146 怒涛のマスカレーダー 1

今日は神戸・兵庫県警に来ていた。
警察官がドロイドに狙われるというテロが兵庫県で起きており、テロ対策課のミサカさんのご依頼で俺は数日間、兵庫県警でお手伝いをすることとなったのだ。じゃあミサカさんも来るんじゃないのかって?
それは俺が聞きたいぐらいである。
ミサカさんは重度の鬱病が再発し病院で治療を行なっているんじゃないのかな。手伝ってくれと言った本人がその後鬱病で入院するといういつものパターン…。
さて本題に入ろうか…。
ここ2週間前ぐらいから兵庫県警の警察官を中心に何者かにコントロールされていると思われるドロイドに怪我を負わせられるという事件が起きている。マスコミは『警察官』『ドロイド』の2つのキーワードが登場するこの事件に高いエンターテイメント性を感じたのだろうか、面白おかしく事件を装飾して発表した。今まで警察が何者かに襲われるという事件は起きてはいたが、どれもが『襲われた』後でマスコミに警察が公表する、というパターンだった。
今回の事件は犯人がまだ捕まっておらず『襲われている』状態。
普通なら警察内部でなんとか解決しようと試みるものなのだが、兵庫県警はそうとう悔しかったのか、犯人を捕まえるだけの技術がないのか、完全に大ぴらにしてつい先日は「ドロイドのセキュリティ関連の情報に詳しい方、募集します」などと会見で語ったぐらい。
俺は兵庫県警の玄関をくぐり3階までエレベータで進む。そして『警察官襲撃事件対策本部』と書かれている会議室へ入った。
中へ入ると初対面で相手に言うのは失礼とは思うが『ガラの悪そうな』ヤクザのような警察官どもが俺の顔を見ている。一瞬、俺は不良達が屯(たむろ)している袋小路に1人迷い込んでそのまま「場所間違えました」と言ってその場から立ち去りたいと思う心境になってしまった。
壇上の席に座っていた一番偉そうな警察官は俺に近づくと、満面の『作り笑顔』で俺に向かって、
「本庁から来られた藤崎さんですね」
と言った。
それから、
「佐々木です」と言い、ペコリと頭を下げる。
そんな声の隙間から「ちっ…女かよ…」という声も聞こえた。
どうやらここでは女の警察官は歓迎されていないらしい。
そうか。
俺はここでなぜミサカさんが鬱病になったのかを理解した。
鬱病の原因は99%ぐらいが人間関係。きっとミサカさんは以前はテロ対策班としてここに『来た』。そしてここで心に深い傷を負い、家の中の自分の空間へと閉じこもることとなったのだ…。ちなみにミサカさんの中では俺は心臓に剛毛が生えているぐらいに神経が図太い、と勝手に思い込んでいるようで代わりに俺をよこしたのだと容易に想像できた。
普通、テレビドラマなどでは本庁(警視庁)からお偉いさんが来た時はそのお偉いさんが指揮をとるわけだが、残念ながらそのお偉いさんは今回は俺であって、俺が偉そうに指揮などをとるわけがなく、会議室の隅っこにどっしりとお尻を降ろしてaiPadを広げて2chなどをジロジロと見ていた。
その間にもガラの悪そうなヤクザのような刑事達は俺を無視して話を進めている。どういう話なのか断片的に聞く。
「警察に恨みを持つ奴の犯行じゃねぇのか?前科のある奴でドロイドに知識がありそうな奴を片っ端から捕まえて吐かせてみるか?」
「しかしなぁ…前科のある奴でドロイドに精通している奴を洗い出すのは難しぞ。1人づつ聞いてまわるわけにもいかんだろうに」
「ドロイドの整備士でアニオタが怪しい」
「片っ端から適当に捕まえてきて吐かせてみれば吐くんじゃねーか?」
「アニオタは怪しいな。とりあえず数人しょっぴけばビビって吐くだろう。礼状なしでも大丈夫だ。連中はビビらせればなんでも自分に不利な事言うからな。前はそれで何人か捕まえたしな!」
「はっはっは!ひでぇ!」
…。
なんというレベルの低い会話だ。
ここで会議してる時間があったら外に出て聞き込みだとかやればいいのに、そんな適当な捜査で人を捕まえたら冤罪率半端ないじゃん?
俺はキミカ部屋からガムを引っ張りだして、それを口に含んでくっちゃくっちゃやりながらaiPadで『警察なぅ』とかツイートしたりしてた。
それから『兵庫県警』『クソ』とかいうキーワードでCoogle先生検索をしたりして、過去の兵庫県警の悪事をジロジロとみたりしてた。
もっとも警察官の不祥事が多いのが兵庫県警…ねぇ…。
なるほどガラが悪そうな理由はわかった。
まぁ、警察っていうのは悪と対峙する前衛となる連中だから悪を封じ込める為に悪っぽくなるのは仕方がない事だと誰かが言ってた気がする。あれは警察官24時っていうテレビ番組のなかだったっけなぁ…。
壇上の椅子に腰掛けてた一番偉そうな奴『佐々木』署長様は俺がおとなしく会議室の隅っこに座っているのを見てまず『意外』だと感じたようだが、それでもそっとしておくほうが会議はスムーズに進むとでも考えたのだろうか、チラチラとこちらを見るが話し掛けたりするようなことはなかった。
その時だ。
会議室に若い刑事らしき奴が飛び込んできて、
「通報がありました!例の家です!」
と言うのだ。
相当に慌ててる様子だ。
その若い刑事が、
「いま家の中で暴れてて、」
と言いかけたのだが年配の刑事達は無言だ。
若い刑事は無視されたのはいつものことなのだろうか、そのまま無言で出て行った。家の中で人が暴れてて…随分と物騒な家じゃないか。っていうか、警察は通報受けても何も動かないのかよ?
気になったので俺はこそっと会議室を抜けて、先ほどの若い刑事の後をついていく。その刑事、事務所に入ると椅子に深く腰をつけて電話口に待機していたもう一人の若い刑事に向かって首を振った。
「申し訳ございません、警察は民事不介入なんですよ」
もう一人の若い刑事、ケイスケまではいかないにしても小太りで動きはトロそうなその男は電話口に向かってそう言った。
そして、まだ受話器から声が聞こえているのにも関わらず、その刑事はボロっちい受話器を置いた。
「何があったの?」
俺は聞いてみる。
痩せてる方の若い刑事は俺のほうをみて「誰だコイツ」という表情をして固まったので、俺は懐から警察手帳(俺が刑事として行動する時には所持が義務付けられている、ミサカさんから貰ったもの)を出して、
「本庁の藤崎だけど」
と言った。
「いえ、なんでもありません、いつものことなんで…」
「でもさっき凄い慌ててたじゃん?」
「…」
なんでそこで黙るのか…。
「他の人には言わないから、何があったの?」
俺は少し『事情』を察してそう聞いてみる。
きっとこの新人の刑事は本当なら警察官としての仕事を全うしたいと思っているのだが、先輩の刑事達は『仕事を増やすな』と指示してるのだろう。
「実は…」
その刑事の話だと、ある家からの通報や、その家の近所からの通報が相次いでいるらしい。先輩の刑事からは『その家はもともとそういう家だから』という理由で取り合うなと言われた。
近所の噂ではヤクザの家系の家だからとか。
ただ、家から叫び声やら何かが焼ける臭い(肉系)だとか奇妙な噂や現象が後を絶たないから、一度何が起きているのか見に行く必要があるのではないか、という提案を先輩方にはしているのだが、とりあってもらえないらしい。
「んじゃ、一度行ってみるかなぁ、どこなの?」
「…それは…藤崎さんのお仕事ではないのでは?」
「別にいいよ。どうせオッサンどもは会議で忙しいみたいだし」
「俺は行きませんよ…」
んじゃ、1人でいくか。