1 ドロイドバスター・キミカ誕生(リメイク) 4

流石にずっと素っ裸のままでいるのはおかしい。
「何か服とかはないの?」
俺がデブ男に問う。
「もちろん用意してますにゃん!!とびっきりに可愛いやつを!」
せこせこと大急ぎでどこかに言ったデブ男は下着とスカートとブラウスとブレザーを持ってきた。まるでどこかの女子高生が着ているかの様な…なんでこの男がこういうものをひょいひょい出せるのか…。
下着はちょっとピンクっぽいブラとパンツの上下。これもきっと何かのアニメの服なのだろう。学生服のようにも見える服だ。赤のスカートに赤のネクタイ、白のブラウス、紺色のブレザー。
ヌゥゥ…。
これ、どうやってブラを装着するんだ?
俺はブラを手にとっておっぱいに押しあてるだけが精一杯でこれからどうやって他の女の子が装着しているようにすればいいのか、わからなくてオロオロしている。そしてデブ男はそんな俺の姿を机の上で肘をつけてその上に顔を置いて見守っていた。っていうかまさにそれは、楽しんでいた。
「ンだよォ?!」
俺はキレる。
「手伝ってあげましょうかにぃ…ティヒヒ」
怪しげな目をしているデブ。
「変な事したら殺すぞ…」
俺が警告する。
「ボクチンは男の子なのでネットで手に入れた知識だけで装着してあげますにぃ、だからちょっと遅かったりマゴマゴしてても文句は言わないで欲しいにゃん」
「いいからはよぅ!!はよぅせい!」
デブ男はブラを手に持つと俺の背後に回って俺のおっぱいを揉んだ。
「おい!!」
全然ブラ関係ないやん!!
全然つけようとしてないやん!!
「冗談ですぉ…フヒヒ…」
「クッソォ…」
再びブラを手にとってデブ男は背後からブラを俺の胸にかぶせる。そして肩紐を手で整える。整える。整えまくる。そんなに位置が気になるのかァ?ちょっ、めっちゃくすぐったいんだけど、止めろ…止めろッォォ!!
肩をピクピクさせる俺。
「フヒヒヒ…女の子の温かい肌を手で、フヒヒ…」
コン…ン…ノ野郎ゥ…。
ようやくブラの背中側の留め金部分、ホックの部分をデブ男の太い指が触り始める。デブ男は、「こうやってホックと留め金の部分が小さく布に埋め込まれてるから、そこに向かってこうやって、くっつけて…」と言う。
なんら音もなく不思議とブラがくっついた。パチンとかそんな音がすると思ってたけど、意外とちょっした小さなフックでくっついてるっぽい。
「パンツの履き方はぁ…」
「それは知ってるよ!!」
ったく、パンツを履かせようとしてたな。
俺は無言でパンツを装着。スカートを履いてブラウスを着た。やっぱ思ってたとおり女の子のスカートっていうのはスースーするなぁ…。まぁ、ズボンだと股間が蒸れるからなぁ、スカート履く文化っていうのもわからないでもない。
「あああああぁ、可愛いなぁあぁぁ!写真撮らせて!写真撮らせておぉぉ!!そこでストップ!ストォォォープ!!」
ンだよォ?!
俺はブラウスのボタンを止めるところで手を止めた。
「いい!いいね!いいですにぃぃ!!その女の子が着替えてる途中で手を停めて、おっぱいの谷間とかブラとかがチラチラ見えてるところがまた…はぁはぁ…いいですぉ…もうちょっと手をこうやってさげてぇ、おへそがチラチラ見えるぐらいにして…フヒヒヒ…」
と言っている変態デブ野郎をジト目で睨む俺。
「ジト目も可愛いですぉぉぉぉ!!!」
どういうリアクションしたらコイツが嫌がるのか考えたくなるぐらいに、俺が何をしても大喜びしてカメラのシャッターをカシャカシャと押しまくる。俺はそんなデブを足でグイグイと押しまくった。
「ちょっ、これを履いて、これを履いて踏んで欲しいにゃん」
「はぁぁぁぁああぁぁぁいぃぃいい?!」
ニーソックスかよ…。
ニーソを履いて寝転がってカメラを構えたデブ男を踏む俺。
っていうか、何をやってんだよ俺は!!!こんな変態と変なプレイをする為に女の子の姿になってるわけじゃないんだぞォ!!!
「これからどうすんだよ。悪と闘うって結局なんなのさ?」
そうデブ男に問う。
「ん…んん〜…」
デブはそこらへんを歩きまわって何かを探しているようだ。分厚い本の下のほうに眠っていた黒い何か。リモコンだ。それを引っこ抜いてテレビを付けた。テレビはニュースの途中だった。何か、事故みたいなのが映っている。
「凄い事故だなぁ…」
テレビには高速道路で数台の車が玉突きをしていて、先頭のほうは真っ黒に焦げた車が数台並んでいる。真っ黒に焦げた車…。
「この自動車事故で15名の人間が死んだぉ…。警察も軍もまだ事故としてしか発表していないけど、これはテロなんですぉ。そして…」
俺はデブ男が俺のほうを見つめたので思わず目を逸らしてしまった。
テレビからも目を逸らしてしまった。
俺はこの車に見覚えがある。
俺の乗ってた車…。
俺が家族と一緒に乗っていた車…。
「君は死亡した15人のうちの一人ですにぃ」
俺はつばを飲み込んでいた。
「…俺の家族は…?」
テレビ局のヘリは事故の先頭のほうの車両を映していた。
そして、デブ男は2番目のワゴンを指さした。
黒焦げになっているけど間違いなく俺の家族の車だ。
ナンバーがそうなってる。
家族と一緒に過ごした思い出の車が無残にも真っ黒焦げになってる。それはまるで俺の思い出までも一緒に全部黒焦げにしていったかのようにも思えた。
「この車に君と君の家族が乗っていましたにぃ…。この黒焦げになっている車2台の生存者はいないにゃん…君を除いて…」
…。
「へっ…なんだよ、それ」
俺は思わず笑っていた。
強がりっていうよりか、あまりにも突拍子も無い事なんで頭が受け入れてくれないような感じになっていた。でも、それは全部現実だったんだ。
俺の身体はどこにもないし、今、全然病院とか関係ない場所にいるし、なにより俺の身体は女の子になっている。
そしてテレビには家族が死んだ事を知らせるニュースが流れている。
テロップには死亡した人間の名前が並んでいた。
その中に俺の名前もあった。
紛れもなく全てが現実だった。
あまりに色々な事が起きすぎて俺の頭はそれに追いついてないけれど、それも含めて全部、現実だった。
「葛城公佳(かつらぎきみか)…これが君の名前ですかぉ?」
俺は無言で頷いた。
「テロってなんだよ?なんでテロって分かる?ニュースじゃ事故って言ってるじゃないか…」
「この道路の横にある黒いシミみたいなのは一見すると爆発した際に火が飛び散ったように見えるかも知れないけど、兵器のプロから言わせればこれは『レーザー砲』のカーボン痕ですにぃ…。これだけの高出力レーザーを打てるのはそれなりの装備、というか、電力が必要で、それを撃てるのは今のところドロイドのみですにゃん。そして普通の犯罪者はそれだけの装備を準備出来ないぉ…」
「だからテロリストの犯行だって事…か…」
俺が住んでるところはついぞ最近4番目の首都に選ばれた。そしてどんどん街が発展していってる。だからテロリストにも目をつけられて狙われてるらしい。人の意識が集中する場所に攻撃を仕掛けるのはテロの常套手段なんだ。
例えば象徴だとかそういうものはまっさきに攻撃の対象になる。
「テロリストは君の家族だけじゃなく、これからも誰かの家族を、恋人を、友達を…殺していくと思いますぉ…。これでボクチンが『戦う』って言ってた意味がわかって貰えたと信じてますにぃ…」
「…わかった。わかったよ。協力するよ。それと、ひとつ教えて…。なんで俺を選んだの?他にも犠牲者が居たでしょ?」
「…ふひッ。それは君が一番『生』への執着が強かったからですにゃん」
俺はしばらくデブのほうを見ていた。そしてはっとして…。
「犠牲者全員を見て回ったの?」
「即死の人以外は見て回りましたにぃ…君の目は潰れていたけど『怒り』のようなものを感じましたにゃん。燃え上がる車内の中で何かを見たんじゃないですかぉ?それが生きる力になってると思いますぉ」
「思い出せない。思い出さないんじゃなくて思い出せない…」
「にゃるほど…そうだ、自己紹介がまだだったですにぃ。ボクチンは石見佳祐(いわみけいすけ)。とりあえず今は名前だけ。フヒヒヒ…」
俺はその石見の大きな手を握って握手した。
悪と闘うか…。
でも俺にとっては悪と闘うっていうのは、このデブ男…いや、石見圭佑ことケイスケが言っているような『正義』っていう綺麗な言葉には収まりそうにない。
ふつふつと復讐心が沸き上がってきた。
いまこうしている間にも俺の両親を殺した奴は生きている。
ひょっとしたら祝杯でもあげているかも知れない。
そう考えると、すぐにでもその野郎をひっ捕まえて同じ様な苦痛に会わせてやってあの世に送ってやろうとしか思えなくなったんだ。