3 初戦反省会会場(リメイク) 3

デブが作る食事っていうのを想像するとどうしてもチャンコナベしか想像できない。それなりに美味しくて、やたらと量が多く、それでいて値段もそれほど高いわけでもない炭水化物と肉の塊…。
この前テレビでやってたけど普通パスタって鍋で作るときには1家族分作るから4人分のパスタを突っ込むんだけど、デブの場合は一人暮らしなのに買ったパスタに4人前って書いてあっても無視して鍋に突っ込んで、とりあえずは「あぁ、間違った、4人前入れちゃった」とか言いながらも、出来上がったら4人前全部食べたとかそういう逸話があるぐらいに十分な許容量を胃が持っているのだ。
なんとなく沢山の量が出てくるのを想像しながらも1階へと降りる。
用意されていたのはイタリアンだった。
俺がイメージしていた4人前パスタとは違う。ガーリックトーストにバターにワインにミートソース・スパゲッティ、鶏肉をトマトと一緒に煮込んでバジルを上からパラパラ撒いたような物などなど…俺が今も親と一緒に暮らしていると仮定してこれを出されたら今日は誰の誕生日だったのかと騒ぎ出すぐらいの豪華さだ。
「今日は誰の誕生日なの?!」
思わず聞いてしまった。
「普段の料理ですぉ…」
「まぁッジ…デェッ?!」
目ン玉が飛び出るかと思った。
凄まじすぎる、なんて料理スキル高いんだこのデブ。
驚きながら俺はテーブルに座るとさっそくワイングラスにワインを注ぐ。
赤ワインか…肉料理に合うとは言われてるけれども日本人は好みが別れるところ。白に比べると酸味が強いのだ…だから肉料理に合うのだけれど。
「キミカちゃんはお酒も飲める口なんですかぉ?」
「モチのロンッ!ツモッ!九蓮宝燈!」
「ほほぅ…」
普通はコース料理で1品ずつ出てくるのだけれど、テーブルにはとりあえず並べてみたっていうぐらいに前菜からメインディッシュまで揃っている。
肉料理から手を付ける。
「ん!!美味しい!」
「(ドヤ顔)」
そして口に含んだ料理の味が消えないうちに赤ワインで流す。
意外となかなかいい趣味をしてるじゃないですかぁ、この味。
すばらしい…こんな料理が毎日食べれるのならこの家にいるのも悪くないな…。って思ってたとき、思い出したようにケイスケの言葉が頭を過る。
俺のこの身体の事を『ロボット』と定義していたからだ。
「あのさ、この身体で料理食べたりお酒飲んだりしてもいいの?」
と思ったことをそのまま口に出してみた。
「ブホッ!!」
な、なんだよ。
いきなり驚かないでくれよ、俺、食べたら死んじゃうのかよ?
「それは大丈夫ですにぃ…」
大丈夫ならなぜ咳き込むんだよ…ったく。
「それはよかった。…で、いつかは人間と同じように出てくるんだよね、いわゆる『ウンチ』みたいなモノになって…そういえばこの身体になってから、まだ一回もオシッコとかウンチ行ってなかったなぁ…」
「ブホッ!!ゴェエォホッ!!」
「なんだよさっきから…死ぬの?」
ケイスケは口の中でミックスされていたガーリックトーストと野菜サラダをテーブルに飛ばした。慌ててフキンでそれを拭き取りながら、
「な、なんてことを言うんですかぉ…」
などと言う。
「え、だって普通に考えたらそうじゃん」
「普通に考えなくてもいいですにゃん!!(睨」
「いやいやいや普通に考えようよ!どっかで出さないと、物理法則乱れるじゃん?お腹にどんどんクソ溜め込んで死んじゃった女の人とかもいるんだし?屁だって我慢してたら口から出るわけじゃなくて死ぬっていうじゃん?」
「だから!キミカちゃんの身体は今、どうなってるんですかぉ!!それを把握しないままにその質問をするのがおかしいですにぃ!」
「はァ?!…いや、だからロボットみたいなもの…」
「違いますにぃ…キミカちゃんの身体は『美少女』になっていますにゃん」
「ま、まぁ、見た目はそうだけどね」
中身は男だけど。
「美少女はウンチをしません」
「いやいやいやいや!!!それ幻想だから!!美少女でもウンチもシッコもするし!!それ、アイドルオタクがアイドルに向けて放った妄想だから!!」
「ウンチもしないし、シッコもしません(白目」
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!!早く妄想の世界から飛び出そうよ!何白目剥いてるんだよ!!!」
「キミカちゃんのその身体を作るときにそういう風に設計したにゃん」
「…ンだァとゥてぇんンめェェェェ!!!!」
と俺は立ち上がってケイスケに飛びかかって奴の首を締める。ケイスケにとっては美少女が飛びかかってきてその柔らかい太ももをお腹に乗せて首を締めてくるのだからある意味幸せなのだろう、幸せそうに涎を垂らして白目を剥いている。
このまま殺したほうが世の為人の為になりそうだ。
死因は喉に大量の夕食を詰まらせて窒息死とかにするか。
「ギブギブ!!」
と、耐え切れなくなったのか俺の太ももを手のひらで叩くケイスケ。
相手がデブで首が存在しなかろうと一番肉の薄い場所に手を添える事で、今回はちゃんとシメることが出来た。そして目が真っ白になって苦しんでいるケイスケ(デブ)の姿がそこにあった。
「どういう肛門の構造してたら食べたものが身体から排出されずに平気でいられるんだよォァコォォラァァァァ!!」
「身体の中で消滅させてるにゃん」
「消滅ゥ?!」
「詳しいことはキミカちゃんのスッカラカンの頭では考えることができない難しい理論の話になりますからァ、今はそういうもんなんだと理解しておくにぃ」
「馬鹿な人は簡単な事でも難しく話して、頭がいい人は難しい事でも簡単に要約して話してくれるものなんだ、って学校の先生が言ってた」
「本当に頭がいい人は頭が悪い人の為に人生の貴重な時間を割かないにゃん」
「ンだとゥ?!」
まぁいい…俺が馬鹿なのは既に気づいているようだ…だとしたら無理に賢く振る舞うとどっかでボロが出てプギャーされることになる…。そういう愚かな人間とは違うので俺は正直に馬鹿は馬鹿らしくそういうもんなんだと理解した…。
「とにかくゥ!」
とケイスケはちょっと怒って、俺の胸を指でムニュッと突いてから、
「今から開始しますゥ…(白目」
などと白目を剥いて言う。
「な、なにを?」
ケイスケはテーブルの上にあったテレビのリモコンみたいなものを指で押した。っていうかそれ、リモコンじゃないのかよ?!
突然、天井からホログラム発生装置が出てきて、何故かホワイトボードもそれと一緒に出てきた。
そこにはミミズが掘ったような字で『初戦反省会』と書かれてあるのだ。
「はぁんせぇぃかぁぃ?!」
「ですぉ!!」
「よぉぉ…し…とりあえずウンチとシッコを出す機能をつけていなかった点について反省しようじゃないかァ…(拳をコキコキ鳴らしながら)」
ケイスケは俺の頭をグワシィと大きな両手で掴むと、そのまま身体ごと持ち上げ、回転させ、ホログラム発生装置に吊るしてあるホワイトボードに向け、そこに書かれてあるミミズ文字を見せた。そして、
「『初戦』の反省会ですぉ!!っていうか、美少女にウンチとシッコの機能を乗せてないのはミスじゃなくて『仕様』ですにぃ…」
「ヌゥゥ…」