4 新生活応援フェア(リメイク) 3

それから服を購入した。
と、言っても選んだのはケイスケだ。
服のセンスには定評があるケイスケ、俺が選んだとしてもジャージの上下ぐらいしか選ばないし、実際にジャージの上下でえぇやんって言った際には、ケイスケの巨大な手で、140センチの身長しか無い小柄な女の子の俺の身体を掴み上げられ、上下左右に揺らされながら、「そんなのありえないですォォォ!」と叫ばれたので俺はとりあえずすべてケイスケに任せることにした。
そのうちの1つを試着室で着させてもらった。
相変わらずニーソックスとスカートは装着したが、上は白いふわふわのセーターにもふもふ帽子だ。鏡を見ると可愛らしい女の子が可愛らしい服を着て立っている。これだけのものは普通の女子が着ても似合わない。似合わないから誰も着ない。誰も着ないので着てる人は異様に目立つ…。
そんな目立つ服を着てる小柄な女の子と2メートルはあるかもしれない巨大なデブがモールの専門店街廊下を歩いている。誰もがチラ見してしまう。
「フヒヒ…女の子とデートしてるみたいだにぃ…」
と幸せそうに涎を垂らすケイスケ。
「涎が垂れてるよ?」
「舐めとって欲しいにゃん」
「フンヌッ!」
軽くケイスケの腹にパンチを食らわす。
と、そんな光景さえもカップルがふざけあっているように見えてしまう。
さて、そろそろ帰るかぁ、という時だった。
俺目の前には電化製品の専門店街が広がっていたのだ。
そして、Mapple製品であるMap ProやMap Book Airが店頭展示されているではないか…クソッ…俺が高校1年の頃は欲しくて欲しくてしょうがなかったものの1つだ。喉から手が出るぐらいに欲しいのでいつの間にか呆然と立ち尽くしていた。Mapple製品の前に。
「さて、キミカちゃん、そろそろ家に帰りm…ニィィィィィ?!」
ケイスケが叫び声をあげてから俺の側までダッシュして、俺の目を巨大な手で塞いだのに2秒と掛からなかった。
「な、何するんだよォ…」
「見ちゃダメですにィ!!!」
「別にいいじゃん、見ても」
「ダァァァーンンメッ!!!今、絶対買おうと思ってたァ!!!今までの流れなら絶対に買ってるコースですにぃ!!しかもクッソ高いMapple製品なんて、ぜぇぇぇーったいダメですぉ!!」
コイツ…Mapple製品が高い事を知っているな!!
クソッ!知らなければ値段を見せずにカードで購入させようと思ってたのに。
ケイスケに目隠しされてる状態でも俺の嗅覚は確実にMapple製品を判別していた。そう、それだけ俺はMapple製品には詳しいのだ。
「くんくん…これは、MBAの匂い…」
「な、なんでわかるんですかォォ!!!」
「クックック…あたしにかかれば匂いだけでMapple社製品を見分けることも可能ゥゥ…それだけ詳しい、いや、愛している、という事…」
「では、これは…」
目隠しされたままだが、ケイスケは何やら俺の側にMapple製品のうちの1つを持ってきたようだ。だがしかし、それはパッケージに入っているので中身が何なのかは匂いではわからない。
が…。
「(ぺろり)…これは、aiPod nano…」
「なな、なななな、なんでわかるんですかォォォォォォァァァァァァァア!」
「フヒヒ…」
それからケイスケは一旦は俺を離れて何かを持ってきて(背後に隠してから)そして再び俺の目を手で覆って見えない状態にする。
で、その何かを俺の顔の前に持ってきた…みたいだ。
ん〜…。
これはなんなんだろう?
匂いからすると、こんな匂いのMapple製品は存在してないような…引っ掛け問題か?Mapple製品以外のものを持ってきても俺は判別できないぞ?
とりあえず舐めてみるか。
「(ぺろり)」
ん?
ザラッとした感触やら生暖かい皮膚のような感触がするぞ。
「(ぺろぺろ)」
ん〜…やっぱり皮膚のような…。
「(ぺろぺろぺ…しながら薄目を開ける)」
ってケイスケが俺にほっぺたを向けているゥゥ!!!
俺はすぐさま顔を引き離す。
俺の唇からは涎がケイスケのほっぺたに糸を引いている。
「な、なにするんじゃこらぁぁぁぁぁ!!!」
俺はケイスケのほっぺたにパンチを食らわせた。
べちょぉ…と俺の涎が拳につく。
「フヒヒヒ…引っ掛かったー引っ掛かったァァ(白目」
「許さん…許さんぞォ!!!」
俺はそう吠えるが、ケイスケは猿が人間をからかうみたいに掌を広げてそれをほっぺたからチラチラとグーパーしながら(マジキチだ…)
「Mapple製品なんて金持ちのイケメンどもがスターバックスカフェでドヤリングする為だけに存在しているようなクソ製品ですぉ!!」
などとホザく。
「あたしの悪口は言ってもいい…でもMapple製品を侮辱するのは許さない!」
そして俺は「ウキィィ!」と顔を真赤にして飛びかかったと思う。
もう猿が人間を襲撃する時みたいに、小柄な女の子が巨大なデブに飛びかかって後ろからチョークスリーパーをキメている光景がそこに広がっている。
それから1分程度の格闘の後、
(ずぅぅぅぅん…)
巨体は床に沈んだ。
「あの、お客様…他のお客様の御迷惑になりますので、」
と店員が俺に注意をしてくる。
俺はすかさず、
「これください!」
とMap ProとMap Book Airを指差した。そして、その手にはケイスケの財布から奪い取ったキャッシュ・カードが握られていた。