4 新生活応援フェア(リメイク) 4

モールのご休憩エリアのような場所でソファにぐったりと寝転がっているデブ(ケイスケ)を横に俺はスムージーヨーグルト・マロンマロンを飲んでいた。
よくよく考えてみると俺は男だった頃は喫茶店なんてのは恥ずかしくて滅多に入ることすらできなかった。
それは言うならば周囲の空気に俺が溶け込めない、と勝手に決めつけていたのだ。テレビドラマの中では喫茶店で暇を潰している連中は女性だからかな。
今はこうやってすんなりと喫茶店…と言っても休憩エリアの脇に設けられてるドトォールなのだけれど…に入る事ができるようになってるじゃないか。
女の子の姿で。
でも向かい側の反射鏡で見る限り、俺は本当に周囲に溶け込んでいる。まるでドラマの1シーンのように、いや、それ以上だ。この美少女(俺)は街で出会えば一瞬ドキッとして何度も何度も見てしまい、そして不安になり、「これってもしかして…恋?」と思ってしまうほどの魔力を持っている。
案の定、男達は「誰だあの可愛い子は」という目でチラッチラッと見ている。
1人でいる男がそうやって見ているのはまぁいいとして、グループでモールに来ている奴等がエヘラエヘラ笑いながら「あの女の子マジ可愛くねェ?」とか聞こえそうな風に談笑しているのを見るとクッソムカつくな。
俺はしかめっ面で睨んでさし上げた。
そして再び鏡に映る自分を見る。
変身後も黒のショートヘアーと青い目が可愛いが、変身前のこのクリーム色のショートヘアーもまた可愛いなぁ、このキャラだとエロゲだと正ヒロインか順ヒロインだろうな。で、正ヒロインよりも人気が出ちゃうタイプだ。
通り過ぎる女性達の顔も見てしまう。
比較だ。
通り過ぎる普通の顔の女性達を見てから、俺の顔を見てみる…と、あら不思議、なんだか余計に俺が可愛く見える。これがコーヒーとケーキ効果って奴か!!つまり、通り過ぎる女性がコーヒーで、それがあるからこそケーキ(美少女)がより一層甘く(可愛く)見えるっていう。
うわッ…。
かなりドギツイ…クリームも砂糖も抜きのコーヒーが通りかかった。
もうこうなると美女と野獣だな、美女と女じゃなくて。あれは風俗でドアを開けて出てきたらトラウマになってしまうタイプのコーヒーだ。
などと考えているとケイスケが意識を取り戻したようだ。
さっそく何を始めるかと思えばケイスケはカードの情報を見ている。巨大なリュックサックの中から厚さが2センチはあるかというぶっとい、そして巨大な15インチはあるかというノートパソコンを持ち出すと、電源を投入し、カードを差し込んで残額を確認している。
それから髪の毛をかきむしり、
「にぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」
と叫んだ。
「いいじゃんか、減るもんじゃないし」
と俺がフォローすると、
「減るもんですゥゥゥ!!!お金は減るもんですゥゥゥゥゥゥ!!!」
と白目を剥いて反論してくる。
それに対して俺はこう返した。
「銀行強盗がいたら正義の味方としてソイツ等を地獄へと葬り去って、そいつらの金をちょろまかせばあっというまにお金持ちになれるじゃん?」
「そんなのは正義の味方じゃないですゥゥゥゥ!!」
ま、そうだけど。
「んじゃ、そろそろ帰る?」
と、俺は提案する。
「これ以上ここに居たらまた何か買わされそうだから帰るにゃん!」
「人聞きが悪いなぁ…あたしはデジモノに目がないから買っただけでモールでデジモノはあの売り場にしか無いよ」
などと言う。
そしてケイスケと俺は入り口に向かって歩きはじめた。
1Fのキャンペーンスペースを横切った時だ。
最初はなんのキャンペーンをしているのか全然気にもならなかったのだが、何やらご当地萌えキャラグッズのキャンペーンをしているようなのだ。それになぜ気付いたかというと、あの耳障りな2次元ボイスで奏でるアニソンが流れていたからだ。案の定、ケイスケは足を止めてからグッズ売り場へと引き寄せられていく。
「ご当地萌えキャラとかどこでも見れるんだからいいじゃんかぁ、帰ろうよ」
と俺はケイスケの袖を引っ張る。
「たまにここでしか手に入らないグッズが手に入るんですぉ!!」
と目を血走らせるケイスケ。
「アホくさぁ…」
確か周(まわり)南(みなみ)とかいう名前だったっけな。ここが首都になるずーっと前からまちおこしと称して頻繁にアキバ化をしていたんだけど、最近はそんな事しなくても人が来るようになって影が薄くなったな。
その時だ。
「にぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!これは…これはぁ!」
とケイスケの叫ぶ声がする。
無関係を装うとしてその場を立ち去ろうとする俺の毛糸のモフモフセーターを思いきし掴んで引き寄せるケイスケ。
「ン…だよォ?!」
「これをキミカちゃんにプレゼントしたいにゃん」
まわりみなみのコスプレ衣装じゃねーか!
「嫌に決まってんじゃんかよ!」
「まま、そんなこと言わず」
「自分が着ればいいじゃん!」
「サイズが合わないにゃん」
「サイズがあったら着るのかよォ?!」
「ったく、しょうがないですにぃ、キミカちゃんは…今日のところはこれで勘弁してやるですにぃ」って何だよそれは、どんだけ上から目線なんだよ!
と、ケイスケが俺に差し出したるわ花をモチーフにした髪飾りだった。髪留めとも呼ぶか、前髪がウザい人が引っ掛けるのにも利用してるっていう、アレ。
それを俺の髪にくっつけて、
「にぁぅにぃ」
などと言ってるケイスケ。
鏡の前で確認してみる。
確かに似合う。
こう、何もないとインパクトに掛けるけれども、髪留めみたいなのがあるとちょっとキャラを立たせる事が出来るな。同じ髪型のが隣に並んだとしても俺だとわかる、みたいな、そういうインパクト。
俺はケイスケのご好意に甘えて髪留めをプレゼントして貰った。
500円だった。
…まぁ、値段じゃないし、可愛いからよしとするか。