4 新生活応援フェア(リメイク) 5

モールを出てからその側にあるバス停に行くところ。
突然の警報が鳴り響いた。
モールと道路を挟んで向かい側にある店…宝石店のように見える…そこから火事が起きた時のあの警報が鳴っているのだ。そして数名の覆面姿の男達がバッグを抱えて逃げている。
「ご、強盗じゃん!」
それを指差して俺は言う。
ったく、治安が悪くなってるなぁ…首都認定されるまではこんな事はあんまり起きなかったのに。このままどんどん治安が悪くなってちょっと気が向いたら店の中に手榴弾が投げ込まれるような修羅の国(ふくおか)みたいになってしまうのか…。
「ったく、警察は何やってんだよ」
武装した強盗団を前にして店の人間は怯えているだけで追いかける素振りはみせないし、周囲の通りすがりの人達も強盗団を避けて通る。関われば撃たれて死ぬ可能性だってあるから当然だ。
そんな様子はまさに無法地帯そのものだった。
「まったくですぉ。警報が鳴り出してから1分経過したのに。警備用のドロイドも壊されているみたいですにぃ」
そう言って俺とケイスケは二人、バス停で荷物を持ってやれ「国の政策が」云々、「警察の暴力装置としての役割が」云々語り合っていた。と、その時だった。ケイスケはジッと俺を見つめたのだ。
俺はてっきり背後に誰か知り合いでも居るのかと思って振り返ってみるが、やはりそこには誰も居なく、俺の事を見ていると思える。で、俺は「ちょっ、何シリアスな顔してんの…」とデブ(ケイスケ)の顔をどかせようとした。
「あーッ!」
とケイスケが叫ぶ。
「な、なんだよ…」
「今、華麗にスルーするところだったにぃ!!そうじゃないですぉ!!キミカちゃんが泥棒を捕まえればいいんですにゃん!」
「いやいや、銃持ってるし危険じゃんか」
「何を言ってるんですかォォ!!(俺の両肩を巨大な手で鷲掴みにしてガタガタブルブル震わせながら)アメコミのヒーローなら悪人を前にしたら速攻で変身して片付けるのが常識ですにぃぃぃ!!!」
「いやいやいや、あたしはアメコミのヒーローじゃありませんし」
「ヒーローじゃないですかぉぉ!!!」
「あ、そうだったァァァ!!!」
俺は今の今まですっかりさっぱり綺麗に忘れてしまっていた。
そうだよ、俺には変身能力があるんじゃんか!
そんな二人の様子はバス待ちの周囲の人間には不審者としてしか映らなかった。俺達は咳き込みをしてからバス待ちの列から離れる。
そして俺はケイスケに言う。
「変身って、あの変な台詞をまた言わなきゃいけないわけぇ?」
「大丈夫、今回からは変身したいと願ったら変身できるようにプログラム書き換えたにゃん!」
「プログラムゥゥ?!あたしの頭の中はプログラムで出来てるのォォ?!」
「いや、そうじゃなくてェ…キミカちゃんが能力を制御できるユニットのプログラムのことですにゃん。ま、ボクチンの脳味噌にもある『電脳化ユニット』というアレの事ですけどにぃ」
「なるほど」
電脳化ならちょっとお金持ちな人ならやってるからな、まぁいっか。
「んじゃ、さっそくゥ!」
と俺が変身を願おうとしたその瞬間。
「待つですにぃ!!」
「ン…だよォ?!」
「人が見ている前で変身とかヒーローとしてあるまじき行為ですにゃん!ヒーローは正体がバレないようにするのが常。変身は人が見てないところで華麗にやってしまうのがいいにゃん、ほら、あの回転扉みたいなので」
回転扉で変身ンン?!
スーパーマンかよ。
ケイスケが指差す先にはモールの入り口の回転扉がある。
そしてそれは格好をつける為にそこにあるのだが、非常に狭くて使いづらいのでよほどガキか物珍しい田舎モンでもない限りは、自動ドアのほうを利用している…その、あまり使われていない回転扉をケイスケは指さしていたのだ。
「ったく、トイレで変身すればいいじゃん」
「そんな時間はないですにぃ!それにキミカちゃんがまた間違って男子トイレに入ったら面倒な事になるぉ…」
「っさぃなぁ!!」
ケータイのカメラを構えて動画の撮影をしている様子のケイスケ…。それはその前をイライラしながら通り、仕方なしにモール前の回転扉に近づく。
「違う!違いますにぃ!店内からァ!!店内から変身しながらでてくるのォ!」
いや、でっかい声で変身しながら出てくるのォ!とか叫ぶなよ!
ヒーローは正体隠すんじゃなかったのかよ!!!
俺はため息をついた後、『自動ドア』のほうから一旦は店内に入る。
そして「あぁ、ここ、モールかァ…入る店間違ったァ…」的な田舎モンで痴呆な高校生よろしくふらふらと店内を見渡した後、回転扉に入る。
回転扉を回しながら…えっと、なんだっけ、念じるんだっけ。
…。
…変身ッ!
その時、
俺の周囲に黒い煙のようなものが発生して俺の身体を端から包み込んだのだ。
最初の変身の時とは違う。
その黒い煙を切り分けながら身体を前に進めると、今まで着ていた服が戦闘服へと変わっていく…すげぇ…いったいどういう技術なんだ?!
回転扉をくぐり抜ける黒い雲…そしてその中から出てくる黒髪の青い目をした美少女…それが俺だった。
「ウッヒョオオオオオオォォォ!!!」
ケイスケが歓喜の声をあげてケータイで撮影しながら俺を見ている。
モールに入る客、出る客、みんなびっくりして腰を抜かしていた。
俺はそのまま、周囲にあの特殊な力を働かせた。黒い波動が弧を描いて周囲に広がって、地面の砂埃を一瞬だけ宙に浮かせ、モールの正面ウィンドウに振動が広がっていく。俺の黒髪もそれにあわせて一瞬、ふわっと天に向けて広がる。
地を蹴った。
衝撃波のようなものが地面に走り、タイルにヒビが入り、ショーウィンドウも割れ、回転扉なんてものは木っ端微塵になった。
と、同時に、俺の身体は空高くへ飛び上がった。