3 初戦反省会会場(リメイク) 4

「まず、キメ台詞がないにゃん!!」
ケイスケ(デブ)はビシッと俺を指差してからそう叫んだ。
ホワイトボードには汚らしい字で『キメ台詞』と書いている。
「キメ台詞ゥ?!」
何がキメ台詞だよ、テレビの観過ぎだっつゥの!
「そう!キメ台詞!」
「だいたい、まだその『ヒーロー』成り立てで初回戦闘で台詞もクソもないよ、そんなの考えてる余裕なんてないっていうぅの!!」
「それじゃ今は時間がたっぷりありますにぃ?」
「ま、まぁ、そうだけど…」
そう言うが早く、ケイスケはテーブルに両肘をついて手で頭を支えて、ニンマリと笑いながら俺のほうを見ている。なんだか顔がすっごいムカつく…これはなんだ?考えて発表しなさいって事かァ?
まさにそういう空気を作り出してるなぁ…クッソォ…。
「わかったよ!やればいいんだろうが、やれば…」
ニコニコしながらケイスケはジーッと穴が開くほどに俺を見る。
「えっと…」
「『えっと…』じゃないですぉぉぉぉぉ!!!ヒーローはキメ台詞の後に『えっと』とか言わないですにぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「わぁーったよ、わぁーった!うっさいなぁ…」
少し前置いてから俺は深呼吸をして、
「ふるえるぞハートオォォォォ!燃え尽きるほどヒィートォォォォ!!おおおおおおおおおおっ、刻むぞケツ…」
「だめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁン…メッ!!(白目」
「なんでだよ!」
「汗臭いにぃ!」
「汗臭いのはテメェだろうがァ!!!」
「そういうのじゃなくて、台詞が汗臭いにゃん!!熱すぎるにぃ…マッチョな男とか石仮面とか吸血鬼とか波紋とかそういう萌え要素が全然ない展開が待っていそうな…。だいたい、そんな台詞は美少女は言わないし、今時の漫画やアニメじゃ男がそんな事を言うこと事態ないですぉ!!」
「だいたい萌え要素ってなんだよ、萌え要素いらないし!」
「いィるゥゥのォォォ!!この殺伐とした日本…不景気なご時世…街を歩く女どもは肉便器ばかり…信じようとしても色々なものに何度も裏切られる…そんな日本男児唯一神として崇め奉るのが2次元の世界にある美少女達!!そう…神…神だからこそテロリストという名の犯罪者達から日本を守れる…!!!!もしあの戦車と戦っていたのが汗臭そうなブサイクでリュックを担いでいるオタクだったとしたらキミカちゃんならどうするんですかォ?」
「とりあえず戦車とオタクの両方を始末するかな」
「でしょ?」
「…つまり、ルックスがヒーローには必要と言いたいんだね?」
「その通り!!!!」
「まぁ、言いたいことは解ったよ。でもそういう萌え萌え要素なキメ台詞を考えたところでその台詞をいい終わるまで敵は待ってはくれないし、それに俺だって気が動転してたら台詞言うの忘れちゃうかもしれないし。というか、美少女だったら台詞とかどうでもよくね?」
しばらく考えたあと、デブは
「…う、うん…」
と言った。
俺の意見に同意して、あーよかったよかった、今日は寝るか。って雰囲気になっていたケイスケはっとして起きたような顔になってから言った。
「あぁぁ!そうじゃない!そうじゃないですぉぉぉぉ!!!!」
ガシッと俺の小さな肩を、美少女の小さな肩をデブの大きな手で掴んでから目を血走らせてケイスケは叫んだ。そして、
「ふぅ〜。ふぅ〜…。今、危うく丸め込まれるところだったにゃん!ボクチンはそれが一番言いたかった事じゃないんですにぃ…」
「はいはい、なんですか」
そのままプニッと俺の唇をツンと触ってから、
「キミカちゃんのその話し方!それがダメなんですぉ!!!」
と言った。
いう間にもプニプニと唇を触りながらだ。
「な、なんだよ…」
「可愛くない!」
「俺は中身男なんだぞ!可愛く話せって言っても無理だろうがァ!」
「そう!!!そのとおりですにぃ!!キミカちゃんは残念ながら中身が男…ボクチンはそんなキミカちゃんの中から正義感や行動力を感じ取って、選んでヒーローにしようとしたんですぉ…けれども欠けている部分があることが今『ヒシッヒシッ』と伝わってきていますにぃ!!!」
「そ、そりゃぁ人間だから、欠けている部分もあるだろうけど…」
「『萌え要素』が欠けてますにぃ!!!」
「そんな要素は男の俺にはハナっからねぇよ!!」
「かといってキミカちゃんは中身は男、突然言葉遣いや一人称を変えるのは無理だと思いますし、仮にも無理して『作った』キャラでは味が出ないのも知っていますにぃ…(白目)で、ボクチンはキミカちゃんの身体に細工をしましたにゃん!」
「細工ぅ?」
「フヒヒ…そのとおり。ではスイッチオン!」
コイツがこんな笑い方をする時はロクなことが置きないんだよな。…って、テレビのリモコンみたいなのを俺に向けて構えて、そこのボタンを適当に押すケイスケ。なんだ?俺はテレビかァ?
「ふにぅ?なんだにゃん?おおおおおおおおおおおおお!!!!」
「フヒヒヒヒヒッ!!!」
「どうにゃってるんにゃんおおおおおおおお!!!」
「キミカちゃんの神経組織や脳もマイクロマシンで出来ていて、そこの言語プロセッサのBIOSをアップデートするとこんな感じに台詞を加工する事が可能とにゃるんですゥ」
「今すぐ元に戻すにゃん!語尾ににゃんとか付けるとかマジで頭がおかしいとしか思えないにゃんぉぉぉ!!」
「フヒヒヒヒヒッ!!!語尾に『にゃん』とか付けるなと言いつつも『にゃん』とつけているところがまた可愛いにゃん」
「てめぇブチころすにゃん♪ぐはぁぁぁッ!」
「そんなに可愛く殺すとか言われても…フヒヒヒヒヒッ!!!!」
「これでは実生活をおくる上で障害になるにゃん…」
「う…」
ケイスケは腕を組み考えていた。いろんなシチュを計算しているのだろうか。そして考えあぐねた結果、何やら結論を出したようだ。
「確かに…『にゃん』を語尾につけるというのを常にやられるのはちょっと、常にセクシーな格好で歩くような、可愛さの価値観を下げてしまうような感じににゃりますぉ…パンチラはたまに見るのがいいのであって…ブツブツ」
「戻せこのやろー!!あ、ちょっとだけ戻った?」
「ふっ…とりあえずにゃん語は辞めておきましたにぃ…でも男言葉はダメですにぃ!!キミカちゃんはこれから『女の子』として社会生活していかなければならない…そんな時にそんな汚い言葉を使えば目立ってしまうぉ。実生活を送る上で障害にならない程度…それぐらいが丁度いいにゃん」
「くそーッ!」
と叫んで、それから俺は「この程度で俺は男を諦めないぞォ!」と叫ぼうと思った。だが、俺の口から出たのは、
「この程度であたしは男を諦めないぞォ!」
えっ、ちょっ!!!
フラれても立ち直って向かっていく非モテ女みたいになってるし!!
「ティヒヒヒヒヒヒッ!」
手を叩いて笑うケイスケ。
俺は命と引換えに自由に会話する権利さえ奪われてしまったのかにゃんーっ!はっ?!…まさかね。心の中までは改変できんぞケイスケがぁぁぁ!!!