145 誕生日プレゼント : 宇宙船 5

「おりゃー!」
キサラの叫び声の後、再び球場には地面から「ズズッ…ズズッ…」と音を立てながらキミカ部屋(異空間)へと吸い込む予定の宇宙船が起き上がってくる。
素晴らしい…スターウォーズに登場したんじゃねーの?っていう感じに流線型のデザインの宇宙船だ。きっとマスター・ヨーダが沼から持ち上げた宇宙船もこれだよ!よし!俺もマスター・ヨーダよろしくフォースでこの宇宙船を持ち上げてみようじゃないか!!
土の中に半分埋まっている宇宙船を俺はグラビティコントロールで持ち上げてみる。さらさらとしたグラウンドの土やら砂が落ちて、その中からキラキラと黒く輝くフォルムが現れる。
「ふぅ…完成したわ…」
額から汗を拭いキサラが言う。
俺は目を瞑り、全神経をグラビティコントロールに集中させる。
そして言う。
「考えるのではなく、感じるのだ」
「そ、そう…」
と、いうやり取りの間にも俺は土に半分埋もれた宇宙船を持ち上げていった。
「すげぇ…」
ソラの声だ。
「す、凄いですにぃ…」
なぜかケイスケも関心している。
「グラビティコントロールを扱うドロイドバスターは幾人か出会ったことはあるけれど、ここまで重たくて大きなものを持ちあげれる奴には出会ったことはないわ…やっぱアンタ凄いわね」
「『やっぱ』ってなんだよ『やっぱ』って!あたしは凄いんだよ!『やっぱり』じゃなくて絶対的に!必然的に!不可抗力的に!」
「はいはい…で、これだけ大きなものでも、キミカ部屋に吸い込めるの?」
「キミカ部屋はコスモ(小宇宙)なんだから余裕」
と俺が言った時だった。
「それがキミカちゃんに言っておかなければならないことがァ…」
などとケイスケがほざくのだ。ここまできて!
「ん…だよォ!!!」
「キミカちゃんの創りだした異次元空間とこの宇宙空間とで、物質転送出来る制限があるんですにぃ…」
「なに?なんの制限?!転送する前に殺菌消毒しなきゃダメとか?!輸出禁止条約に引っかかるものはダメとか、関税を払わなきゃダメとか?!」
「大きなものはキミカちゃんの能力の限界に触れると思うんですにぃ…。ま、まぁ、吸い込むことが出来なくても死ぬわけじゃないから、試しにやってみるのもアリかなぁ…なんて思い始めたにぃ…」
「『やってみる』ではない…『やる』のだ。試しなどいらん」
「…もしダメでもボクチンを恨まないで欲しいぉ…」
「ケイスケは制限を掛けてるわけじゃないんでしょ?」
「ま、まぁ、制限はかけてはないけれど、キミカちゃんの能力だと転送したとしても戦車ぐらいが限界…のはず」
「んならOK牧場!」
俺は一旦目を瞑ってから、そして目を見開いて、目の前に吸い込もうとしている宇宙船の奥行き、高さ、重量などの大体のイメージを頭に叩きこんで、その周囲の空間ごと吸い込むイメージで『普段やってるのと同じく』キミカ部屋に引きこむように転送させた。
目の前の空間は一旦歪んで、まるで水が排水口に吸い込まれるように、俺が作り出したワームホール(多分)に吸い込まれていった。その一瞬で目の前の空間の空気も亜空間へと吸い込まれたので空気圧が少しだけ下がり、その場にいた全員が宇宙船が存在していたであろう位置へと少し引っ張られる。
「マジ…かよ…」
ソラの驚く声が聞こえた。
「凄いわ…これだけ大きなものも吸い込めるの?もう敵ごと吸い込んじゃうじゃないのこれ…」
キサラが言う。
敵ごと吸い込んでも敵のドロイドバスターは宇宙空間でも存在しえる能力があるから、俺の部屋(亜空間)内をめちゃくちゃにされる可能性があるわけだ。まさか吸い込むわけがないよ。
「一瞬、エーテル分離波を検知しましたわ…ワープ技術に使えそうな気がしなくも…さすがはキミカさん、想像の斜め上を跳躍していますわね」
などと持ってきたMBAの画面を見つめながらナツコが言うので、俺はそれに対して落ち着いた声で静かに言う。
「フォースは我と共にある…いかなる時も」
ん?何か俺は忘れているような気がするぞ…。
あぁ、そうだった。
「ごめん、忘れ物」
「え?」
「口寄せの術!」
印を結んで、再び宇宙船をこの宇宙空間へと召喚する。
「な、何を忘れたのよ?」
「えっと、ほら、部屋の中の小物とかそういうの、一緒に作ってもらおうと思ってて。宇宙船の中はカラなんだよね。タンスだとか、小物入れだとか、MBAを格納するためのバッグが入るクロークもね…あ、それと、大事なものを忘れてたよ!操縦マニュアルとかも全部作っておいてね!」
それから小一時間掛けて、シャトル内(宇宙船内)の備品などを準備した。キサラの好みにあわせて古美術っぽい感じの家具が俺の部屋の中のように宇宙船内に敷き詰められたのだ。
これだけ高級な『物置』は他にはない。
MapProのサーバ機も備え付けてもらったし、シャトル内にあるカーゴの中にはタチコマ(多脚戦車タイプのドロイド)も入れてあげた。ちなみに戦車はあと3台かそこらは入るぐらいの大きさである…どれぐらいこの宇宙船が大きいものなのかご想像していただけただろうか?
シャワールームやら食堂やらもあるのだけれど、俺はこの中は物置ぐらいにしか使えないからこれはキリカとか他の人を部屋に招待した時用かなぁ?
「いやぁ、本当に、いい誕生日プレゼント貰ったよ。ありがと」
と照れながらも俺はキサラに言う。
「ま、いいってことよ。あんたの誕生日会に行かずにコーネリアの誕生日会2次会に行ってエッチな事をしてたのは事実だしね」
なんてキサラが言うもんだから、途中でソラが、
「そこまで詳細に言わなくてもいいだろう!」
なんてツッコミをしている。
「んじゃ、そろそろ、キミカ部屋に吸い込むかな」
再び先ほどと同じように、奥行き、高さ、重量などを把握して周囲の空気も含めて全て、一気にキミカ部屋へと吸い込む。
ふむ。
いよいよ男にとっての『城』を持つ日が来たというわけか…しかもこの世界で個人用で宇宙船を、しかも早期警戒機を持つなんて出来るのは俺以外に居ないんじゃないのか?フヒヒ…さて、これを使って何をして遊んであげようか…。
今日は本当にいい物を貰ったなぁ…。
ん?
帰りの車に乗る時、ふと、俺は違和感を覚えた。
なんか来た時と帰る時で人数が違うような気がする。
ナツコにマコトにキサラにソラ…それから俺。
やっぱ1人足りない。
「あぁ、ケイスケ、後で車戻すからまずはラブホに向かって」
などとキサラは運転席に向かって言うのだ。
誰も居ない運転席に向かって。
「あれ?」
ソラも気づいたようで、
「デブはどうした?」
などと言ってる。
マコトとナツコが顔を見合わせてから、俺に向かって言う。
「もしかして…お兄様は…まだ宇宙船の中に…」
その深刻な表情に突拍子もなく俺は、
「あっはっはっは、まさかぁ」
と笑った。
…。
それから1分ぐらい考えた後、
「あっ…やべぇ」
そう言い、俺は宇宙船内に取り残されていたケイスケを引っ張りだして運転席に座らせた。
ケイスケはしばらく固まっている。
「ケイスケ?」
不安になってくるじゃないか、おい…確かにドロイドバスター以外の人間をこの空間に入れたのは始めてだけどさァ!!!
「け、ケイスケェ!!」
俺は心配になり、助手席のほうからケイスケを揺さぶった。
みんなも不安になったのだろう、後ろから運転席を突くなり叩くなり蹴るなりして、「起きろ!」「ジョーダンは肉だけにして!」「お兄様!早く起きないと深夜アニメの時間が過ぎてしまいますわよ!」「先生ィ!」と叫んでいる。
しばらくして…。
「(ガタガタガタガタガタガタ)」
ケイスケは白目を剥いてガタガタと揺れる。
揺れる。
揺れまくる。
どうしたというんだ、まさかあの亜空間にいたら、魂のリンクが切れてしまって他の何か良からぬものに、
「うそだッぴょぉぉーん」
と俺に向かって目を白黒させて言うケイスケ。
「はい、帰ろっか」
「ちょっぉぉぉぉッとぉぉぉ!!!キミカちゃーっぁん!!もうちょっと驚いて欲しいですにぃぃぃぃぃぃぁぁっ!!!」
「うん、驚いた。帰ろうね」
「…」