145 誕生日プレゼント : 宇宙船 1

高校生のキミカこと俺は、まだ根に持っていた。
何を根に持っていたかと言うと、俺の誕生日を祝ってくれる人が誕生日前では3人しか居なかったからである。加えて言うと、後で「やっぱりキミカに悪い事をしたなぁ」と改心して俺に誕生日プレゼントをくれるなどという、「とりあえずコイツはうるさいから何か上げとけばおとなしくなるだろう」的な対応をしてきた奴もいるからだ。
子供ならプレゼントが貰えると大喜びでちょっと前の不幸な出来事なんてのは忘れてしまうだろうけれども、そういう意味では大人という生き物は子供よりもタチが悪く、例えプレゼントなどを貰ったとしても誕生会を開くと言ったのに集まったのは3人だったという事実が消え去るわけでもないから、全ての幸せにその不幸がマイナス換算され、結局、他人を信じれなくなって恨みだけがつのっていくのだ。…と、俺はイライラしながら廊下を歩いていると、授業を終えたばかりで教室から今しがた出てきた教師である「キサラ」が居た。
そう、俺を裏切ってコーネリアの誕生日会(2次会)で彼氏(ソラ)と大騒ぎをしていた不届き者である。
俺と、隣を並んで歩いていたキリカはすかさず鬼の面を取り出すとそれを装着して、ナマハゲと化して襲いかかるがごとくキサラを強襲した。
「ひぃぃぃぃいいっ!」
「君が!泣くまで!この踊りは!止めない!!」
俺はそう怒鳴りつけるとキサラの周囲を鬼の面を被った状態で威嚇しながら踊った。何も知らない人がみたら警察に通報するであろう恐るべき事態だ。
「どうすれば許してくれるのよォォォ!!!」
涙声でキサラは答える。
「過ぎ去った日々はもう戻らない…」
「何よ!来年も誕生日があるじゃないのよ!」
「17歳の誕生日はもう戻らない…」
「人は歳をとって大人になっていくのよ!いい経験をしたと思って心の奥底にしまっておきなさいよ!ぼっちのお誕生日会!」
「若い時の1分は40歳の1年だって言ってた」
「誰が?」
「アラフォーのおばさんが」
「過ぎた事をどうこう言ったってしょうがないじゃないの!明日に向かってどうするかを考えなさいよ!まだ未来のある若者でしょ!」
ものは言い様だな!
ったく、自分がしたことを棚に上げておいて!!
と、思いつつも、俺はさてキサラに反省の意味を含めて何を要求しようか考えていた。そう、先生の前で2名の生徒が鬼の面を被ったまま、首を傾げて、さてどうしたものかと悩んでいた。
「そうだ。キサラの物質創造の能力でしか作り出せないような超高価で絶対に金持ちとかでの手に入れることが出来ない凄いものが欲しい」
閃いて、それを口にする俺。
「じゃあ、何がいいのよ?ダイヤの塊とか?」
「そんなの持っててもなんの役にも立たないしなぁー」
「売ればお金持ちになれるわよ?」
「お誕生日のプレゼントなんだよ!売るとかじゃなくて!そうだ!売れないものとかもいいなー!資本主義から逸脱したようなものがいい!」
「ふぅ〜ん…ま、考えておいてね。あたしは忙しいから、また今度ね」
「ちッ…」
言うが早くキサラは颯爽と廊下を走って逃げていった。
ふむ。
何にしようか…。
俺はキリカの顔(鬼の面をかぶっている)をチラっと見てから、
「資本主義から逸脱したようなもの…金持ちでも手に入らないもの…」
と呪文の様に唱えた。
キリカは俺に向かって、
「愛?」
と聞く。
「まぁ、愛は…そりゃお金では手に入らないだろうけど…」
「愛を否定するの…?!」
「いや、キサラから貰うものだから…」
「…」
「キサラとエッチできる券とか」
キリカは無言で俺の足を踏んできた。
踏むその少し手前で俺は回避する。
「…」
さらに踏もうとするので回避。
「…」
さらに踏もうとするので回避。
…。
「ぜぇぜぇ…」
キリカ、息切れ。
体力切れるの早いなおいィ…。
さらに踏もうとするので俺はグラビティコントロールで自らの身体を持ち上げて宙に浮かび、足が二度と踏めないようにした。
「冗談だよ!冗談!」
「本気だったら、足を踏む程度では許されない…」
はいはい、ごめんなさいね…。
その日の夕方。
帰宅してから俺はいつものようにテレビのニュースを見ながらケイスケが作る夕ごはんを待つ。
ちなみにうちの家では料理はケイスケが作る場合とマコトが作る場合の2パターンあり、ケイスケは洋食、マコトは和食が専門である。
ケイスケが作るとその姿からアメリカンなファーストフードのように質よりも量重視で豚のエサと思われるような皿にはみ出んばかりの肉を想像するかと思われるが、意外にもケイスケは料理の腕はしっかりしており、イタリアンやらフレンチでも日本で定番のものではなくて家庭料理がメイン。と、いっても学生の俺はイタリアンやらフレンチの本場を知らないのでケイスケが作る家庭料理っぽい洋食については脳内のアドレナリンは噴出を控えてしまう。
どっちかっていうとミートソーススパゲティやらステーキやらの『定番』が出ると楽しくなるわけである。
今日はガーリックトーストカルパッチョ、そしてカルボナーラのようだ。
と、そこでニュースが流れる。
日本管理下の宇宙ステーションで新たに軍の早期警戒機が1機追加されたということだ。映像には宇宙ステーションからゆっくりと切り離されて惑星軌道上に移動する白い美しいデザインの4つの羽根が印象的な宇宙船が見える。
『疾風(はやて)』と名付けられたその宇宙船は、地球の軌道上から日本近辺を周回し、敵国の領空侵犯・成層圏侵犯を早期に検知して必要であれば迎撃する能力を備えている、らしい。
パイルドライバーという兵器を搭載している。
『パイル』はアダマンタイト合金と呼ばれる超硬度な金属の塊が円錐状となった形に加工されたもので、軌道上から地球に向けて発射されると超高速で大気圏を突入し、誤差数ミリの精度で地面に突き刺さり、衝撃波で半径数百キロを焦土と化す能力も備えている。既に早期警戒機という枠組みを超えた宇宙船だ。
プラズマフィールドなどのバリアーが使われる前は物理攻撃で最大のパワーを誇っていたらしい。
夕方のニュースで軍事系のニュースばかりやると思ったら右翼系のチャンネルだったか…それにしても…この『疾風(はやて)』カッコいいなぁ。
ん?
これ、いいかもしんないぞ?
これ欲しいな!
俺は興奮気味にテレビを見入っていた。