まだそれらの特別イベントは続行しているようにも思える。
しばらく普通の日々には戻れそうにない…。
用意された俺用の部屋のベッドで目覚めた。
パジャマとかはケイスケは用意していないので俺は下着だけで寝てた。春の涼しげな朝は少し肌寒いのでいつまでもベッドの中に篭っていたくなる。
しかし、そうこうしている場合でもないなぁ、と、俺は部屋の中を見渡してそう思った。あと、服とかも。まるで突然誰かの家に、財布や服や下着や、とにかく今まで身につけていた様々なものを捨ててやってきたかのような感覚だ。ちなみに捨てたものの中には『性別』まで含まれている。
1階に降りる。
「ケイスケェ…」
と、朝食を作っているケイスケの側に行く俺。
「おはよぉォォワァァァァァァ!!!」
叫ぶケイスケ。
「なんだよ朝っぱらからうるさいなぁ…」
「なんて破廉恥な格好で出てくるんですかォ?!それは抱きしめて欲しいという意味ですかにぃぃぃぃ?!(血走った目」
確かに今の俺の格好(ブラにパンツだけ)は男には刺激が強すぎる。しかも2次元から飛び出してきたかのような美少女がソレだからな。
「言いたいことはわかるけどォ…これしか下着がないんだよね?パジャマだってないし…普段着だって」
「そ、そうですにぃ…全然準備がたりませんでしたぉ。水着とかなら既に用意してあるんですが」…ってあるんかい!!なんで水着だけ買ってるんだよ!
「とりあえず、キミカちゃんがこの家で暮らしていくのに必要なものは一式揃えたほうがいいですにぃ」
「買い物行くの?よーっし!!買うぞォ!!」
「(ゴクリッ…)」
いうが早く、朝食を食べてからすぐに家を二人、出た。
あの車には乗らないのか?まぁ、都内で車で移動するのは大変だからなぁ、公共交通機関を使ったほうが時間も面倒くささもお得だ。
家を出るときに向かい側に住んでいる家族の1人、おっさんがケイスケと俺を怪訝な表情で見ていた。普段からあんまり仲良さそうなご近所様ではないようで、ケイスケは睨み返すと
「親戚の女の子ですにゃん!!」
と言った。
俺の手を掴んで言った。
巨漢のケイスケが身長140センチぐらいの華奢な女の子(しかも女子高生が着るような制服っぽいものを着てる)と二人で手を繋いで出てきてるんだから怪しい目で睨むのは無理もない。
「本当ですかァ?石見さぁ〜ん…また何かあれば警察に通報しますよォ?」
と睨みながら言う隣人様。
って、警察に通報されたんかい。
今まで一体何をしていたのやら…。
「ほ、本当に決まっていますォ!!人をレイプ魔を見るような目で見るもんじゃありませんにゃん!!キミカちゃんはちゃんと人語を話しますォ!」
って何だよそれは!
人語を話さない奴が家にいるのかよ!!
「前にもお宅の家の庭で女子高生みたいな姿をした女の子が犬がエサを食う時のあの器からクッチャクッチャと魚を食ってるのを見かけたんですがねぇ…」
俺は目をまん丸くしてからケイスケを見た。
ジト目じゃない、目をまん丸くしてだ。もう軽蔑とかする以前の目。
「き、キミカちゃんまでそんな目でボクチンを見るんですかォ?!」
「いやいやいや、女の子飼ってるとかそれ犯罪レベルだし」
「飼ってませんぉ!!あれは…」
「「あれはぁ?」」
俺と隣人は声をハモらせて言う。
「猫だにゃん」
ホントかよ。
俺も隣人もジト目でケイスケを睨んだ。
「どうせ酔っ払って猫が女子高生に見えたんだにゃん!!その程度の事で通報して大騒ぎになるしッ!!大体ご近所様がご近所様を許可無く警察に通報するとか、それこそ犯罪レベルですにゃん!!」
庭で女子高生が犬食いしてたら通報するだろ普通。
などと俺は思いつつ…ケイスケは無理やり俺の手をひっぱったのでバス停まで歩きはじめた。ケイスケはきっと考えているのだろう…これ以上ここにいれば必然的に不都合な事を隣人様から俺が聞いてしまうと。
それからバスに乗る。
バスの中は平日の朝だからか混んでいる。
そうか、平日なんだな今日は。
サラリーマンやら学生やらが乗り合う中で俺とケイスケは立ったままで乗車、そしてバスの揺れを我慢しながらも、到着を待つ。
すると、周囲の視線が俺に向けられているのに気づく。というのも、ガン見してるわけじゃなく、チラッチラッと視界の隅に置くかのように見ている。ある者は友達と話している最中にもチラッと俺を見るのだ。
そしてそれらが全員男だということに気付いた。
なんだァ?俺は今、ちゃんと服を着てるぞォ?
いや、これは違う。
俺は男だったからわかるぞ、これは…。
『可愛い女の子がいるって時にどうしてもそっちをチラチラ見てしまう』現象だ。俺が男だった時がそうだからわかるんだ。
しかも女までもが噂をしているではないか。
「あれ、どこの学校の制服かな?」
という声が聞こえたのだ。
すまん、多分これはどこの学校の制服でもない。強いて言うのならエロゲの中には存在する架空の学校の制服だ…。
「これはエロゲの中にだけ存在する女子校の制服だにぃ!ジロジロ見たり陰口言うみたいにコソコソ噂をするなですぉ!!」
…って、おいィィ!
おいおいおいおいおいおいおい!!!!
何いってんだよこのデブ!
しかもガシッと俺の身体を両腕で抱きしめてから言うし、まるで誰かに取られるのを防ぐがごとく。そして男たちのほうを見ながら、
「見たら罰金ですォ!!ボクチンのものですにぃぁぁぁん(ドヤ顔」
などと叫ぶし。
「ちょっ、変な噂が立つからやめなよ」
と俺は警告。
なにせこのバス、ご近所様もおそらく乗ってるだろうし。
「あれって石見家の長男のデブじゃない?」「やばい、近寄らんとこ」「うわぁ…なんであのデブの知り合いがあんなに美人なんだよ」「あの女の子は何?妹?彼女?どっちにしてもマジキチ…」
おいおいおいおいおいおいおい!!!!
もう噂あるんかい!!
俺はため息を付いた後に言った。
「えっとォ…乗客の方の中にお巡りさんはいらっしゃいますかァ?お巡りさぁ〜ん、コイツです」とケイスケの肉顎にぷにッと指を突き刺して言う。
「やめてくださいですぉぉぉぉぉぉぉぉ!!本当にお巡りさんが居たら逮捕されてしまうからやめてくださいですぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そうこう言ってるうちに目的地であるモール前に到着した。